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自社株買い活発に 企業に求められるものは【経済コラム】(NHKより)

自社株買い活発に 企業に求められるものは【経済コラム】

東証が上場企業にPBR改善などを求めていることを紹介した記事。

「企業の第1四半期決算が出そろい、決算発表に合わせて「自社株買い」などの株主還元策を打ち出す動きが活発です。背景には、市場での評価が低い企業に東証が改善を求めていることがあります。一方、自社株買いの効果をめぐっては懐疑的な見方も出ています。」

(「懐疑的な見方」というのが気になりますが、あとで取り上げます。)

記事では、東証が最近公表した数字を示しています。

「8月29日、東証は上場企業のコーポレート・ガバナンス報告書や中期経営計画などに記載されている開示状況を公表。(3月期決算企業が対象 7月14日時点)

成長投資や株主還元の強化、事業ポートフォリオの見直しなど、PBRの改善に向けた取り組みを開示したのは、「検討中」という内容を含め、プライム市場に上場している企業の31%、スタンダード市場では14%でした。

PBRの水準別に見た開示率は以下のとおりです。

・0.5倍未満 46%
・0.5倍から1倍 36%
・1倍から2倍 23%
・2倍以上 19%

PBRが高い企業で相対的に開示が少なくなっていて、PBRが1倍を超えていればいいという誤解が企業の間で生じているのではないかという指摘が出ています。」

東証ウェブサイトを探してみると、「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(8月29日開催)の会議資料(PDFファイル)の中であきらかにされている数字のようです。

(東証資料より)

東証の要請を背景に、自社株買いが増えているそうです。

「東海東京調査センターによりますと、ことし4月から8月28日までに発表された自社株買いの総額は5兆3494億円と、年度を通して過去最大となった去年の同じ時期(4月~8月末 5兆6470億円)に次ぐ高い水準となっています。

...

自社株買いは市場で好感され、株価の上昇につながるケースが多く、PBRの計算式の分子である株価の上昇によりPBRの改善にもつながることから、PBRが1倍を超えるまで自己株式の取得を続けるとまで発表する企業も出ています。」

記事では、企業は自己株買いなどの株主への還元をどんどんやれという専門家のコメントも載せていますが、懐疑的な見方もあるようです。

「一方、自社株買いはPBRの改善に結びつかないという指摘もあります。

PBRは時価総額を純資産で割って算出されます。

自社株買いを単なる余剰現金の社外流出だととらえ、株価の変動がないケースを考えると時価総額と純資産がそれぞれ自社株買いの金額分だけ減少し、PBRが1倍割れの企業では、PBRが低下することもあるといいます。

こう主張するのは、企業のM&Aを支援するコンサルティング会社の幹部。

短期的な需給のひっ迫や企業の姿勢への好感などから株価が上昇する可能性を排除しているため、現実には違った反応が見られることが多いとした上で、自社株買いをすればPBRが改善すると思い込み、これを株主対策の手段として捉える向きに疑問を投げかけています。」

このコメントでいっていることを少し考えてみました。

PBRの計算式の分母は、1株あたり(簿価)純資産、分子は株価です。分母分子に株数をかけると、分母は(簿価)純資産、分子は時価総額となります。仮に、今、(簿価)純資産200億円、時価総額100億円、とすると、PBRは0.5となります。ここで、発行している株式の半数を自己株買いすると、時価総額100億円の半分である50億円が株主に対して現金で払い戻されることになります。その結果、どうなるかというと、分母の(簿価)純資産は、株主に払い戻される50億円分減って、150億円、分子の時価総額は、100億円の半分の50億円、PBRは0.33となり、かえって悪化してしまいます。

これは、自己株取得の影響を純粋に把握した場合の計算であって、実際は株価上昇圧力が生じることもあるのでしょうが、PBRに対して、どちらの影響が大きいのかは、一概には言えないでしょう。

「PBRが1倍を超えるまで自己株式の取得を続ける」という策は、効果のない注射を打ち続けるのと同じで、結構危険かもしれません。

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