まず、言っておきたいことは、エンドロールが流れ始めても、決して席を立たずに場内が明るくなるまでスクリーンを凝視することだ。
公開から5日も経つと、その情報もそこそこ入っているのか、それほど席を立つ人はいなかったが、それでもそれを知らず丁度エンドロールが終わる頃に出口に向かった人のなかには、「えっ」という感じで、通路で立ち止まっていた人もいた。終演後は観客から拍手や「マイコー!」「ポーゥ!」といった声も。帰り際には、「ダンサーたちよりダンスが上手い!」の声があちらこちらから。世界中から選りすぐられた実力派ダンサーをセレクションしてもなお、マイケルのダンスに及ぶものはいないのは、映画を観てもらえれば即解かるはずだ。
イギリスで行なわれるはずだったツアー“This Is It”のリハーサル映像をまとめた映画『ディス・イズ・イット』だが、映画というよりも、もはやライヴといっていいのかもしれない。「スターティン・サムシン」から「マン・イン・ザ・ミラー」までが本編、エンドロールの新曲「ディス・イズ・イット」から「ヒール・ザ・ワールド」「ヒューマン・ネイチャー」までがアンコールと見立てることも出来よう。
リハーサル映像なのでもちろん観客はいない。歌唱も本番のためにセーヴしていたりするところもあるが、かえってステージをどのように作り上げていくか、そのための綿密な指示など貴重な場面を垣間見ることが出来る。
マイケルはファンに惜しみない幸せの時間を与えるためには、ステージでの妥協を許さない。テンポやメロディもしっかりと記憶していて、バンド・メンバーに対しても納得出来ないことにはとことん意見する。ただ、そこには必ず愛情や敬意が存在していて、ことあるごとに“ありがとう”“L.O.V.Eだよ”と言う。いいものを作るために必要なものなんだよ、と諭すように。
そして、ステージのあちらこちらでマイケルの類まれなる発想力が発揮される。キュー(曲入り終わりの指示)のタイミングや、アドリブなどが、即興で、しかしながら、かなりパーフェクトな形で次々と生まれてくる。それをどう導入するかはその場で決まるのだが、このステージを完成させるのにもう一人欠かせない人物が総合演出のケニー・オルテガだ。
マイケルの意を出来る限り汲みながらも、乗り気じゃない時には意見した後に“聞いてくれてありがとう”と最後に感謝の言葉を述べる。その言葉に安心するマイケル。限りないアイディアを発し、崇高なステージを作ろうするマイケルを励まし、クルー一体をよりよい方向へ導いているのは、誰であろうこのオルテガにほかならない。彼なくしては、このステージは成し得なかっただろう(哀しくもこのステージは実演されることはなかったが)。
パフォーマンス同様に映像などの仕掛けも破格だ。映画にも引けをとらないどころか上を行くのではと思わせる場面がズラリ。「ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス」の10人の警官か戦闘員らしきコスチュームに身をまとったダンサーが数百、数千にも見える3D映像や、『フォレストガンプ』風にレトロ映画の映像にマイケルをはめ込んだような「スムース・クリミナル」、そのあたりのホラー映画よりもよっぽど作りこんである「スリラー」など、驚くようなものばかりだ。
クライマックスでは、マイケルはあるメッセージを残す。「地球は人間が傷つけたものを埋め合わせようとしている」「誰かがやってくれるではなく、今始めないとダメなんだ。しかも4年以内に成し遂げなければいけない」と。それを世界中の人たちに音楽やステージを通じて伝えることが彼の使命だといわんばかりに。だから、近年音沙汰がなかったマイケルが、今秋にこの一大ツアーを実施しようとしたのではないか。そう思えて仕方ない。
今のところ、2週間限定での公開となっている。もし機会があるならまた観賞して、あらゆる角度から考察してみたい。
ダンスはもちろん、歌の上手さ、そして彼の内面の美しさを知ってもらうには最高の映画、いやプレライヴといえるのではないだろうか。
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