会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

未払い報酬、計上取り消しと証言 日産元室長、税務調査受け(共同より)

未払い報酬、計上取り消しと証言 日産元室長、税務調査受け

日産ゴーン事件のケリー被告の裁判の記事。16日の公判で、会計数値に関する話が出てきたようです。

「元日産自動車会長カルロス・ゴーン被告(66)の役員報酬過少記載事件の公判で、検察と司法取引をした大沼敏明元秘書室長(61)は16日、東京地裁の証人尋問で、元会長への6年分の未払い報酬をいったん費用計上した後、税務調査を受けたことから計上を取り消したと証言した。」

「検察側は、元室長が実際に費用を計上したとして、未払い報酬が確定していたとの立証をしようとしたとみられる。」

役員報酬の開示は、基本的には損益計算書に計上された費用の額を記載することになっているので、会計上、費用に計上していながら、開示していなかったとすれば、つじつまが合わず、ゴーン氏やケリー氏に不利な事実といえそうです。(ただし、6年分まとめて計上したとすれば、それまでの5年間は費用計上していなかったことになります。)

しかし、よく理解できないのが、税務調査をうけたことから、計上を取り消したという証言です。税務調査で否認された、あるいは、否認されることが心配になったのなら、申告書上で調整すればよいのであって、会計上の費用とすべきものなら、税務上の損金となるならないにかかわらず、計上すべきでしょう。むしろ、あわてて過去の分まで取り消したら、かえって目立ってしまい、税務調査で見つかる可能性が高くなります。

6年分の取消しともなれば、かなりの金額(1年あたりの開示もれ10億円×6年で60億円か?)になるはずであり、取り消すかどうかについて、経理部門などとも相談しているのではないでしょうか。そうだとすると、いったん費用計上したけれども、本当に費用計上が必要かどうか検討し直した結果、計上不要と判断し、取り消した(したがって、開示不要)とみることもできます。

会計上費用としていたのに、開示されていなかったとすれば、監査人(新日本監査法人)も把握できた可能性がありますが、別報道によれば、監査人にねつ造した文書を示して、だましていたようです。

日産元秘書室長 ゴーン元会長への報酬で“うその説明”と証言(NHK)

「元秘書室長は、これまでの裁判で、ゴーン元会長の報酬のうち未払いの分は退任後に支払うことで合意し、元会長の指示で2015年2月ごろに8000万ドルを一括して日産の経費に計上したと証言しています。

16日の尋問で元秘書室長は、2015年の春監査を担当した公認会計士から経費の支払い先を尋ねられた際、100人ほどの名前が載った偽造したリストを示したうえ、ゴーン元会長を含む取締役は含まれていないとうその説明をして、元会長への未払い報酬であることを隠したことを明らかにしました。

また、2年後には、国税局の税務調査で未払い報酬が発覚しそうになったことから経費の計上を取り消したと述べました。

これについて元秘書室長は「すごくまずいことをしてしまった。会計士に偽造したリストを見せたことを後悔している。国税局に対してもどう考えても取り繕うことはできないと思っていた」などと声を震わせながら証言しました。」

今までの報道では、会計帳簿とはまったく関係のないところで、報酬に関する書類がつくられ、ごく少数の人たちしか知らなかったとされており、それなら、監査人が気付かなくてもしかたがないと思います。しかし、会計上の費用に計上され、取り消すまでの2年間は少なくとも8000万ドル相当額が未払費用に残っていたとすれば、監査人が異常に気付くチャンスはゼロではなかったといえそうです。もちろん、会社側で積極的に隠蔽しようとしたとすれば、発見はむずかしいかもしれませんが。

(厳しいことをいえば、会社から見せられた資料を鵜呑みにしたことが注意不足だったともいえますが、不正の疑いが特になく、単に費用の内訳を知るために明細表を見ただけだとすれば、いちいち証憑とつきあわせたりはしないでしょう(ちょっと甘いでしょうか)。)

いずれにしても、会計監査で、会社幹部が平気で偽造書類を提示していたというのは、新日本が日産から完全になめられていたということでしょう。

「監査法人に虚偽書面」 ゴーン氏事件で元秘書室長証言(朝日)(記事前半のみ)

