「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和弐年(2020)3月12日(木曜日)
通巻6398号 <前日発行>
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米国、新戦略核兵器削減条約(START3の次)に中国加盟をと北京に圧力
中国は「核軍縮には応じない」と公式立場を繰り返すのみ
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2020年2月5日から、米露2国間では新・戦略核兵器削減交渉が開始されている。現行のSTART3(モスクワ条約)が2021年に失効するため、あたらしい取り決めが必要だからだ。
米国は、この交渉に米露のみかわ、核兵器多数を保有する軍事国家・中国を条約に加盟させて世界的な安定を高めるべきという立場である。
1980年代から交渉がはじめられた戦略核削減の根幹にある発想は、バランスオブパワーの延長であることに代わりはない。
原水爆禁止の声をよそに、核技術の革命的発展によって一つのミサイルに複数の弾頭が搭載される。その核弾頭の合計数の削減、多核弾頭化(MIRV)の禁止、潜水鑑発射のドローン搭載制限、運搬手段として戦略爆撃機の上限設定などで、基本的な米露双方の核弾頭の上限はSTART1では6000発、戦略的運搬機600機以内となり、START3では、米露はそれぞれが核弾頭1550,戦略爆撃機700機となっている。
2010年に発効した新START3は、上限弾頭が4900,これを2012年からはさらに削減して双方合計で3500発以下とし、MIRV禁止を盛り込んだ。ところが、土壇場でロシア議会が批准せず、このため補完的な「モスクワ条約」(事実上のSTART3
3)で暫定措置が取られ、現在に至っている。
トランプ政権は中国の核大国としての台頭という現実に直面して、ロシアとの間の中距離核弾頭制限(INF)を廃棄し、中距離弾頭ミサイルの再生産に入った。
いずれにしても、中国はすでに核弾頭多数,その殆どが水爆を十二個搭載し、同時に十二の標的を狙えるMIRVである。
くわえて潜水艦発射の巡航ミサイルへの核搭載もかなり保有している。
このため中国を加えた新戦略核兵器削減条約が必要と米国が判断するに至ったのだが、中国は「加盟しない、核軍縮には応じない」と公式立場を繰り返すばかり。すなわち中国は「世界の安定と秩序は望みません」と世界に宣言しているのである。