
生誕120年
宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った
2025年1月25日〜3月16日
東京ステーションギャラリー
2月23日放送のNHK日曜美術館「あ!ボロの中に美を見つけた 宮脇綾子のアプリケ」を録画で観る。
宮脇綾子(1905-95)。
関東大震災の映像が流れ、戦争/敗戦の映像が流れ、作家の長男の奥様が姑を語り、篠原ともえさんが現地で作品の感想を述べ、東京ステーションギャラリーの冨田館長が現地で司会者2人に解説する。そして、映される作品たちが皆、美しい。
これはだめでしょう。こんな番組を見たら、みんな行ってしまう。会期終盤も重なって、東京駅丸の内北口改札近くに大行列ができてしまう。なにより私が再訪したくなる。
で、金曜日の夜間開館時間帯に再訪。ネット情報によると、時間帯によってはたいへんな待ち行列となっている模様で、この選択は正解だったようだ。
待ち時間なしで入館するが、それでも、美術館前に到着してチケット自販機の列に並ぼうと一呼吸置いた瞬間に、私を追い抜くようにして続々と7〜8人の方が列につく。
展示室内は主に女性で混雑しているが、割とスムーズに流れている印象。
宮脇をひとりの優れた造形作家としてとらえ、美術史のことばを使って分析することで、その芸術に新たな光をあてようとする試みだという本展。
【本展の構成】
1 観察と写実
2 断面と展開
3 多様性
4 素材を活かす
5 模様を活かす
6 模様で遊ぶ
7 線の効用
8 デザインへの志向
約150点の出品。野菜・果物、魚といった食材や花のモチーフが大半。
前半の章に写実性、中盤の章に素材あるいは布の模様、後半の章にデザイン性、それぞれの要素が強い作品が配置されているが、その配置は時系列に沿ったためではない。宮脇は全期間を通じて、写実性の強いものもデザイン性の強いものも同時に制作していたという。
生前は、アプリケ(本展での表記)や手芸の世界でたいへん著名な方であったらしい。
作る前によくものを見ること。
よく見ることによって私たちが物を漠然と見ていることに気づきます。
思いがけないことを発見したり驚いたりします。
それが知るということなのです。
(宮脇綾子が記すアプリケ制作の心得)
野菜・果物や魚に対する観察。一つとして同じものはないことへの関心。これらの強さから生まれた作品たちは、愛おしい。
布の上に布を縫い付ける。
対象を面の集まりと捉え、面によってかたちを構成していく。
細部を捨象し、かたちの本質を把握するのに寄与するが、細やかな表現には向かない。
アプリケや手芸に縁のない私は、アプリケという表現手段により作品を制作することの難しさが分からない。写実表現とか、細部表現とか、その厳しさは分からない。
それを美術史のことばにより、8つの切り口で説明してもらって、なるほど、確かにそうだなあと感心するばかり。
貼り付ける布の模様を活かした作品。紐や糸を線として使うことで表現力を広げた作品。なるほど、と感心するばかり。
私的には、「はりえ日記」がお気に入り。
1972年から1990年まで記した全70冊におよぶ、宮脇のライフワークとも言える日記。
その一部が出品されているが、アプリケ+日々の生活記からなるもので、見て、読んで、楽しい。
再訪時に惹かれたのは、作家の署名「あ」。
「あ」の文字を愛おしく感じる。
魅力的な作家を、また東京ステーションギャラリーに教えてもらった。
東京ステーションギャラリーの定番? 入場記念券についても、何種類か用意されていて、使用作品に応じて券の形が異なる。
私には、魚ばかりが当たる。
最初の訪問時

《さしみを取ったあとのかれい》
1970年、豊田市美術館
再訪時

《あんこう》
制作年不詳、個人蔵
一般販売されている図録は現在品切れ中で、3月下旬に重版予定とのこと。