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老人パワー・・・三文太郎の戯曲

2012-07-23 11:01:52 | 三文太郎の戯曲
 3月24日(火)

今日は、私の処女作の一部を掲載します。             


                 「老人パワー」

                                              作 三文太郎
    登場人物

山田 明夫 元中小企業社長、会社が倒産して借金を抱えここに引っ越してきたが、ひつこい取り立てを受けている。
山田 春子 明夫の妻、昔は社長夫人としてセレブな生活を送っていた。
田中 正男 エリートサラリーマン(銀行員)だったが、5年前から妻が認知症を患った為、会社を辞め妻の介護をしている。
田中 明美 正男の妻、認知症になり夫の介護を受けている。
斉藤 忠志 おまわりさん、定年マジかだが、以前一人娘を交通事故で亡くし、そのショックで妻もなくなり現在一人ぼっち。
川上 義男 妻から熟年離婚をされて、やもめ暮らしをしている。職業は転々とした。

          一場

       場所は、アパートの田中明夫の部屋。
       山田夫妻が、田中の部屋に遊びに来たと所から始まる。

春子    奥さんお加減は如何ですか?

明美    (春子に手を差し伸べて)礼ちゃん、おんぶ。

春子    え?

正男    いらっしゃい・・・ああ・・・礼ちゃんは、礼子と言って明美の母親代わりの姉で、大変可愛がられていたようです

春子    そうだったんですか?

正男    昔の姉のことはよく思い出すんですが、最近のことは・・・今、食ったばかりの食事のことも、すぐ忘れてしまいま      す。
       
       明美はお手玉をいじって何やら独り言をつぶやいている。

明夫    ご病気に成られて、どれくらいになるんですか?

正男    五年くらい前からおかしくなって、三年ほど前からはこういう状況になりました。
      誰も明美の世話をしてくれる者がいなかったので、私が会社を辞めて面倒をみることにしました。

春子    どこか、施設に預けることはできないのですか?(明夫に)ねえ・・・

正男    特養に申し込んでいるんですが、なかなか空きがなくて、最初は五百人待ちだったんです。
      今は百人待ちになったようですが・・・何時になったら入れることやら・・・

春子    そうですか?・・・大変なんですね。

明夫    日本の福祉行政は遅れていますからね!何とかしてもらいたいもんです。

正男    それでも週五回訪問看護士が来て一時間ほど面倒を見てくれます。
      買い物などは、その時済ませます。
      それに週一回出張入浴も来てくれますので、何とかやっています。

春子    後は、ご主人がお一人で見ていらっしゃるんですね!

正男    はい、食事から、下の世話まで・・・

明夫、春子 つらいですねえ!

正男    これも運命だと諦めています。でも、時々いっそ妻を・・・そして自分も死んでしまえば、楽になるんだろうなあと
      思うことがありますね。
       
       春子、明夫無言で顔を見合わせる。
       相変わらず明美は、お手玉をいじりながらブツブツと独り言を言っている。

正男    ・・・所で、山田さんの所におっかない人が訪ねてきているようですが・・・

明夫    ああ・・・あれですか?

春子    借金の取り立てなんですのよ。
      この人、人がいいもんですから、知人の保証人になりましたの・・・其の人が夜逃げしまして・・・それにこの不景
      気でしょう。

明夫    銀行は、これ以上貸してくれるどころか今までの借金を返済しろと言うし、従業員には給料は払わねばならないし、
      背に腹は代えられず、とうとう町金融に手を出したのがこの始末です。

正男    銀行は、いざとなると冷たいですからね!
      私も昔は銀行員でしたから良く解ります。

明夫    そのあとは、お決まりの通りにっちもさっちも行かなくなって倒産ですよ。

春子    家も、工場も何もかも抵当に入っていて全部持っていかれましたわ。
      それでも、まだ、町金融の分は少し残っていて、ああして毎日取り立てを受けているんですのよ。

明夫    この不景気で、働くところもありませんしね。
      其のうちに妻と心中でもするしかないなんて、話しているんですよ。

正男    そうでしたか・・・皆、それぞれ大変ですね!

明美    (大声で)めし、めし、おなかすいたよ・・・

       明美暴れだして、めし、めしと叫びながらお手玉やそこいらにある物を、かたっぱしから投げ始める。

正男    (明美に近ずて)さっき食ったばかりじゃないか。

明美    食ってない。めし食ってない。

       明美、正男にしがみつく。

正男    夕飯まで、待ちなさい。

明美    腹減った。めし、めし・・・腹減ったよ。

       明美は、明夫の所に行って明夫に取りすがって訴えた。
       正男は、段々イライラしてくる。
       明夫は、途方に暮れて、春子の方へ助けを求めるように視線を送った。
       正男は、明美の手をとると明夫から力ずよく引き離した。

正男    いい加減にしろ・・・
       正男、明美を力いっぱい突き飛ばす。
       そして、平手で明美の顔を殴る。

明夫    な、何をするんですか・・・病気の奥さんに手荒な事を・・・

正男    あんたには、関係ない、引っ込んどいてもらおう。

明夫    引っ込んどいてくれ・・・相手は、病気の女性ですよ。
      引っ込んでいられません。

正男    ほっといてくれ!

       正男、明美を捕まえて殴ろうとする。

明夫    ほっとけません。

       明夫は、正男にとびかかりとめようとする。
       正男は、明夫に向って殴りかかる。二人の取っ組み合いが始まる。

春子    やめて!貴方辞めてください。

       春子が止めようとするが、止まらない。春子思い悩んで交番に電話を入れる。

春子    (電話に)おまわりさん大変なの、すぐ来て・・・主人と田中さんが・・・お願い。早く!早く・・・一丁目の神風
      アパート・・・そう、すぐ来て頂戴・・・

       春子受話器を置く。
       そこへ、同じアパートの住人川上義男が、田中の部屋に入ってくる。

義男    どうしたんです?

