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「工事契約に関する会計基準」・同適用指針公表

企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」の公表

企業会計基準委員会は、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」及びその適用指針を、2007年12月27日付で公表しました。

以下、基準の概要です。若干コメントもつけました。

1.基準の適用範囲

・工事契約に関する施工者における工事収益及び工事原価の会計処理並びに開示に適用されます。
・工事契約は、「仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うもの」と定義されています。
・受注制作のソフトウェアについても適用されます。

2.工事契約に係る認識の単位

・これは、どの範囲の工事をまとめて会計処理するかというグルーピングの問題ですが、「工事契約において当事者が合意した取引の実質的な単位」となっています。

3.工事契約に係る認識基準の識別

・「工事収益総額」、「工事原価総額」、「決算日における工事進捗度」の3つを、信頼性をもって見積ることができれば、進行基準を適用します。(基準では「成果の確実性」という言葉を使っています。個人的な好みでは、工事契約の「結果」(西川郁生著「国際会計基準の知識」)といういいかたの方が余分な意味がくっついていないのでいいと思います。)
・そうでない場合は、完成基準を適用します。
・信頼性をもって見積ることができるというのはどういうことなのか、上記の3つそれぞれについて、規定しています。

4.工事進行基準の会計処理

・上記の3つの要素を合理的に見積り、それに応じて当期の工事収益及び工事原価を計上します。
・工事進捗度としては、原価比例法が第一に挙がっています。これは、「決算日までに実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法」です。
・「原価比例法以外にも、より合理的に工事進捗度を把握することが可能な見積方法があり得る。このような場合には、原価比例法に代えて、その見積方法を用いることができる」とされています。結論の背景57項では、そうした方法の例として、直接作業時間比率と施工面積比率が挙げられています(それぞれ条件あり)。
・上記の3つの要素の見積りが変更された場合は、その見積りの変更が行われた期に、その影響額を損益として処理します。

5.工事完成基準の会計処理

・工事契約に関して工事が完成し、その引渡しが完了した時点で、当該工事契約に係る工事収益及び工事原価を損益計算書に計上します。

6.工事契約から損失が見込まれることとなった場合の取扱い

・進行基準・完成基準にかかわらず、また、工事の進捗度合いにかかわらず、工事損失引当金を計上します。その金額は、過年度に計上した損益を控除後の工事損失全額です。繰入額は売上原価に含めます(特別損失計上は不可?)。

7.開示

・表示方法や注記について規定しています。
・工事契約に係る認識基準(進行基準か完成基準か)の注記が必要です。

8.適用時期等

・2009年(平成21 年)4 月1 日以後開始する事業年度に着手する工事契約から適用です。早期適用も可能です。(着手ベースで適用なので、適用年度からしばらくは、過年度着手工事の完成基準による売上と新規着手工事の進行基準による売上の両方が計上され、多くの会社では、見かけ上、業績がよくなると予想されます。)
・ただし、工事損失引当金については、2009年(平成21 年)4 月1 日以後開始する事業年度から、過年度着手工事にも適用されます。(新規着手工事だけではない。)
・基準変更の方法として、2009年(平成21 年)4 月1 日以後開始する最初の事業年度の期首に存在する工事契約のすべてについて、一律に本会計基準を適用する方法も認められます。この場合、過年度に対応する損益の修正額は特別利益又は特別損失として計上します。(この方法だと過年度進捗分の売上がどこにも計上されないので採用する会社は少ないかもしれません。)

適用指針では以下の項目を規定しています。

・成果の確実性の事後的な獲得及び喪失
・工事契約の変更の取扱い
・工事契約から損失が見込まれる場合の取扱い
・工事契約に複数の通貨が関わる場合の取扱い
・四半期決算における取扱い
・適用時期

ちなみに、日本基準では、上記のとおり、「成果の確実性」が認められなければ完成基準を使うことになっていますが、国際会計基準ではそのような場合もあくまで進行基準が適用されるようです。

「工事契約の結果が信頼性をもって測定できないときは、原価が回収可能な範囲まで収益を認識し、原価は費用処理します。この場合も完成基準によらず、損益計算書上、収益と費用を同額で計上することを想定しています。」(前掲書)

(結論の背景54項で、この方法は「合理性がない」とされています。)

日本基準では、進行基準を適用する会社かどうか(注記により開示される)で、会社の管理レベル(契約ごとの原価総額などを信頼性をもって見積もることができるような体制か)が判定できるかもしれません。

また、工事契約の基準自体は比較的シンプルな内容ですが、要求されている見積りの精度を確保しようとすると、会社によっては、その仕組みづくりのために相当の準備が必要でしょう。(最初からあきらめて完成基準でいくという手もありますが・・・。)

監査上も、当期の状況の変化による見積りの変更なのか、過年度における見積りの誤り(過年度遡及修正が必要)だったのか、判断に迷うケースが続出するおそれがあります。といっても、監査人は建設工事やソフトウェアの専門家ではないので、会社の中に適切な見積りを行い、それをチェックする内部統制が整備運用されているかどうかがひとつのポイントとなりそうです。

「工事契約会計基準」に税制上も対応2007.12.24
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