日本公認会計士協会は、会長通牒「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」と、「東北地方太平洋沖地震による災害に関する学校法人監査の対応について」を、2011年3月30日付で公表しました。
「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査上の留意事項として、現行の会計基準及び監査基準を踏まえ、取りまとめたもの」です。
以下、「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」から、重要と思われる点をまとめました。
1.今回の災害に関する監査対応の基本的な考え方
・今回の災害発生の状況から判断し、それぞれの会計事象に係る会計基準が想定する事実確認や見積りの合理性要件と比較し、ある程度の概算による会計処理も合理的な見積りの範囲内にあるものと判断できる場合もあると考えられる。
・データ収集や会計上の見積りに関して困難なケースでは、監査上、データ収集や会計上の見積りの制約に関する重要な事項が注記において適切に開示されていることを確かめる必要がある。
・一部監査手続の実施に制約がある場合でも、他の監査手続から得た証拠、内部統制の状況及び過去の監査結果なども含め入手した証拠を総合的に評価した結果、必要な心証を得ることができる場合は、重要な監査手続の制約とならない場合もある。
2.災害損失の範囲(例示)
・固定資産(建物等の有形固定資産、ソフトウェア等の無形固定資産、投資不動産等)や棚卸資産(商品等)の滅失損失
・災害により損壊した資産の点検費、撤去費用等
・災害資産の原状回復に要する費用、価値の減少を防止するための費用等
・災害による工場・店舗等の移転費用等
・災害による操業・営業休止期間中の固定費
・被災した代理店、特約店等の取引先に対する見舞金、復旧支援費用(債権の免除損を含む。)
・被災した従業員、役員等に対する見舞金、ホテルの宿泊代等の復旧支援費用
3.災害発生時である平成 23 年3月 11 日以後に決算日を迎える企業
(1)会計処理に係る事項
・損害保険の付保による保険金の受取りについて、仮に受取保険金の確定までにかなり時間を要する場合には、実務的対応として保険に関してその付保状況を注記において説明するケースが生じることが考えられる。
・監査証拠に関しては、実査に加え、質問・観察によるものや過去の監査結果・その他の情報など様々な手続によるものがあることに改めて留意する。
・撤去費用等は、決算日までに実施されたものは未払金に計上し、また、決算日後に実施が予定されているものについては、企業会計原則注解(注 18)の要件を満たすことを条件に引当金として計上する。
・原状回復費用等は、修繕費に準じた会計処理になる。(と書いてあるのですが、修繕費の会計処理について説明がありません。「撤去費用等に準じた会計処理」という意味かもしれません。あるいは、一般的な(たとえば税務上の)修繕費の扱いという意味なのでしょうか。)
・災害による工場・店舗等の移転費用等について、移転方針は決定しているが、決算日までに実行されておらず、かつ、金額的に重要性が高いと見込まれる場合は、注記において概要を説明することも考えられる。
・損益計算書に係る会計処理については、原則として特別損失という整理をした。当然金額的重要性を考慮し、経常的な費用として会計処理することを否定するものではない。
・科目については、それぞれ適当な科目によるものと整理をしたが、今回の災害に係る損失をまとめて計上することも考えられる。この場合は、主要な項目については、注記において説明することが考えられる。
(2)関連する会計・監査事象
(繰延税金資産の回収可能性の判断、取引先の財政状態の悪化等、保有有価証券の時価の下落、固定資産の減損判定などについてふれている。)
(3)監査意見に係る事項
・十分かつ適切な監査証拠が得られず、かつ、その影響が重要な場合は、監査範囲の限定又は意見不表明の可能性について、慎重に検討する必要がある。
・特に上場会社に関して無限定適正意見以外の監査意見を表明することになる場合は、より明確な説明責任を果たせるように努めなければならない。
4.災害発生時である平成 23 年3月 11 日より前に決算日を迎えた企業
・平成 23 年3月 11 日より前に決算日を迎えた企業は、今回の災害に係る影響は開示後発事象として取り扱う。
・財務諸表作成時に入手可能な情報が限られる場合には、後発事象としての開示内容が概括的になることはやむを得ない。
5.内部統制監査
・今回のような災害が発生したことにより経営者の評価手続が実施できない場合は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」において、やむを得ない事情による評価範囲の制約の例として挙げられており、この取扱いに従った対応をとる。
【東日本大震災】会計士協会が監査上の指針発表(産経)
会計士協会会長「監査不表明は慎重に」 震災対応で要望(日経)
記事によれば、今回の会長通牒は「安易に監査意見の不表明としないことを求めた」ものだそうです。
会長通牒の文章でいうと、
「監査意見形成に際しては、状況を適切に判断し説明責任を果たす必要があることはいうまでもないが、特に上場会社に関して無限定適正意見以外の監査意見を表明することになる場合は、より明確な説明責任を果たせるように努めなければならない。」(監査意見に係る事項)
という箇所にあらわれているのでしょう。ただ、無限定適正なら説明責任は軽いのかと反論したくなりますが・・・。
税務上の取り扱いについては↓
災害に関する主な税務上の取扱いについて(国税庁)
期末までに実施されていない撤去作業や現状回復作業の費用は、会計と税務で扱いに差が出るのでしょう。
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