20代の後半頃でしたか、横浜の保土ヶ谷という所に住んでいました。
ここは江戸時代は東海道に面した宿場町だった地域で、女郎屋なども
明治の頃まで残っていたそうです。
ある夜、寝ていると足元の方から重石が乗ってくるように感じました。
それがだんだん膝から腰へ、腰から腹へと上がってくるのです。
そしてついに胸の処までくると、ぐーっと重さを増し、全身が金縛り
状態になりそうだったので、「何だ?これは?」と掛け布団を思い切り
跳ね上げました。
電気をつけてよく見回しましたが、怪しいものは見あたりません。
体が疲れていたので夢でも見ていたのだろうと思いました。
ところがその後、何度もおなじ現象に遭います。
30代で茨城に引っ越し、公団の団地に入居しました。
しかしここでもやはり同じ現象が起きます。
60代で別の地域に引っ越しましたが、やはり同じ現象が起きます。
ようし、こうなったら妖怪の正体を突き止めてやろうと、
ある晩、寝床の中で手ぐすね引いて待ち構えます。
「奴が這い上がってきたら、その首根っこを押さえてやろう」と
掛け布団の下で、右腕をくの字に曲げて、待ち構えています。
敵を油断させるために寝たふりをする。
すると、来たっ!
もう長年の付き合いだから、気配でわかるのです。
いつもの定番コースで、足首から”のしっ”と乗ってきた。
そして膝から腰へ、腹まで来た時に、「どんな野郎か見てやろう」と
気づかれないように薄眼を開けて見た。
黒い影法師のシルエットが見える。頭は坊主頭のようだ。
(なんだ、女じゃなかったのか)
ついに胸までのしかかって来た。
「今だっ!」我輩は思いっきり右手で妖怪の首根っこあたりを
押さえ込んだ。
つもりだったが、電気をつけてみると、何者もいない。
だが、それ以来、金縛り現象は無くなった。
妖怪も意表を突かれて、余程驚いたのだろう。
(その何年か後、頚椎の損傷で首を手術することになったが、
まさか、これが原因・・?)