ヒルマ・アフ・クリント展
2025年3月4日〜6月15日
東京国立近代美術館
スウェーデンの女性画家ヒルマ・アフ・クリント（1862-1944）。
独学ではなく、正統的な美術教育を受けており、職業画家としてのキャリアも経験している。
参考資料『スウェーデン肖像ギャラリーXX － 建築家、彫刻家、画家など』1901年
カンディンスキーやモンドリアンら同時代のアーティストに先駆け、抽象絵画を創案した画家として近年再評価が高まっているという。
同時代の神秘主義思想や女性運動などが画家の創作の源となっているらしい。
死後20年間は作品を世に出さないよう言い遺したことで、長らく限られた人々に知られるばかりであったが、死後40年が経過した1980年代になっていくつかの展覧会で紹介が始まり、21世紀に入るとその存在は一挙に世界的なものになったという。
彼女の代表的作品群「神殿のための絵画」。
1906〜08年が第一期、中断期間を経て、第二期が1912年から始まり1915年に完結する。
本展には、18群193点からなる「神殿のための絵画」の図版を紹介するパネルが用意されている。
本展への出品は、18群のうち８群、193点のうち49点である。
・「原初の混沌」26点のうち10点
・「エロス・シリーズ」８点のうち３点
・「大型の人物像絵画」10点のうち３点
・「進化」16点のうち５点
・「10の最大物」10点のうち10点
・「知恵の樹」８点のうち５点
・「白鳥」24点のうち10点
・「祭壇画」６点のうち３点
以下、「10の最大物」の画像を掲載する。
縦が約3.2メートル、横が約2.4メートルと「神殿のための絵画」 のなかでも異例の超大型サイズ、10点のうち全10点が出品される、本展の目玉作品。
チラシ掲載の展示風景、明るい部屋に横一列の展示とは違って、本展では、暗い大きな部屋の中央に四角形の展示壁を設置し、四辺に２または３点ずつ配置する形である。
ヒルマ・アフ・クリント
「10の最大物」
ヒルマ・アフ・クリント財団所蔵
No.1 幼年期
No.2 幼年期
No.3 青年期
No.4 青年期
No.5 成人期
No.6 成人期
No.7 成人期
No.8 成人期
No.9 老年期
No.10 老年期
第一印象。いわゆる「抽象絵画」ではない。「抽象絵画」の定義にもよるだろうが、「絵画を純粋な造形要素に還元する」といった芸術上の目的で、このような表現を追求したということではない。一種の具象表現？
それはともかく、画家が作品に込めた意味なんて分かるはずもなく、大型の画面に展開される形や色彩を楽しむしかない。
気になる小道具。
虫？
目？
出品リストの解説より
1907年8月、アフ・クリントは、人生の4つの段階についての「楽園のように美しい10枚の絵画」を制作する啓示を受けました。10月2日に制作を開始し、わずか2か月のうちに高さ約3.2m、幅約2.4mの巨大な絵画10点を仕上げます。彼女はこの＜10の最大物＞が、ノアの方舟が大洪水の後にたどり着いたとされるアララト山に起源をもち、また「進化」を描き出すものと記しました。各作品はキャンバスに張り合わされた紙を支持体に、乾きの早いテンペラ技法で描かれます。モノクロームの色面を背景に、様々な形態が浮遊するように配置された画面構造は10点共通です。「神殿のための絵画」全体に共通する二元性の解消や霊性の進化がここでもテーマとなっています。
人生の4段階とはいえ、No. 1からNo.10へ線的な展開を必ずしも認めることはできません。アフ・クリントが神智学などを通して輪廻転生に親しんでいたことを踏まえれば、No.10が再びNo. 1へと回帰するような円環構造が構想されていたようにも思われます。
本展の最後に用意される参考資料コーナーも興味深い。
これらは、図録には掲載されていないようだ。
ヒルマ・アフ・クリントに40〜50年ほど先行する女性画家がいたらしい。
2016年にロンドンのコートールド・ギャラリーにて回顧展「霊性ドローイング：ジョージアナ・ホートン」が開催されているようだ。