金融庁は、テラ(株)に対する課徴金納付命令を、2020年6月11日付で決定しました。審判手続を行った3名の審判官から提出された決定案に基づくものです。
課徴金の金額は、2億2385万円です。
平成27年12月期から平成30年12月期までの有価証券報告書に関連当事者取引注記の記載もれがあったとされています。また、それら重要な事項の記載が欠けている有価証券報告書を組込情報とする有価証券届出書を提出し(平成28年12月、平成29年6月、平成30年6月)、株券や新株予約権証券を募集し、取得させたとされています。
「被審人は、当時、被審人の代表取締役であったAが、医療法人社団B会(以下「B会」という。)の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有していたことから、B会との重要な取引について、「関連当事者との取引」に関する注記事項として連結財務諸表に記載しなければならなかったにもかかわらず、当該注記事項を記載しなかった。 」
「B会との間の取引を「関連当事者との取引」として記載しなかったことが「重要な事項」の不記載(記載すべき重要な事項の記載が欠けていること)に当たるか否か」が論点となっており、「決定要旨」では、「関連当事者の開示に関する会計基準」や同適用指針の規定を引用して説明しています。
「争点に対する判断」(13ページ~)で金融庁の判断が示されています。
まず、「重要な事項」の意義について。
「「重要な事項」とは、一般的には、投資者の投資判断に影響を与えるような基本的事項、すなわち、その事項について真実の記載がなされれば投資者の投資判断が変わるような事項をいうと解される。 」
「関連当事者との取引」の注記が「重要な事項」に該当し得るかどうかについて。
「会社と関連当事者との取引は、その全てが開示対象とはされておらず、「重要な取引」(会計基準第6項)のみが開示の対象とされている(第2の4(2))。
そうすると、開示対象となる関連当事者との取引は、そもそも重要な取引なのであるから、多くの場合、当該取引は投資者の投資判断の際に重視され得るものと考えられ、当該取引の記載の有無及び記載の真実性は投資者の投資判断に影響を及ぼすこととなる。」
「開示対象となる「関連当事者との取引」の範囲、「関連当事者との取引」の開示が要求された経緯・趣旨からすれば、「関連当事者との取引」は、多くの場合、会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼし、投資者の投資判断の際に重視され得る事項であるから、その記載の有無及び記載の真実性は投資者の投資判断に影響を及ぼすものであると考えられる。」
会計基準で「重要な取引」を注記しなさいといっていて、その重要性基準も示されているということは、その重要性基準に当てはまる取引はすべて「重要な取引」という意味なのだから、その記載がもれていれば、「重要な事項」の記載がもれていることになるのだという理屈のようです。すごく形式的な主張のように思われます。
こうした主張を行ったうえで、実際のB会との取引について、会計基準・適用指針の重要性判断基準にあてはめて検討しています。
会社にとって、意地悪だなあと思われる箇所もあります。
会社は、有報の「4 事業等のリスク」の「(3)特定の取引先・製品・技術等への依存 ①特定の販売先への依存について」において、問題となっているB会について、そこへの売上依存度が高いということを正直に記載しているそうです。金融庁は、それを逆手に取って、以下のように述べています。
「「4 事業等のリスク」欄は、グループの事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、被審人が、「投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項」を記載したものであり、必ずしも事業上のリスク要因に値しないと考えられる事項であっても、「投資への判断上、重要と考えられるもの」について、投資者への積極的な情報開示の観点から記載されたものである。
そうすると、被審人自身が、「4 事業等のリスク」欄に、被審人とB会との取引が売上高に占める割合が大きいことについて記載したということは、被審人自身、B会との取引が、「投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項」であり、「投資への判断上、重要と考えられるもの」と認識していたことを端的に示している。 」
これでは、リスク情報に正直に書いたために、罪が重くなってしまうということになってしまいます。関連当事者注記はもれていたが、リスク情報として、売上依存度が高いことを書いてあるのだから、注記のもれを補っているともいえ、むしろ、罪を軽くする方に判断すべきでしょう。
会社からすると、記述情報は、あいまいに、かつ最低限しか書かない方が有利だということでしょうか。
金融庁による課徴金納付命令の決定について(テラ)(PDFファイル)
現在進行中のこちらの問題の方がおもしろそうですが...
↓
テラ、コロナ治療薬開発巡る「FRIDAY」の記事に反論(IG証券)
「創薬ベンチャーのテラ<2191>が週末、新型コロナウイルス感染症向けの治療薬の開発を巡る週刊誌「FRIDAY」の記事への反論を発表した。共同研究先のセネジェニックス・ジャパンから情報開示を受けており、メキシコでの臨床試験の実施を確認していると表明している。」
「12日発売の「FRIDAY」2020年6月26日号は、テラが共同研究を進めているメキシコの病院に問い合わせた際、治験の責任者とされる医師は「(病院の)医療部門には存在しない」、「日本の会社による(新型コロナ感染症の)治験や新療法の話は聞いていない」との回答を得たと伝えた。」
当サイトの関連記事(課徴金勧告時)
テラ、第三者委員会の調査報告書を読んで……(2018年9月)(日経バイオテク)
「調査報告書は同時に、矢崎社長が長年、同社の取引先だったはずの医創会をコントロールする立場にあったと明らかにしました。そして、医創会からの滞留債権の回収に関して当初は、矢崎社長が安値で株式を売却し、矢崎社長が設立する株式会社がその売却先から株式の売却代金を借り入れ、医創会に融資を行って、医創会に滞留債権を返済させるスキームが動いていたことも判明しました。
結局、株式売却や借り入れは実現したものの、テラの社内から疑義が呈されて、同スキームは頓挫しましたが、そもそもそうしたスキームが動くこと自体、理解に苦しみます。また、上場廃止基準に抵触することを回避しようと、テラが医創会の滞留債権を回収しなければならなくなる中で、矢崎社長と医創会との密接な関係が、様々な株式売却や契約、資金調達に影響した様子を浮かび上がらせています。」
「最大の取引先だった医創会とテラがここまで密接な関係だったとなると、テラの樹状細胞ワクチン療法というサイエンス自体にも、疑いの目が向けられかねません。」
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