アラカン女子の旅と食!

子育て卒業目前、ようやく自分に暇とお金を使えるようになった、アラカン女子の旅と食のお楽しみと日々のあれこれ

『関心領域』を見てきました

2024-06-19 20:03:15 | 日記
封切られたばかりの『関心領域』(The Zone on Interest)を吉祥寺のUPLINKで見てきました。

第76回カンヌ国際映画祭ブランプリ、第96回アカデミー賞国際長編映画賞・音響賞など、数々の賞を受賞した作品です。といっても、私は映画の賞に疎いので、そんな数々の賞の受賞作品とは知らず、ただただ内容と、穏やかで美しい映像のBGMとして聞こえる音がかえって恐怖を感じる、というネットの評判に、見てたいと思っていたのでした。

映画の紹介にもあるとおり、映像はひたすら、あるナチスの将校の家族の生活をおっています。映画は湖畔で家族がピクニックをしているシーンから始まります。母親と子供たちは森でベリー摘みをしています。ただただ、美しい自然が印象的なシーンです。ピクニックから戻った家は、大きな邸宅に芝生がよく手入れされて美しい花々が咲く庭、奥には菜園やプールもある家。5人の子供たちは広い庭でのびのびと遊んでいます。邸内にはメイドが何人もいます。父親である将校は子供たちから慕われ、誕生日にはカヌーをプレゼントされたり、夜に寝つけない子がいたら読み聞かせをしてなりながら寝かしつけたり。ナチスの将校=怖い、というイメージはまったくなく、ナチスの軍服を着ている以外は、子煩悩な普通のパパが描かれています。妻は多少ヒステリックなところもありますが、夫と子供たちのことを考えて過ごしている、普通の主婦です。そして、出世している夫にかなえてもらった、自然豊かなこの地のこの大きな屋敷での美しく贅沢な生活を愛しています。

ただ、ひとつ、映像に違和感を添えるのが、この家の敷地の隣がアウシュビッツ収容所であること。映像には常に有刺鉄線が張り巡らされた塀と煙突から絶えず流れる煙がうつり、怒号、汽車の音、乾いた銃声が、何を主張するでもなく、日常の音として聞こえてきます。

映画を見る前は、もっと、収容所から聞こえる音が強調されて聞こえてくるのかと思ったのですが、音量はむしろ抑えられており、たんたんと、無表情に耳に入ってきます。そして、家族たちは誰一人その音に無関心です。意識を寄せることもありません。あまりにも日常となっているのでした。

途中、妻の母が遠くから来て娘のもとで過ごします。この母の登場が私にはすごく象徴的に感じられました。母は娘の裕福は暮らしぶりにとても喜び満足するのですが、隣にある収容所には以前近所にいた知人が入っていることを心配げに娘に言います。でも娘は母の言葉をスルーします。そして、母の言葉から、母はそのユダヤ人の家の掃除婦だったことが伝わります。アーリア人は優秀という思想から始まったホロコーストですが、裕福なユダヤ人家庭でドイツ人が掃除婦をしていたという、別にドイツ人がすぐれていたわけではなく、高等教育を受けるわけでもない層のドイツ人もいた、ドイツ人だって普通だった、という事実が感じられました。母は滞在中に見聞きする塀越しに聞こえる叫び声や銃声、煙突から上がる煙を見て、いたたまれなくなって、妻にいとまを告げることなく帰ってしまうシーンがあります。ここだけが唯一、母の良心・良識が感じられ、また、この将校家族の日常風景が異常であることを静かに主張しているように思いました。

一度は転属して家族と離れて単身赴任していた主人公の将校は家族のことを思い、やがて戻ってきます。映画の後段ではアウシュビッツ収容所の博物館の様子が一瞬流されますが、この家族思いの、ごく普通の人間(にしか見えない、思えない)将校が、ガス室での殺戮を計画し実行し、悲惨な歴史を作り残した、というのを示唆しています。

見終わって、私自身は恐怖も不安も感じなかったのですが、ただただ、悲惨な殺戮をした張本人たちもごく普通の人たちなのだ、と、思いました。


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