日本郵政が、子会社株式であるゆうちょ銀行株式で巨額の減損(評価損)を計上するかもしれないという記事。単体決算の話です。
「日本郵政は、ゆうちょ銀行の発行済み株式(自己株式を除く)の89%を保有しており、有価証券報告書によると、日本郵政単体のバランスシート(貸借対照表、BS)に計上している簿価は総額5兆7800億円に上る。日本郵政は1株当たりの簿価を開示していないが、簿価総額を保有株式数(33億3700万株)で割ると1732円。会計ルールでは、簿価の50%以下にまで下落すると事実上の強制減損になるため、仮に株価が簿価の半値である866円となった場合、5兆7800億円の半分の約2兆8900億円が吹っ飛ぶことになる。」
ゆうちょ銀行の株価は...
「10月24日の終値は1071円で、強制減損のポイントまでは少し距離があるように見える。しかし、一度は947円まで下げているだけに、「日銀のマイナス金利の深掘りなど、何かショックがあれば到達してもおかしくない水準」と、ある銀行アナリストは分析する。日本企業として過去最大規模の減損損失計上は決して絵空事ではない。」
減損計上の判断は...
「もちろん、ワンタッチで減損ポイントにヒットしたからといって必ず損失計上しなければならないというわけではない。減損が必要かどうかは、時価が1年以内にほぼ簿価の水準まで「回復する見込み」があるかどうか、によるからだ。例えば、会計監査を担当する監査法人に対して回復の見込みを合理的な証拠をもって納得させることができれば、損失計上を免れることも可能ではある。どの時点の株価を基準にするのかについても「1カ月の平均」や「9月末や3月末などの期末の終値」など、企業が設けた減損処理の内部ルールが適用される余地もある。」
上場企業は、昔と違って、連結中心の決算となっていますが、単体決算で大きな赤字が出れば、配当の可否に影響してきます。
「日本郵政の場合(19年3月末期)、配当に回せるのは、まず一義的な原資としての利益剰余金が7685億円だ。強制減損に追い込まれれば、この利益剰余金は“瞬間蒸発”してしまい、年間の配当総額約2000億円の原資は枯渇する。もちろん、会社法上は、「その他資本剰余金」を配当に回すことも可能だ。日本郵政のその金額は3兆6300億円に達するため、資本金や資本準備金の取り崩しに頼らずとも配当に回すことができる。」
記事では、その他資本剰余金から配当した場合の株主側の税務処理の煩雑さや、今後の日本郵政株式売り出しへの影響についてふれています。
単体決算も監査の対象となっている以上、監査人は、子会社株式の減損についても厳格に判断すべきでしょう。三洋電機のように単体決算の虚偽記載だけで処分された会社もあります。会計士も業務停止処分を受けています。
会計士協会の実務指針をみると、著しい下落や回復見込みについて以下のように規定しています。回復見込みは、50%まで回復すればいいというのではなく、取得原価に近い水準まで回復することを指します。
「時価のある有価証券の時価が「著しく下落した」ときとは、必ずしも数値化できるものではないが、個々の銘柄の有価証券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には「著しく下落した」ときに該当する。この場合には、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければならない。
上記以外の場合には、状況に応じ個々の企業において時価が「著しく下落した」と判断するための合理的な基準を設け、当該基準に基づき回復可能性の判定の対象とするかどうかを判断する。
なお、個々の銘柄の有価証券の時価の下落率がおおむね30%未満の場合には、一般的には「著しく下落した」ときに該当しないものと考えられる。
時価の下落について「回復する見込みがある」と認められるときとは、株式の場合、時価の下落が一時的なものであり、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのあることを合理的な根拠をもって予測できる場合をいう。...」(金融商品会計に関する実務指針91項より)
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