FT報道、投資家から責任追及も(記事冒頭のみ)
ドイツのワイヤーカード不正会計事件で、会計監査人であるEYが預金残高の十分な確認を3年間怠っていたという記事。フィナンシャルタイムズがそのように報じたそうです。
最終的に消滅したのはフィリピンの銀行に預けていたとされる預金でしたが、その前に、シンガポールの銀行に預けていたそうです。
「FTによると、EYは2016~18年、ワイヤーカードがシンガポール大手のオーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)の口座に持つとされた最大10億ユーロ(約1200億円)について、銀行側に直接の確認を取っていなかった。資産の受託者や同社が提供した書類、画面コピーなどで手続きを済ませていたという。事情を直接知る関係者が証言した。
ワイヤーカードは18日、EYから19億ユーロの残高が確認できないと通告されたと発表し、資金消失疑惑が表面化した。実際には存在しないことが濃厚となり、債務超過が避けられなくなったとして25日に破産手続き入りを表明した。フィリピンの大手2行の口座にあったとされる資金は、19年にシンガポールから移されたものとみられていた。」
銀行への直接確認をやらなかったということなのでしょう。
記事によればEYは「最大限の強固な監査手続きでもこの種の不正は見つけられないだろう」と述べているそうですが、通常やるべき手続をやっていれば、見つけることができた不正である可能性が高そうです。
当サイトでも少しふれましたが、現地では、EYに対する責任追及の動きも出ているそうです。
「投資家からは、早くも監査法人の責任を追及する動きが出ている。ドイツの個人投資家団体SdKは26日、EYの新旧の担当者3人を刑事告発したと明らかにした。銀行残高の確認という基本的な監査作業に不手際があったと指摘した。」
こちらもFTの報道を参照しています。
↓
EY 'failed to request Wirecard bank statements for three years'(CITYA.M.)
そもそも、ワイヤーカードとオーバーシー・チャイニーズ銀行との間には、銀行取引関係は存在せず、ワイヤーカードの受託者は、エスクロー口座を持っていなかったとのことです。また、銀行は、2016年から2018年まで、ワイヤーカードに関して、何らの照会も受けていないとのことです。
A report by the Financial Times claims that between 2016 and 2018 EY did not directly check with Singapore’s OCBC Bank to confirm the lender held huge amounts of cash on Wirecard’s behalf.
Instead, the auditor relied on documents and screenshots provided by Wirecard and a third-party trustee.
One person told the FT that Wirecard has no banking relationship with OCBC and that the firm’s former trustee does not have an escrow account with the bank.
Additionally, the lender did not receive any query from EY in relation to Wirecard between 2016 and 2018.
日経などが引用しているフィナンシャルタイムズの記事(たぶん)。
↓
EY failed to check Wirecard bank statements for 3 years(FT)
銀行や他の会計事務所の厳しいコメント。
“The big question for me is what on earth did EY do when they signed off the accounts?” said a senior banker at a lender with credit exposure to Wirecard.
A senior auditor at another firm said that obtaining independent confirmation of bank balances was “equivalent to day-one training at audit school”.
監査をやったのはドイツのEYですが、EYの国外のチームがレビュー作業をしているそうです。
An “out of country” team at EY is reviewing the work carried out by its German auditors, according to a person close to the firm.
ドイツの監査監督当局もEYの監査について調査を開始しました。
The German accounting watchdog FREP is probing Wirecard’s balance sheet, and the country’s auditor oversight body APAS has begun looking into EY’s work.
ライバル会計事務所監査部門トップのコメント。現金を監査するのは簡単だ、投資家が、現金の数字を信じられないとすると、何を信じられるというのだといっています。
The head of audit at a rival accounting firm to EY said: “It is beyond the realms of reality that EY wouldn’t have had [the bank balance confirmations] unless they did a very poor audit. Cash is easy to audit. If investors can’t trust the cash number, what can they trust?”
学者のコメント。監査人は、第三者から提供された確認状に依拠するのでは、不十分である、確認状のデリバリーに関して完全にコントロールしている必要がある、このことは監査手続の指針に規定されているといっています。
Hansrudi Lenz, professor of accounting at Würzburg university, told the Financial Times that it was “not sufficient” for an auditor to rely on account confirmations that were provided by third parties. “The auditor needs to have full control over the delivery of account confirmation,” he said, adding that this was stipulated by procedural guidelines.
これらコメントのとおりではあるのですが、EYの監査チームは、銀行に直接確認できない(あるいは手間がかかる)もっともらしい理由を会社から聞かされ、会社と取引があるというあやしい第三者の証明書の入手で、直接確認の代替的手続としてしまったのかもしれません。安易な判断で墓穴を掘ってしまったのでしょう。
EYの言い訳。
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ワイヤーカード、「手の込んだ」詐欺で2300億円を不明に-監査法人(ブルームバーグ)
「破産手続きを申請したドイツのオンライン決済会社ワイヤーカードは、「手の込んだ洗練された詐欺」によって19億ユーロ(約2300億円)の資金を行方不明にしたと、同社の監査法人を長年務めたアーンスト・アンド・ヤング(EY)が指摘した。
10年にわたりワイヤーカードの決算書に署名してきたEYは現在、不正会計における自社の役割や責任を否定しているが、大量の訴訟に備えてもいる。」
「EYは、「故意に欺く目的で、全世界のさまざまな組織に属する大勢の人間が関わった手の込んだ洗練された詐欺だったことは明らかだ」とした上で、「最も厳密で詳細な監査手順をもってしても、共謀した詐欺を見抜けなかったかもしれない」と付け加えた。」
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