映画『ノマドランド』の原作 『ノマド』を読みました。
ジェシカ・ブルダー著
鈴木素子訳
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/1b/861628bae2145f15b1ac967ca58ec220.jpg?1625985804)
『クララとお日さま』を借りにいって、一緒に県立図書館で借りた本です。
映画が良いという評判を見たけど、こちらで見られるのかは不明なので原作を読んでみようと検索したら、県立図書館にありました!
県立図書館えらいな〜〜(私が検索かける本を多く所蔵してるという事ですが)
この本は日本では2018年に出版されてますが、2017年にアメリカで出た本のようです。
副題は「漂流する高齢労働者たち」
コロナが流行るのと前後して日本でもノマドという言葉を聞くようになりました。
ノマドはもともとは遊牧民を指す言葉だったのが、定住せずに旅や移動をしながら暮らす事を言うようになったようです。
今の日本では主に若い人が自分の住居を一か所に決めずに、少しの持ち物で移動しながら仕事をしたり暮らしたりするっていう印象です。新しいライフスタイルという感じで、肯定的に使われている事が多いような。仕事もネットを使ってできる仕事をしている人が多く紹介されていました。
でも、この本で語られているのはアメリカの高齢者たちが抱える問題が凝縮した形態としてのノマド。
普通に生活していたいわゆる中流と言われていた人々さえもがリーマンショックなどの経済破綻をきっかけに生活を維持できなくなってしまった実態がリアルに書かれています。
特に50代以上で急に職を失い、住んでいた家を維持できなくなり、家を売ろうと思っても売れなくなり、光熱費や保険料、医療費などがかさむことによってにっちもさっちも行かなくなった人たち。
大学を出て、地道に働き、相当良い職についていても、一瞬でそれまで描いていた人生が変わってしまった人がアメリカには沢山いたんだなと。
ローンを組んで学費を払ったのに途中でやめざるを得なかったり、大学を出ても借金を持っている若者たちも。
どうにも家を維持できなくなった人たちの選択肢の一つが車で暮らしながら季節労働をして暮らすという事。それをノマドとアメリカではよんでいるようです。
私の日本で持っていたノマドのイメージとは違いました。
季節労働をしながらキャンピングカーで移動している人達をワーキャンパーと呼ぶそうです。
そういう人達をインタビューし、著者自らもキャンピングカーで暮らし、季節労働をしてみるということもしつつ書いたこの本は、日本にいては分からないアメリカの一面を見せてもらったなと思います。
60歳を過ぎてからの肉体労働は過酷だし、びっくりするほどの労働環境と賃金の低さ。そして、農業などと同じように代表的な季節労働場所がAmazonの倉庫作業であるというところが、なんとも暗澹とする現実です。
どこかで、私たちが利用している安い大量生産の服を作っているアジアの国の労働条件も過酷であるというのを見ましたが、そういう過酷な労働力に加えて、アメリカでの通信販売の過酷な労働を突きつけられると、なんだかな〜〜と思いました。
アメリカではシステムとしてワーキャンパーが産業の一部に組み込まれている様子になってるところがいかにも合理的であり、搾取的でもあるという事実。
今私が利用している事も、色々な問題をはらんでいるんだろうなと考えさせられる本。
しかし、この本に出てくるキャンピングカーなどを住まいとし、労働しながら移動している人々は、自分で選んでこの道を選んだということに誇りを持っている人が多いというのがアメリカ的な自立心を感じるところでもありました。
決してホームレスではないというプライドもまだ持ち合わせている。
そして、自分でなんでも修理したり、助けあったりするところが凄いところでもあります。また、多くのノマドの人々はパートナーとして犬や猫などと一緒に暮らしているのが印象的でした。
私がキャンピングカーで移動している人達というのを初めて見たのは、映画の『ギルバート・グレイプ』の中です。若きジョニー・ディップ演じるギルバートの彼女になる女の子がキャンピングカーで移動しながら暮らす祖母と一緒にキャンピングカーで暮らしているという設定だった。
素敵なキャンピングカーで悠々自適って感じで暮らしていて、なんだか自由の象徴のようだった。また来年戻って来るっていってたな。あそこで描かれた人達はどんな人だったんだろうか?と今更疑問に思ったのでした。映画の中ではお金に余裕があってリタイアした祖母が楽しみで旅をしているって感じでしたが。
全く関係ないですが、この映画の中で知的障害のある弟を演じたのが少年の頃のデカプリオ。本当に素晴らしい演技でした。この映画でジョニー・ディップとデカプリオのファンになりました😉
好きな映画で、キャンピングカーが颯爽と出発するシーンが印象的だったので、思い出しました。
さて、この本に出てきた方々はコロナの流行でどうなさったかしら?と考えてしまいました。
日本にいると、アメリカの高齢者は株の運用を以前からしていてリッチになってますよというイメージの本が沢山出ています。その陰の部分ではマネーゲームに翻弄されたり、地道に暮らしていたのに急に破綻したりという人々が沢山いるのが、今のアメリカなんだなと実感できた本でした。
はっきりと見えないけれど、日本でも同じような事が起きていて、コロナでさらに悪化しているのかもしれません。
『クララとお日さま』に続いて、違う角度ではありますが色々と考えさせられる本でした。とても興味深かったです。
映画も見てみたいと思います。