金融庁は、「監査法人の組織的な運営に関する原則(監査法人のガバナンス・コード)」を、2017年3月31日に公表しました。
「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言(2016年3月公表)において、大手上場企業等の監査を担う監査法人の組織的な運営において確保されるべき原則を規定した「監査法人のガバナンス・コード」の策定が盛り込まれたことから、とりまとめられたものです。
適用される監査法人については、以下のように述べています。
「本原則は、大手上場企業等の監査を担い、多くの構成員から成る大手監査法人における組織的な運営の姿を念頭に策定されているが、それ以外の監査法人において自発的に適用されることも妨げるものではない。」
また、本原則の適用については、コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明する)の手法によることが想定されています。
「監査法人のガバナンス・コード」は以下の5つの原則のほか、22の指針から構成されています。
原則1 監査法人は、会計監査を通じて企業の財務情報の信頼性を確保し、資本市場の参加者等の保護を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与する公益的な役割を有している。これを果たすため、監査法人は、法人の構成員による自由闊達な議論と相互啓発を促し、その能力を十分に発揮させ、会計監査の品質を組織として持続的に向上させるべきである。
原則2 監査法人は、会計監査の品質の持続的な向上に向けた法人全体の組織的な運営を実現するため、実効的に経営(マネジメント)機能を発揮すべきである。
原則3 監査法人は、監査法人の経営から独立した立場で経営機能の実効性を監督・評価し、それを通じて、経営の実効性の発揮を支援する機能を確保すべきである。
原則4 監査法人は、組織的な運営を実効的に行うための業務体制を整備すべきである。また、人材の育成・確保を強化し、法人内及び被監査会社等との間において会計監査の品質の向上に向けた意見交換や議論を積極的に行うべきである。
原則5 監査法人は、本原則の適用状況などについて、資本市場の参加者等が適切に評価できるよう、十分な透明性を確保すべきである。また、組織的な運営の改善に向け、法人の取組みに対する内外の評価を活用すべきである。
金融庁では、今後、コードを採用した監査法人を一覧として公表するそうです。
(ガバナンスコードを踏み絵として使うのでしょうか。大手監査法人は、対象になっているので、採用せざるを得ないのでしょうが、中小は、格好をつけるために、無理してガバナンスコードを採用すると、金融庁検査のときに、コードに準拠していない点を指摘され、採用しないと、監査品質向上に消極的だと難癖をつけられるのでしょう。)
「主なパブリックコメントの概要及びそれに対する回答」も併せて公表されています。
草案公表のときの当サイト記事でも少しふれましたが、このガバナンスコードでは外部者を経営に関与させることが求められており、その外部者の監査先に対する独立性が当然問題になります。コメントでもSECの独立性ルールに関連すると思われる質問があったようですが、あいまいな回答でした。また、会計士協会からも、監査先との独立性に関する以下のようなコメントがありましたが、ほぼ無視された(監査先との独立性の問題として把握していない回答だった)ようです。
「...仮に、独立性を有する第三者の「関与」と経営者の「関与」が同じ内容を示すと解釈した場合、第三者に求められる独立性は、監査法人からの独立性だけではなく、監査法人の経営者に求められるものと同等の被監査会社に対する独立性が要求されることとなり、様々な制約が生じることとなる。例えば、監査法人の全ての被監査会社への金銭的利害関係やビジネス上の関係等が全て制約されるとすれば、独立性を有する第三者を指名することが現実問題として極めて困難となる場合も考えられる。第三者の果たす役割と要求される独立性は関連するため、第三者にどのような「関与」の方法や程度を求めるか、及びどのような独立性要件を第三者に求めるかは、本指針の趣旨を踏まえた上で、各法人の裁量に委ねられるべき事項と考える。そのような理解でよいかどうかを確認いただきたい。」(日本公認会計士協会「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)(案)に対する意見について」より)
監査人の独立性をよく理解していない人が、監査法人ガバナンス・コードを作っているのかもしれません。
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