「検察と司法取引した大沼敏明・元秘書室長(61)が証人出廷し、元会長への「未払い報酬」を別名目で支払う計画を隠すため、監査法人に虚偽説明をしたと証言した。」

日産関連記事。

日産、苦渋の高金利調達 海外の「利回り狩り」が支え(日経)(記事冒頭のみ)

「日産自動車が約1.1兆円の外貨建て社債発行に踏み切った。日本企業の一度の外債発行では最大規模だ。新型コロナウイルス禍で危機的な状況にあった同社の資金繰りが改善する。窮地を救ったのは海外投資家だ。」

金利は4.81%(10年債)だそうです。

コメント一覧

ポラ
有報の訂正の件は良く分かりました。ありがとうございました。
もし違法性を認識しながら報酬を確定させようとしいていたのなら、こんなにあっさりと費用計上を取り消すものかと疑問に感じます。
今回の事件は会社法や財務会計、ディスクローズ,
内部統制、企業ガバナンス等の勉強になると思っています。
kaikeinews
1.たしかに、日産がいくら巨大企業だからといって、一般管理費で8000万ドルもの費用を計上したり、その後取り消したりすれば、社内の経理部門などは、その事実を把握していたはずであり、ゴーン氏やケリー氏とその側近だけが関与していたというのは不自然のように思われます。

2.有報の訂正は、役員報酬の開示の箇所だけ(財務諸表の訂正はなし)であり、財務諸表では訂正した年度にまとめて費用計上していたと思います。過年度財務諸表まで訂正すると、不自然な費用計上とその後の取消しがばれてしまうのを嫌ったのでしょうか。費用計上と報酬開示をリンクさせるのが原則だとすれば、財務諸表も本来は訂正すべきでしょう。

3.ゴーン氏側からすると、開示せずに費用計上だけしていれば、退任時あるいは退任後に実際に支払われたときには、引当金あるいは未払費用から支払額が取り崩されるだけで、あらたな費用計上はなく、目立たなくて好都合です。それなのに、なぜ費用を取り消してしまったのか...。

4.ゴーン事件の役員報酬に関しては、1)支払い承認手続、2)財務諸表での費用計上、3)役員報酬の開示、4)実際の支払いについて、関係づけてすべてをあきらかにしてもらいたいものです。
ポラ
共同通信のはシンプルすぎて読み取れなかったのですが、この記事で概要が良く分かりました。
それでも色々考えると疑問も出てきます。
1.これだけ多額の費用計上をするには稟議や取締役会の決議が必要だと思いますが、経費の支払先をゴーンの役員報酬とはしていないのに、ゴーンへの確定した役員報酬と言えるのかどうか?
2.大沼氏が不正行為を主導的に進めていて、ゴーンが指示している関係は見えるが、ケリー被告が積極的に不法行為に加担している事実が出ていない

更に疑問は、NHKの報道ではゴーンの指示で2015年2月ごろに8000万ドルを一括して日産の経費に計上したと証言し、朝日新聞の記事では優秀な社員に業績に応じた将来の報酬を約束する「長期インセンティブプラン」制度を活用することとし、15年2月に約108億円の予算を計上したとあります。
レートが分かりませんが、8000万ドルを円に換算して約108億円計上したのだと推測します。
また2年後の税務調査時に経費の計上を取り消したとあるので、PLに費用計上したのでしょう。
ところが2015年3月期の有価証券報告書の訂正は2019年5月にしか行っておらず、役員報酬を未計上していたとして総報酬を1595百万円追加しているが、2015年2月に計上した8000万ドルないしは約108億円の訂正はしていないようです。
このあたりもこれからの公判で明らかになっていくのでしょうか?
あと、当初ゴーン、ケリーは適法に開示する役員報酬を減らす手段を模索していたような報道がありました。大沼氏も法の趣旨を考えれば開示すべきものだったと思ったと証言していたと思います。
ところが今回の証言を見ると明らかに適法ではない手段で実行しているように見えます。
大沼氏がゴーンに勝手に忖度して不法行為を実行したとすれば、ゴーン、ケリー両氏の罪を問えるのか疑問です。
物証が余り無いようなので、大沼氏の証言でどこまでケリー被告の関与を明確にできるのかも見ものです。
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