楽園づくり ~わが家のチェンマイ移住日記~

日本とタイで別々に生活してきた私たち家族は、チェンマイに家を建てて一緒に暮らし始めました。日常の出来事を綴っていきます。

遺言状

2017-05-10 16:53:36 | タイの家族

妻は、2年以上前に右の腋に乳がんが転移しました。つい最近、両方の肺にまで達していることが分かりました。右腋の皮膚にまで広がっている癌性の傷をケア(洗浄)するために、この1年くらい、毎日地域の病院と診療所に通ってきました。

昨日はかなり体調が悪化していたので、軽めのボンベを車に積んで、酸素吸入しながら診療所へ行きました。いつものように馴染みの看護婦さんが車いすに乗ったままの妻の傷の洗浄をしてくれました。そして昨日は、診療所の医者も診てくれました。その医者が、驚くべきことを同行していた叔母さんに言いました。

「今はとても危険な状態です。何があってもおかしくないと思います。今夜は、一番好きなものを食べさせてあげてください。」

私は処置室の外にいたので、このやりとりを直接は聞いていません。あとから叔母さんが教えてくれました。そして「サーモンの刺身とカニを買ってきてあげて」と私に言いました。妻がその二つを食べたいと言ったそうなのです。

まさか・・・最後の食事になるかもしれない・・・ということでしょうか?めったなことでは動転しないつもりの私です。妻を自宅に戻したあと、すぐによく行くスーパーマーケットへと一人で車を駆りました。

「まさか、そんな・・・冗談で医者が言ったんじゃないか・・・いや、そんな冗談を医者が言うことは絶対ない・・・もし本当ならどうしよう・・・もう少しで別れのときが訪れる?・・・そんな馬鹿な!」

昨日の夕方は、珍しく妻はよく食べました。サーモンの刺身とカニは妻の好物だったからかもしれません。そして毎日私が作っているニンジン・リンゴ・レモン・蜂蜜の生ジュースも飲みほしてくれました。昼間は辛そうだったのに、夕方は比較的体調が良くなってきたように見えました。

そうこうするうちに、前日に仏教儀式やってくれた青年がいつの間にか来ていて、「今日弁護士を呼ぶことになりました。6時半ごろに来れるようです。でも上の娘さんと、息子さんに連絡がつかないんですが・・・」と私に言いました。突然のことです。

弁護士を呼ぶということは、つまり遺言状の作成です。2か月ほど前に妻は遺産相続について弁護士に相談していました。土地家屋と2台ある車のうちの1台が妻の名義になっているのです。もしもの時のために早めに相談していたようです。それが、こんなに早くやってきてしまったのです。

日常会話ならなんとかなる私でも、遺産相続の話となると、私のタイ語能力では歯が立ちません。私は家から出ている上の娘と、朝から友達と映画を見ると言って出かけた息子に連絡したあと、すぐに知り合いのタイ語通訳に電話しました。

夕方7時前に弁護士はやってきました。その前に、私たちは妻の意向を確かめながら遺言状の内容を話し合いました。私が依頼した通訳のおかげで、内容は私が望む以上のものになりました。

弁護士を囲んで、子供たちを含む関係者で再度内容を確認しました。妻は、夕方から遺言状作成が終わるまでの数時間は、声は元気な時とは比べ物にならないような蚊の鳴くような声でしたが、息が苦しかったり痛みを感じるような仕草は全然見せませんでした。

遺言状の内容は、ポイントは2つあります。もし妻が亡くなれば土地は当然子供たちに権利が移ります。外国人である私は相続できません。しかし、土地の上に構築された建造物の権利は外国人でももつことが可能です。妻は、私にその権利を与えると遺言しました。土地も家も私のお金で買ったのですが、権利はすべて妻にあったのを変更するというのです。

もうひとつは、妻が亡くなれば土地の権利を子供たち3人で分けるのですが、妻は条件を付けました。それは、私が年老いて死ぬまで、子供たち3人で面倒を見ろということです。もし面倒をみなければ、その子には土地の権利は与えないというものでした。妙な遺言ですが、誰も異を唱える者はいませんでした。そして遺言状の執行責任者は、その弁護士ということになりました。

遺言の内容が固まると、弁護士はわが家から立ち去り、およそ2時間後に再び戻ってきました。内容を文書化してもってきてくれました。その文書に関係者がサインして終わりです。妻は、手の力がかなり失われていて、きちんとサインできないので、指紋を押しました。

