飛んでけ、水曜日!

文学とか言語とか。ゆるく雑記。

天地明察

2021-01-18 17:01:17 | 読書

冲方丁の『天地明察』(角川文庫)を読了。

『天地明察』は渋川春海を主人公とした改暦を巡る歴史小説だ。初めてこの本を知ったきっかけは、コミカライズ版『天地明察』の試し読みだった。江戸時代の算術、天文学に興味があったのも確かだが、日時計の前に立つ春海のイラストになぜだか心が動かされた。全9巻の漫画版より上下巻の文庫版の方が、安く済むし、早く読めそうだと思い、文庫を購入した。地の文で“今現在”の目線から史実を語る書き方には好みがあると思うが、さらっと読むにはちょうど良いだろう。(全篇、主人公目線で語られる時代小説と地の文で史実を示すことの多い時代小説があると思うけれど、どうだろうか?私は前者の方が好みだ。) 

家康により江戸幕府が開かれてから82年後、823年に渡り使われ続けた宣明暦から貞享暦への改暦は、単にカレンダーが変わるということではなく、戦中心の戦国時代から民生中心の泰平の時代へ転換する上で大きな意味を成したことが、この小説を通して分かる。主人公・渋川春海の人物像はおそらく創作的な要素が多く、かなり現代っぽさがあるが、読みやすさに繋がっている。物語前半で主人公は算額絵馬に熱中し、関孝和に算額対決を挑む。後半、北極出地を命じられ全国各地での観測を終えた春海は、暦に人生をかけることになる。

関孝和については子供向けではあるが、鳴海風の『円周率の謎を追う』(くもん出版)で分かりやすくまとめられている。

今読んでいる門井慶喜の『家康、江戸を建てる』と合わせて、江戸初期に行われた改革を体系的にみていくことができる。


かげきしょうじょ!!

2021-01-13 18:47:49 | 読書

前々から気になっていた漫画『かげきしょうじょ!!』(斉木久美子)を1~5巻まで購入した。色鮮やかな表紙カバーにかわいらしい絵柄がとても気に入っている。

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『かげきしょうじょ‼』は浅草の畳屋の孫・さらさが紅華歌劇団(宝塚を模している)でトップスターを目指す物語だ。2021年のアニメ化も決定している。

5巻まで読んだところ、第6幕の扉絵がとても気になった。他の扉絵は紅華乙女たちが描かれている中、第6幕の扉絵は歌舞伎役者でさらさの彼氏の白川暁也が描かれているからだ。以下、にわかのネタバレ有の考察が続くので、悪しからず。

 

扉絵の人物が暁也くんではなく、白川歌鷗さんや煌三郎さんの若い頃である可能性も無きにしも非ずだが、暁也くんが妥当だろう。暁也くんだとして一体何の衣装を着ているのか?歌舞伎に詳しくないので間違っているかもしれないが、「切られ与三郎」の衣装だと思う。憧れの「助六」でもないし、今の暁也くんがやっていそうな役でもないので、それなりに理由があると考えられる。

「切られ与三郎」というのは『与話情浮名横櫛』という演目の主人公だ。簡単なあらすじは、親分・赤間源左衛門のお妾さん・お富と与三郎が恋に落ちる。それがバレて親分から命からがら逃げ出した与三郎はゴロツキになって、数年後にある家に金を強請りにいく。そこにいたのはなんとお富。そこへ今の旦那・多左衛門(お富の実の兄)がやってきて「堅気になれば仲をとりなす」と与三郎に金を与え、与三郎は引き上げる。というものらしい。

暁也くんはどのあたりが与三郎と似ているだろうか?難しい。多左衛門にあたるのは、煌三郎だと思う。おそらく、さらさは歌鷗さんの娘だから、歌鷗さんの長女の婿である煌三郎はさらさの義兄だし、さらさと暁也くんの間を取り持つ役でもある。源左衛門は歌舞伎界で、多左衛門は紅華歌劇団といえるかもしれない。さらさは初め歌舞伎界に囲われていたが、今は紅華歌劇団にいる。

残念ながら「切られ与三郎」のことをよく知らないので、あまり考察しようがない。これまでの描写では、さらさと暁也くんの関係は、幼なじみでライバルで相手のことが憎らしいという気持ちを持っているという感じで恋心は特に感じられないが、暁也くんとさらさが与三郎とお富ならば、少しは好き合っているのかもしれない。…考察って難しい。

さらさと暁也くんが一緒になったら、なかなか厳しい未来が待ってる気がするけれど、個人的にはさらさと暁也くんのどちらも好きだし、一緒にいるところがいいなと思ってるのでくっついてほしい…


スパイ武士道

2021-01-11 10:00:00 | 読書

池波正太郎の『スパイ武士道』を読み終えた。何か月か前、アニメの『鬼平』を一通り観たが、池波正太郎の小説を読むのは初めてだと思う。

スパイと武士道。あまりピンとこない単語が一緒に並んでいる。「隠密」といってしまえば、それで終わりな気もするが、面白いタイトルだと思って購入した。

読み始めてすぐ、なんだか人間が生々しいなと感じた。作中でも、この世は相対的なものだ、というようなことが書かれているが、絶対的な人物も物も出てこない。だからだと思うが、後半に行くにつれてなんだかモヤモヤした気分で読んでいた。主人公の虎之助も、主人に忠義を尽くす他の武士よりはスパイらしいけれど、他のスパイたちよりは武士らしい。登場人物は皆それなりに人間的に厭らしいし、愛おしい。スカッとした読了感はないけれど、こういうのも嫌いじゃない。

ところで、最近流行りの漫画やアニメをみていると“分かりやすいもの”が多いのかなと思った。大ヒットアニメ映画となった某ジャンプ漫画では、これまでの常識を覆すくらい地の文で敵味方の心情が書かれているらしい。