金融庁は、金融審議会「資金決済ワーキング・グループ」報告書を、2022年1月11日に公表しました。
大きく分けて、3つのテーマを議論したようです。
「銀行業界において AML/CFT 業務の共同化による高度化・効率化(共同機関の設立)に向け、具体的な検討が進んでおり、このような共同機関の業務運営の質を確保するための業規制のあり方について議論を行った。」(AML/CFT:マネー・ローンダリング等対策)
「金融サービスのデジタル化への対応に関しては、2021 年7月、金融庁に設置された「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」において、11 月に「中間論点整理」が取りまとめられた。この中で、いわゆるステーブルコインについては速やかな制度的対応が必要とされた。本ワーキング・グループでは、その内容を踏まえ、具体的な制度設計について議論を行った。」
「高額で電子的に価値の移転が可能な前払式支払手段に関し、昨今のサービス提供の動向等を踏まえ、AML/CFT の観点からの適切な規律のあり方等について議論を行った。」
会計に関係しそうなのは、ステーブルコインですが...
「いわゆるステーブルコインについて明確な定義は存在しないが、一般的には、特定の資産と関連して価値の安定を目的とするデジタルアセットで分散台帳技術(又はこれと類似の技術)を用いているものをいうものと考えられる。
ステーブルコインと称するものには様々な仕組みのものがあり得る。こうしたステーブルコインのうち、法定通貨と価値の連動を目指すものについては、既存のデジタルマネーと類似した機能を果たすと考えられ、我が国においてこれを発行・償還する行為には、銀行業免許又は資金移動業登録が必要である。
一方、現行のデジタルマネーに関する我が国の法制度は、発行者が責任を負う形でのサービス提供を想定しており、現在、米国等で発行・流通しているステーブルコインのように発行者と仲介者が分離したスキームに対する適用関係が明確でない。」
ステーブルコインを分類すると...
「ステーブルコインについて、現行制度の考え方に基づけば、価値を安定させる仕組みによって、以下のとおり分類できると考えられる。
ア 法定通貨の価値と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの)
イ ア以外(アルゴリズムで価値の安定を試みるもの等)
現行制度上、上記ア(以下「デジタルマネー類似型」)は「通貨建資産」(資金決済法第2条第6項)に、上記イ(以下「暗号資産型」)は基本的には「暗号資産」(同条第5項)にそれぞれ該当し得ると考えられる。現行の資金決済法上、「通貨建資産」は「暗号資産」の定義から除外されているため、その仲介者には暗号資産交換業の規律が及ばない。」
既存のデジタルマネーとの関係では...
「国際的にも共有されている「同じビジネス、同じリスクには同じルールを適用する(same business, same risk, same rule)」との考え方に基づき、法制度の検討にあたっては対象を「デジタルマネー類似型」に限定するのではなく、既存のデジタルマネーについても「発行者」と「仲介者」が分離し得ることを前提に検討を行う必要があると考えられる。」
このあと、法規制上のさまざまな論点について議論していますが、今後ステーブルコインが普及するようになれば、会計処理上の論点も出てくるでしょう。たとえば、ステーブルコインを保有する場合、ステーブルコインは法定通貨ではないので、現預金扱いにはできないかもしれません(現預金以外の一種の金融商品?)。デジタルマネー類似型だと、日本の法規制上は暗号資産ではないので、暗号資産の実務上の取扱いの対象にもなりません。ステーブルコインの発行者も、価値の交換手段を提供しているだけで、利用者に対する責任は負わない(償還義務なし)という形式だと、発行したステーブルコインは、そもそも発行者の負債なのかという問題もあります(金利ゼロの永久債を発行したのと同じ?)。もちろん、さすがにそういう形式の仕組みは認められないでしょうから、何らかの償還義務は負い、その義務の裏付けとなる資産の保有も要求されるとすれば、額面で負債計上なのでしょう。
ステーブルコインと関係があるのかどうかはわかりませんが、ASBJでも、暗号資産の会計処理検討が1月12日に再開されたようです。
その会議資料はまだ公開されていませんが、現在開発中の会計基準に関する今後の計画(2021年12月24日更新)によると、以下のような計画となっています。
「金融商品取引法上の「電子記録移転権利」又は資金決済法上の「暗号資産」に該当する ICO トークンの発行・保有等に係る会計上の取扱い
(主な内容)
「金融商品取引法上の「電子記録移転権利」又は資金決済法上の「暗号資産」に該当する ICO トークンの発行・保有等に係る会計上の取扱い」について検討を行っている。
(検討状況及び今後の計画)
金融商品取引法上の「電子記録移転権利」に関する発行・保有等に係る会計上の取扱いについては、これまで識別した会計上の論点に関して、関係者からの意見を募集するために論点整理を公表する予定である。また、資金決済法上の「暗号資産」に該当する ICO トークンの発行・保有等に係る会計上の取扱いについても、会計上の論点の分析及び基準開発の必要性に関して、論点整理を公表する予定である。 」
信託会社も対象に 円連動の仮想通貨、普及へ法整備―政府(2021年12月)(時事)
「円などの法定通貨と価値が連動する暗号資産(仮想通貨)「ステーブルコイン」の普及に向けた法整備で、政府が銀行や資金移動業者に加え、信託会社を規制の対象にする方向で最終調整に入ったことが16日、分かった。有望な発行主体と見込まれており、利用者の安全性や信頼性を高める狙いがある。資金決済法など関連法改正案を来年の通常国会に提出したい考えだ。」
米FASBも遅ればせながらデジタル資産の会計処理を検討テーマにしたようです。
↓
Digital assets, intangibles among priorities on FASB’s new research agenda(JofA)
FASB's research agenda now will include the following projects, in no particular order:
Accounting for exchange-traded digital assets and commodities. Accounting and disclosure for a subset of these assets and commodities will be explored.
(以下省略)
その他のテーマは、無形資産の会計(Accounting for and disclosure of intangibles)、ヘッジ会計(Hedge accounting, phase two)、ESG関連の金融商品(Accounting for financial instruments with environmental, social, and governance (ESG)-linked features and regulatory credits. )、政府補助金(Accounting for governments grants, invitation to comment. )などです。
(補足)
1月12日開催のASBJの資料が公開されました。
第471回企業会計基準委員会の概要(企業会計基準委員会)
「2. 金融商品取引法上の「電子記録移転権利」又は資金決済法上の「暗号資産」に該当するICOトークンの発行・保有等に係る会計上の取扱い」という項目ですが、「発生及び消滅の認識の時期等」や今後の審議の進め方が、議論されたようです。(「ステーブルコイン」とは直接関係はない?)
議事概要によると、論点整理の文案の説明があったようです。
「矢農常勤委員及び木村専門研究員より、電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理及び開示に関する論点、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有に関する会計処理における今後の検討の進め方並びに「資金決済法における暗号資産に該当する ICO トークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」の文案について説明がなされ、第 141 回実務対応専門委員会(2021 年 12 月 2 日開催)及び第 142 回実務対応専門委員会(2021 年 12 月 22 日開催)における検討状況も踏まえ、審議が行われた。」
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