春子    良いところへお出で下さいました。主人と田中さんが喧嘩を始めましたの、止めて、止めてください。

義男    二人ともどうしたんですか?大の大人が喧嘩なんか・・・

       明夫と正男は、まだつかみあっている。
       義男二人の間に割って入る。
       ようやく、二人の喧嘩が収まる。
       明美は、相変わらずめし、めしとわめいている。

春子    (夫に)なんですか・・・みっともないったらありゃしない。

明夫    面目ない・・・(正男に)申し訳ありませんでした。つい、かっとなってしまいました。

正男    こちらこそ、大人げないことを・・・

義男    お二人とも、お若いですな!喧嘩する元気があるんですから・・・

明夫    いや、いや、面目ない!

       正男、台所に行きパンを持ってきて、明美に与える。
       明美、正男からパンをひったくってむしゃぶりつく。
       そこへおまわりの斉藤忠志現る。

忠志    こんにちは。どうかなさいました?

春子    ああ、おまわりさん、私がお電話さし上げましたの。でも、川上さんが来て下さいましたので、喧嘩は収まりました
      わ。

忠志    そうですか!それは良かった。・・・山田さんと川上さんは、初めてですね。
      ちょうどいい機会ですから少しお話をお聞かせ下さい。

正男    さあ、どうぞ、おあがり下さい。

       正男が、おまわりの斉藤忠志を部屋に通した。

忠志    最近こちらへ引っ越ししてこられた川上さんと山田さん、少しばかりご協力ください。
      では、川上さんからお尋ねします。
      川上さん、ご家族は?

義男    半年前にこちらに引っ越ししてきた川上義男です。
      離婚届をかかあに突きつけられて・・・今流行りの熟年離婚ってやつですよ。

春子    どうしてそんな事になったんですか?

義男    私に甲斐性がないからですかね。

春子    まあ、そんな・・・

義男    私は、若い時は、まあ、普通のサラリーマンだったんですがね。結婚して、しばらくは平和に暮らしていたんです       が、ある時、会社が倒産しましてから、人生が変わりました。
      再就職を希望して、あちこちに就職はしましたが、どこも私には合わなくて、半年とか一年で辞めてしまいました。

忠志    それから、決まった仕事には・・・

義男    ええ、其のうちに私を雇ってくれるところが、なくなりました。

忠志    それで・・・

義男    競馬、やパチンコで食いつないでいました。

春子    競馬やパチンコは、食うほど稼げるんですか?

義男    儲かる時は、結構、儲かるんですよ。

春子    ほんとですか?

       春子、明夫と顔を合わせた。

義男    一人娘の奈津美に結婚する相手が決まると、定職のない私が疎ましくなって、女房のやつ離婚を言い出してさっと離      婚届を出したというわけです。

忠志    娘さんがいらしたんですか?

義男    ええ、一人娘です。

春子    結婚なさったんですね!

義男    ええ、三か月前に・・・でも、結婚式には出さしてもらえませんでした。

春子    まあ、お気の毒に・・・

忠志    川上さん、ご事情、よくわかりました。
      (明夫の方に向いて)所で、山田さんのところは?

春子    山田春子と申します。こちらは、主人の明夫でございます。

忠志    山田明夫さんに奥さんが春子さんですね。

明夫    はい、山田明夫です。

春子    三か月前に会社が倒産しまして、大きな家も会社もすべて借金の方に持っていかれてしまいましたの・・・

忠志    ご家族は、ご主人と二人ですか?

春子    はい、主人と二人きりですわ。

忠志    他にご家族は?

春子    いいえ、私には子供は授かりませんでしたの・・・それに私たちの両親もとっくに亡くなっていますわ。

忠志    そうですか・・・皆さんそれぞれ大変なんですね。

正男    おまわりさんも、大変なことを体験されたんでしょう・・・近所の人達から噂は聞いています。

忠志    はあ、そうですか?ご近所の人達が・・・まあ、皆さんと同じで、いろいろありました。

春子    どんなことですの・・・

忠志    どうといわれても・・・まあ、ご存知の方も多いようですから、お話しましょう。

義男    待ってました。

忠志    自分も皆さんと年はそう変わらないと思います。
      今月末が定年ですから・・・

明夫    長い間、ご苦労様でした。

忠志    自分は、十年ほど前、一人娘を交通事故で亡くしました。
      遅くにやっと出来た子供でしたから、自分も女房もそれはそれは可愛がりました。

春子    お気の毒に・・・

忠志    女房の嘆き様は、尋常ではありませんでした。

春子    お察ししますわ。

忠志    何時まで経っても泣いてばかりで・・・家の中は、まるで灯が消えたように暗い毎日でした。

春子    おいたわしい・・・

忠志    ある日、自分が勤めから帰ってみると、女房が居間の鴨居で首をつっていました。

春子    まあ・・・(夫の明夫と顔を見合わ合す)

忠志    テーブルには、桃子の、娘の名前です・・・側に行きます・・・ごめんなさい。と言う書置きがありました。

春子    お辛かったでしょうね。

忠志    あれから十年、何とかここまで来ましたが、時々、女房と娘の所へ行きたいと思うことがあります。

       一同沈黙。その沈黙を破って・・・

明美    礼ちゃん何処、何処に行ったの・・・

                                               暗転

                                                  二場へ続く