タイの新聞は毎日、バンコク北部で騒いでいる被災住民の抗議活動を大きく取り上げています。昨日は当局との交渉がうまくいかず、不満を持った住民が幹線道路を封鎖する騒ぎになり、現場は大混乱が続いているようです。長く水没している地区の排水が一向に進んでおらず、我慢できない住民による力ずくの抗議によって、バンコク北部の交通状況の悪化に拍車がかかっています。
当局は、土嚢の撤去は、逆に洪水からの回復を遅らせるとして住民の説得にあたっているようですが、かれこれ1か月も自宅が浸かり、水が引くハッキリしたメドの立たない住民は、異常な心理状態になってきたようです。
妻の親戚(妻の父の妹の一家)がホックワ運河にほど近いミンブリーに住んでいるのですが、ずーっと学校で避難生活を送っています。バンコク都内の学校は12月1日から授業を再開させるようで、彼らは、避難所から出て行くように通告されたそうです。
ところが彼らの家はまだ水に浸かったままで、とても帰ることなどできません。その親戚は、この週末から、妻の家(というか私の家)に水が引くまで住んでもらうことにしたのですが、そういうことのできない人もたくさんいるようです。ことほど左様に、行政のやることは杓子定規なので、住民の怒りも理解できないわけではありません。
ただし、その怒りを道路封鎖という手段で、何の関係もない人に向けるのは、どう考えてもいただけないような気がします。土嚢のバリアーを挟んで、バンコク(周辺)の住民を二つに分けてしまったのは、確かに政治の責任でもあると思いますが。
さて、話は日本に移ります。性質の悪い洪水のおかげで大打撃を受けている日本のものづくりを再生させるべく、タイから熟練工が多数日本に来ています。
今夜のNHKのニュースによると、昭和電工という自動車部品(熱交換器)を製造している会社が、これまでタイでしか作っていなかった部品を急遽日本国内の工場で生産することになり、タイから熟練した工員を呼びました。部品製造に欠かせないのは「金型(カナガタ)」というものらしいです。タイで水没した「金型」を日本に持ってきて修復し、それを使って熱交換器の製造を始めたというのです。
でも金型があったら作れるというものではありません。これまで熱交換器はタイの工場でしか製造されていませんでしたから、日本の従業員では作ることができません。技術を習得しているタイの人たちを呼び寄せなければならなかったのです。日系企業の被災にともなって、日本政府もタイ人の入国条件を緩和し、一定期間、日本で仕事をすることを認めたもので、タイでの生産が回復する来年春まで日本に滞在する人が多いということです。
タイで製造できなくなった部品を日本の工場で作るために、昭和電工だけではなく、たくさんのメーカーがタイ人を日本に呼び寄せているようです。その数は、最終的には3000人以上になると言われています。全員きれいな寮やアパートに住んで、給料もなんとタイの10倍くらいになるそうですよ。タイ人にとっても、割のいい出稼ぎですね。そういえば、テレビに映っているタイ人はみんなニコニコでした。
ニュースを見ていて、日本人の従業員が、タイの熟練工に指導を受ける姿は確かに印象的でした。今やタイ人がものづくりの先生になっているのです。しかし、うらを返せば、日本の「技術の空洞化」が進んでいるわけで、その現実を目の当たりに見せられると、ちょっと悲しい感じもします。わたしも 日本人ですから。
日本のメーカーがものづくりの技術をタイに移転していった歴史は、トヨタ自動車の長年にわたる取り組みがよく知られています。その歴史を研究している人の話によると、最大のポイントは、現場を任せられる中間管理者の養成だったそうです。どうもタイ人というと「サバーイ、サバーイ」の感覚で、楽ばかりしようとするイメージがあるのですが、実際は全くそのようなことはなく、単に日本の技術を身に着けたというだけでなく、自分たちで開発する創造性のある人材や、きちんと現場を管理できる管理職が育っていったのです。専門家によると、タイがほかの国と決定的に違うところがそこで、たとえばベトナムへの工場進出が進んでいますが、今後はともかく、今はタイ人の資質にはまだ遠く及ばないのだそうです。
グローバル化によって国際的な分業が進み、それは単にタイに工場が造られていったというだけでなく、最も大事な技術力も移転していったわけです。それを「空洞化」という一言で片づけることはできない複雑な事情があるのですが、考えてみれば、今のものづくりは、日本人とタイ人のコラボレーションで成立しているわけです。
その構図が今回の災害で壊れることなく、さらに発展することを、私は願っています。
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理由は、「日本の若い従業員には高度な技術を覚える根気が無い」ということでした…。
このニュースは私も見ましたが、「日本の空洞化」は「始まっている」のではなく、「完了しつつあるんだな」というのが、私の感想です。
日本の技術の大部分が外国に移転してしまったわけではなく、まだまだ真似のできない技術が日本で開発・継承されているとは思います。とくにモノをつくる「製造技術」ではなく、一番肝心な「製品の構想力」つまり「設計力」は、まだ追いつかれていない分野があると信じています。しかし、マーケットのニーズに合った構想力・設計力を発揮できる人材は海外で育っていますから、「技術大国日本」などといって奢っているうち追い越されていくのは目に見えていますね。
韓国には家電では完全に追い越されたと思いますし、次は自動車かも知れません。日本では競争を嫌う若者が増えたことと関係があるかもしれませんね。