東京でカラヴァッジョ 日記

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サロメ、サロメ、サロメ -「異端の鬼才 ビアズリー展」(三菱一号館美術館)

2025年03月06日 | 展覧会(西洋美術)
異端の鬼才 ビアズリー展
2025年2月15日〜5月11日
三菱一号館美術館
 
 
オーブリー・ビアズリー(1872-98)。
 
 ビアズリーの名前と、オスカー・ワイルドの著作『サロメ』の挿絵を描いたことはなんとなく認識していたが、本展により初めて、どのような画家であったのかを知る。
 
 英国南部の港町ブライトン出身。20歳の頃から書籍や雑誌の挿絵・装丁など印刷物を主戦場として活躍する。幼少期からの肺結核により25歳で他界。
 
 
 
ビアズリーのサロメ。
 
 1893年、オスカー・ワイルド(1854-1900)は、戯曲『サロメ』(フランス語版)をパリとロンドンで出版する。
 
 既に挿絵画家として活動していた20歳のビアズリーは、戯曲『サロメ』に触発され、「サロメ」を描く。
 同作は、1893年4月の『ステューディオ』誌創刊号に掲載される。
 
《おまえの口にくちづけしたよ、ヨナカーン》
1893年、ライン・ブロック、V&A
 
 ライン・ブロックって何?
 挿絵を撮影したネガから版を起こす写真製版の一つであるらしい。従来の方法よりも安価で簡単に印刷が可能となる一方、中間色が出せず、白か黒かとなることが欠点。
 この製版方法では絵の細かいニュアンスが表現できないなどの特徴を早々に学んだビアズリーは、製版方法にあわせて画風を変えていく。
 そうして制作した《おまえの口にくちづけしたよ、ヨナカーン》は、世間に衝撃を与える。
 
 
 同年、出版業者ジョン・レインから、戯曲『サロメ』(英語版)の挿絵を依頼される。翌1894年2月刊行。
 
《クライマックス》
1893年(原画)・1907年(印刷)、ライン・ブロック、V&A
 上記の『ステューディオ』誌創刊号の掲載作品が版権の都合で転載できなかっため、別バージョンを制作したと伝えられているらしい。
 縦横比が異なる2作目は、「サロメの表情の邪悪さが和らぎ、預言者の首からしたたる血も様式化され、複雑な線が取りのぞかれて、全体がすっきりと整えられている」との解説。
 
 
 当時、批判も含めて話題となった『サロメ』(英語版)の挿絵。
 本展には、1894年刊行の初版に掲載された13点のほか、没となった表紙案1点および挿絵3点の計17点が紹介される。
 
 
《オスカー・ワイルド著『サロメ』の表紙[案]》
1893年(原画)・1907年(印刷)、ライン・ブロック、V&A
 
オスカー・ワイルド著
『サロメ』1894年
 ビアズリーの表紙案は、初版では没となり、簡素な布装となる。
 本展に展示されている青の布装は普及版で755部の印刷。また、緑色の絹布の装丁による大型版も125部出されたとのこと。
 表紙絵は、1907年刊行の2版で採用されたという。
 
 
《ヨナカーンとサロメ》
1893年(原画)・1907年(印刷)、ライン・ブロック、V&A
 初版で没とされた画。王女が預言者の身体を無遠慮な視線で眺めまわす。
 
 
《ベリー・ダンス》
1893年(原画)・1907年(印刷)、ライン・ブロック、V&A
 サロメが「7つのヴェールを使った踊り」を披露したというワイルドの記述にもとづいて描く。
 
 
《踊り手の褒美》
1893年(原画)・1907年(印刷)、ライン・ブロック、V&A
 ワイルドが語った「巨大な黒い腕、処刑執行人の腕」を描く。
 
 
 
 ワイルドの著作で、ビアズリーが挿絵を担当したのは、意外にも『サロメ』(英語版)ただ1作。
 逆に、『サロメ』(英語版)以外の全ての著作の初版時の装丁や挿絵は、チャールズ・リケッツ(1866-1931)という英国の画家が担当しているとのこと。本展にはリケッツの作品も展示されている。
 
 当初はビアズリーを応援していたらしいワイルドも、戯曲にはない場面を描いてくるわ、表現したい世界とはかけ離れたものを描いてくるわ、自分の容貌を揶揄した描き込みをしてくるわ、で、発表後に、挿絵全体を「たちの悪い落書き」だと評する。1年にも満たず2人は距離を置くこととなる。
 
 
 一連の「サロメ」作品を初めて見るが、全体としては確かに魅力的だが、若者のこだわりであろうか、表現が細かく尖っている。性的表現もそうだが、ここまで尖らなくてもと感じてしまう。
 現に4案が出版社により没とされ再制作。ワイルドの戯曲&ビアズリーの挿絵は、当時たいへんな衝撃であっただろう。
 
 
 
 リニューアルオープン後、初訪問。
 休日の午前中に行くが、たいへん混雑している。ビアズリーは人気があるのだ。よく知らないが、おそらく以降および今の日本の漫画家やイラストレーターの画に繋がっているのだろう。
 小さい展示室が連なる三菱一号館美術館で、総じて小サイズの作品が並んでいるなかで人が多いと、厳しいものがある。空いている時間帯を選んで再鑑賞したいもの。
 
 本展では「英国チェックコーデ割」を実施中。チケット窓口でチェック柄のアイテムを身につけて申告すると100円の割引。
 そのことを知らず、チェック柄のシャツを着ていた私は、係員からの申し出で適用を受ける。入館後にダウンのファスナーを下ろしていたことが幸いする。


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