シングルDX （寝台特急「ふじぶさ」）

 

1600。
熊本発東京行きの寝台列車に乗ります。
かつて一世を風靡したブルートレイン。
そして今ではほとんどが姿を消したブルートレイン。
その生き残り、乗り込むのは「はやぶさ」です。

かつて「はやぶさ」は、東京⇔西鹿児島（現：鹿児島中央）をつなぐ、日本で最も運行距離の長い寝台列車でした。しかし航空路線の発達、九州新幹線の建設など、多くの要因が重なり利用客は激減、営業運転も熊本までとなってしまいました。
このまま推移すれば、いずれ「はやぶさ」を含むブルートレインは絶滅するでしょう。
おそらく10年以内には。。。

というわけで、チャンスがあればぜひ「はやぶさ」に乗ってみたかったのです。
しかも、Ａ寝台個室「シングルＤＸ」に。

いたっきいはＡ寝台（簡単に言うと、値段の高い寝台車両）に乗ったことがありません。
Ｂ寝台は、小学生くらいのころ家族旅行で乗ったり、スキーに行くときに乗ったりした記憶があります。
Ｂ寝台個室としては、サンライズ（高松・出雲市⇔東京）や9月に「あけぼの」（上野⇔青森）に乗った程度。
当然「はやぶさ」にもＢ寝台個室はありますが、今回はなんとしてもＡ寝台個室に乗ってみたかったのです。なくなる前に・・・
ちなみに進行方向を向いて座りたかったので、座席（部屋）も指定してチケットを買っています。

では、東京までの17時間58分を過ごす車内を見てみましょう。

　
　Ａ寝台シングルＤＸ

さっそく、なぜか持っていたメジャーでサイズ計測です。
幅120cm、奥行き195cm、高さ230cm。座席兼ベッドの幅70cm。
座席は、寝るときは座面をスライドさせて広くすることができます。

室内にはテーブル、鏡、ハンガーに枕に毛布、そして浴衣。
ゴミ箱やティッシュペーパーも置いてあり、お土産のタオルもあります。
AC100Vのコンセントもついていますので、ノートパソコン程度は問題なく使えます。

　
　廊下側を見る

エアコンのコントローラー、読書灯、JNR（国鉄）のロゴのままだった温度計があり、ドア上は大きな荷物置きになっています。部屋のカギはテンキーによる暗証番号式です。

そしてなによりＡ個室最大の？贅沢はこれ↓

　

この邪魔な位置にあるテーブル。これを持ち上げると・・・

　

なんと！洗面台が出てくるのです。
しかもお湯もでます。こっそり石鹸もついています。
列車にしては贅沢な造りです。
唯一足りないのは、車内販売がないことでしょうか。
そのおかげで、出発前に熊本駅で食べ物と飲み物を大量に買ってくる必要がありました。

　
　大量に購入した食べ物、飲み物。ぐふふ

日が暮れるまでは、車窓の風景を楽しみます。
列車は九州を北上中。
延伸工事中の九州新幹線（上写真）も見えていました。
ボーッと外を見ている間に日が暮れ・・・

　
　日が暮れたらしばらくはメールチェック、インターネット

AC100V電源もあるのでなんでもできます。
普段とそう変わらない生活です。

さて。
「はやぶさ」には、九州から本州に入るときにマニア垂涎のイベント？が用意されています。
関門トンネルを通過する前後に、列車を牽引する機関車を2度も交換するのです。

熊本⇔門司間は、交流区間ということもありED76。
門司⇔下関間は、関門トンネル専用機EF81-400番台。交直両用。
下関⇔東京間は、直流のEF66。
なお、交直切り替えのデッドセクションは門司駅構内にあるそうです。

門司駅到着は1855頃。
まず、ここまで「はやぶさ」を牽いてきたED76が切り離され、車庫に引き上げていきます。
次に、待機していたEF81が接近。

　
　EF81が「はやぶさ」に近づく

連結し、通電とブレーキのテストを終えたら・・・

　
　なんと乗客を乗せたまま「はやぶさ」はいったん車庫線へ

1905。
大分からやってきた寝台特急「富士」が到着します。
実は「はやぶさ」と「富士」はここ門司駅で一つの編成につながり、東京を目指すのです。
今回のタイトルに「ふじぶさ」と書いたのはこのためです。

　
　ホーム後半部に停車した「富士」

ここまで「富士」を牽いてきたED76は、このまま車庫に引き上げます。
続いて、乗客を乗せたまま車庫線に入っていた「はやぶさ」が後進でホームに入ってきます。

　
　左が「富士」、右がバックする「はやぶさ」

無事連結。
これで「ふじぶさ」の完成です。

1915門司駅発。
わずか6分後の1921には関門トンネルを抜け、下関に到着。
ここでEF81は車庫に引き上げ、ここから東京までの約15時間、1096kmを牽引するEF66にバトンタッチします。

　
　下関駅構内にて。EF66の連結作業

マニアのわくわくする時間も終わりです。
1927下関発、一路、東京を目指します。

部屋の灯りを消し、車窓の景色を楽しみます。
この日は月が出ていて、瀬戸内の海面がキラキラ輝いていました。
そろそろ小腹がすいてきたので、弁当を食べましょう・・・

　

と思ったら、2237広島駅に着きました。
ホームに寒そうに立っていたおっちゃんと目が合ってしまいます。
そうか、今日は平日か。
あらためてサラリーマンではなくなった我が身を再認識。
おっちゃん、スーツにコート。いたっきい、浴衣で手にお茶。。。

 

・・・がはははは。いたらきまーっす！
あ、おっちゃんまだ見てやがる。

その後ものんびりと外を眺め続け、実家のある兵庫県赤穂市を過ぎ、姫路駅を過ぎ、明石海峡大橋をくぐったのを確認しzzz・・・

 

 

0730静岡駅発車。
このときに目が覚めます。
例の部屋備え付け洗面台で顔を洗い、ひげを剃ります。
てか、お湯熱すぎ。

天候は、快晴。
富士山もきれいです。
車掌も「左手にきれいな富士山が見えています」とアナウンスしていました。

　
　富士市付近から

小田原を過ぎると、景色が一変。
駅間距離が短くなり、ホームにいる人の数が増え、家々の感覚が狭くなり、ゴチャゴチャしてきます。
少しずつ現実に引き戻されていくのを感じます。

0958東京駅着。
やけにのんびりしていた今回の旅も終わりです。
一晩で1000km以上走り続けたEF66、おつかれさま。

　
　「はやぶさ」ヘッドマークをつけたEF66 43号機

熊本⇔東京間約18時間。運賃約3万円（Ａ寝台）。
航空機の10倍の時間をかけ、航空機よりも高い料金で列車に乗る。
常識的に考えれば、この選択はないでしょう。
ブルートレインが消えつつあるのも納得できます。
しかしブルートレインを、単なる移動手段ではなく移動そのものを楽しむものと考えれば話は別。
時間さえあれば、これからもこんな旅をしたいと考える今日この頃です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際に時間だけは掃いて捨てるほどあるわけですが・・・