妻は、やはり体に負担がかかったのでしょう、深夜は相当苦しんでほとんど眠れない状態が続きました。したがって私たちもほとんど寝ていません。

驚いたことに、夜11時ごろ、妻の実家のあるカムペンペットからまた20人以上の親戚が駆けつけて来ました。ずっと付き添ってくれているバンコクの叔母さんが「今夜は危ないと医者が言っている」と連絡したにちがいありません。前回の入院中の時と違って、今回は全員がわが家に泊まりましたから相当に混雑しました。朝の食事の手当てなどで妻のお母さんと上の妹はてんてこ舞いでした。

(今朝の10時ごろ、左が妻の弟、右は妻の友達で、同じムーバーンに住む軍人さんの奥さん)

でも、朝になって妻の状態が安定し、会話もできるようになると、お昼過ぎには潮が引くように、三三五五と帰っていきました。今残っているのは、妻の母、上の妹、バンコクの叔母さん、カムペンペットの従妹の全部で4人。静かなわが家に戻りました。

今日の妻の傷の洗浄には、診療所の看護婦さん3人が自宅にやってきてくれました。足の力をほとんど失っている妻を車に乗せるのが大変なので、すごく助かりました。

 

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8 コメント

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Unknown (stak)
2017-05-10 23:44:56
うさぎ様
本当に、つらいですね。多分、うさぎ様は今はそんな事は感じてる余裕も無いと思います。私は、殆ど同じ事を経験しました。でも、無かった物は遺言、日記の様な物はありませんでした。奥様のためにも、一分一秒を大切にして下さい。
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素晴らしい遺言 (のり3)
2017-05-11 13:52:26
ご自分が辛い時に遺言書まで段取りするとは、全てうさぎさんを思ってのことでしょう。
小生、最初からの愛読者として、実はその事が気掛かりでした。
流石、うさぎさんが愛した才女です。
美味しい物で栄養をつけ、苦痛がないようにしてあげましょう。
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奥さまの思いに・・・ (スモール明)
2017-05-11 14:29:43
このようなときにコメントするのは、とても気が重いですが。
ご無沙汰しております。
国際結婚された先輩として、ブログを楽しみにして読んでいます。
奥さまが、お母さまより先にいく?旦那さんより先にいく?そんな状況に苦しいです。これも人生?誰にも未来は・・・です。
せめて、下の息子さんが成人式するまでは、と思っていましたが難しいようですね。
母親の気持ち・思いを子どもたちに伝える役目があるのでは?と思います。
もし、母親が亡くなっても母の教えは大切で、その教えを思い、子どもたちは成長してくれるでしょうから。
旦那さんに家の権利を与えて、老後をサポートするように遺言したのは、泣けてきましたね。
愛情でしょうね。
でも、やっぱり、自分より若い奥様が先にいくかも?はつらいです。
生があるから死がある。今を生きるですかね。
誰も知らない与えられた人生を。
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stakさんへ (うさぎ)
2017-05-11 22:19:05
コメントありがとうございます。
辛いというか、眠いですね(笑)。
一度でいいから、ゆっくり寝てみたいという感じです。
残された2人の時間が少ないのですが、話し足りないことはないという感じでいられるのが救いです。
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のり3さんへ (うさぎ)
2017-05-11 22:27:25
コメントありがとうございます。
限られた時間しかないということがはっきりしてからは、かえって覚悟が定まりました。遺言を作ろうとするくらいだから、たぶん妻もそうでしょう。もう1年くらい前から、自分がどういう状態かよくわかっていると言ってました。

苦痛がないように残りの時間を過ごせるように、それだけを今は考えています。
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スモール明さんへ (うさぎ)
2017-05-11 22:35:16
コメントありがとうございます。
私も、今16歳の男の子が成人するまでは生きてほしいとずっと願ってきました。それはもう叶いませんね。ただ、子供たちに話したいことがいっぱいあるみたいですから、それができる時間は与えてあげたいです。私が与えるわけではないですけど。

本人は辛くてもう終了したいという気持ちに何度もなるでしょうけど(今もたまにあります)、できるだけ頑張って、子供たちに深い印象を残してほしいと思います。
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楽園を作ってよかったですね (最果て帰り)
2017-05-12 17:03:50
ご無沙汰しています。
奥様の為に、タイに家を作り、家族で暮らせた時間が
持てたことは素晴らしい事ですね
とにかく、時間を大切にしてください。
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最果て帰りさんへ (うさぎ)
2017-05-13 17:03:49
コメントありがとうございます。
そうですね。時間が短くても妻にとっての楽園。思いがありました。この5年、家族にはいろいろな問題が起きましたが、いい思い出もたくさんあります。何よりも、妻はここチェンマイでたくさんの人助けをしてきました。
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