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速水御舟《京の舞妓》、東近美&東博で重要文化財作家の作品を見る(日本画&彫刻)

2023年05月11日 | 東博総合文化展
 日本近代の日本画および彫刻については、これまで関心薄であったが、東京国立近代美術館「重要文化財の秘密」展の鑑賞を機に、重要文化財指定作品を多く所蔵する東京国立近代美術館および東京国立博物館の常設展示で、重要文化財作家の作品を意識して見る。
 
 
東京国立近代美術館の今期(3/17〜5/14)の「MOMATコレクション展」より。
 
2室「重文作家の秘密」
 
 「重要文化財の秘密」展にちなみ、この部屋では、重要文化財に指定された作品を生んだ重要文化財作家による他の作品を紹介し、作家や作品の評価の歴史にさらに一歩踏み込んでいただこうと思います。
 
 例えば、重文作品より知名度の高い作品があったりします。
 平福百穂の《荒磯》は、今日までに刊行された近代日本美術の画集や全集に掲載された回数に照らすと、彼の重文作品《豫譲》(永青文庫蔵・熊本県立美術館寄託、重文展に3/17-4/16展示)をはるかにしのぐ人気を誇ります。重文にするかどうかを分けたのは、制作年が9年早い《豫譲》に、芸術的達成度の初発性と画壇への影響力の大きさを認めたからでした。 
 
平福百穂(1877-1933)
《荒磯》
1926年、東京国立近代美術館
 
 例えば、重文作品よりも近年注目を集めている作品もあったりします。同じく画集への掲載に照らすと、下村観山の《木の間の秋》は重文の《弱法師》(東京国立博物館蔵、重文展に4/11-5/1展示)に、1990年代以降の掲載数で差をつけています。これは90年代以降に明治時代後半における琳派ブームに関する研究が進み、実践例としてこの作品が注目されるようになったことが要因のひとつと考えられます。重文作品だけでは分からない重文作家の秘密を探ってみてください。
 
下村観山(1873-1930)
《木の間の秋》
1907年、東京国立近代美術館
 
 
 同室には、上記の日本画2作家2点のほか、洋画8作家9点と彫刻1作家1点が展示。うち彫刻を。
 
新海竹太郎(1868-1927)
《ゆあみ》ブロンズ像
1907年、東京国立近代美術館
 顔貌は日本人だが、体型は西洋人風という、この時代によく見られる異種合成方式の裸婦像表現なのだろう。このブロンズ像は、ありふれた裸婦彫刻だなあと素通りしていたが、「重要文化財の秘密」展に展示中の重要文化財に指定されている石膏原型は美しい。私的感覚だが、この差はなんだろう。
 
【参考】重要文化財指定の石膏原型
 
 
3室「からだをひねれば」
 
萩原守衛(1879-1910)
《女》ブロンズ像
1910年、東京国立近代美術館
 ブロンズ像には正直言って今ひとつピンとこないのだが、重要文化財に指定されている石膏原型(1910年、東京国立博物館)だと、ずいぶん印象が異なるのだろうか。
 
 
4室「《熱国之巻》の半年前」
 
【参考】重要文化財指定作品(1968年指定)
今村紫紅(1880-1916)
《熱国之巻》(夕)部分
1914年、東京国立博物館
 
 本作発表(1914年9月)の半年前、紫紅は、はじめてインドの地を踏む。
 2月26日に神戸港を出発し、門司、香港、シンガポール、ペナン、ラングーンに寄港し、インドのコルカタに到着、コルカタから先は内陸部のガヤー、ブッダガヤにまで足を伸ばし、帰途は中国江南地方を漫遊し、5月末頃に帰国。
 この旅における《印度旅行スケッチ帳》が16点展示される。《熱国之巻》制作に利用されたという。
 
今村紫紅
《印度旅行スケッチ帳》
1914年、東京国立近代美術館
16点展示より3点。
 
 
 
 
 
 続いて、2023年5月の東京国立博物館の総合文化展。
 
 本館1階18室「近代の美術」(4/25〜6/11展示)より。
 重要文化財作家(日本画家)による他の作品3選。
 
 
速水御舟
《京の舞妓》
1920年、東京国立博物館
 
今村紫紅
《風神雷神》
1911年、東京国立博物館
 
前田青邨
《花売り》
1924年、東京国立博物館
 
 3点いずれもおそらく初見。
 不気味な印象の《京の舞妓》を主に鑑賞する。細密描写が凄い。畳が凄い。着物も凄い。静物すべてが凄い。私が掲載した画像では、ガラスケースの映り込みにより、画面上部に線が走ってしまって、なにがなんだか分からなくなっている。
 
 大正9年の院展出品作品。徹底した細密描写が注目をあびた。空間処理よりも着物や畳などの質感描写に執着し、大正期の写実的傾向を示している。モデルは当時人気だった君栄(きみえ)という舞妓で、祇園の茶屋「吉はな」で写生した後、2年がかりで完成した。
 
 
 
 5月20日から山種美術館にて「小林古径と速水御舟」展が開催される。
 速水御舟の重要文化財指定作品は、《炎舞》《名樹散椿》と2点あり、いずれも山種美術館が所蔵するが、いずれも「重要文化財の秘密」展には出品されなかった。
 「小林古径と速水御舟」展では、《炎舞》を見ることができるようだ。


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