旧日本長期信用銀行の粉飾決算事件で、最高裁が、元頭取ら旧経営陣3人について、一、二審判決を破棄し、いずれも無罪とする判決を言い渡したという記事。
問題となっていたのは98年3月期決算です。
「裁判では、当時の会計慣行に照らして、決算が適正だったかどうかが争点となった。
02年9月の一審・東京地裁判決、05年6月の二審・東京高裁判決はともに、旧大蔵省が97年3月に出した通達に従って関連ノンバンクなどへの融資を厳しく査定するべきだったと認定した。
これに対して第二小法廷はこの通達が「大枠の指針」にとどまり、関連ノンバンクなどへの融資の査定に適用するには明確でなかったと指摘。同じ時期に大手18行中14行も長銀同様の会計処理をしていたことを挙げ、「従来の会計基準で査定しても違法とはいえない」と結論づけた。」
98年3月期の時点では、金融商品会計基準は適用されていないものの、債権の貸借対照表価額は貸倒見積額を控除した金額とするという企業会計原則は適用されていたはずであり、長銀の決算が会計原則に照らして本当に適正だったのかは疑問です。しかし、銀行業の会計慣行としては、大蔵省の通達にしたがって貸倒見積額を計算するしかないので、その解釈を論点とせざるを得ないのでしょう。最高裁判決によれば、通達は、定性的かつガイドライン的なものでしかなく、また、関連ノンバンク等に対する将来の支援予定額については、引当金を計上していない大手銀行が14行もあったそうですから、長銀の決算だけを問題視することはできません。妥当な判決だと思いますが、1審や2審で有罪になったのは、やはり国策捜査だったからでしょうか。
旧長銀粉飾決算:最高裁判決<要旨>
最高裁の判決では税効果会計についてもふれています。
「資産査定通達や4号実務指針の目指す決算処理のために必要な措置と考えられていた税効果会計(企業会計上の資産・負債と、課税所得計算上の資産・負債との間に差異がある場合、この差異にかかる法人税等の金額を適切に期間配分することによって、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等の金額を合理的に対応させることを目的とする会計処理)が導入されていなかった本件当時においては、改正後の決算経理基準に従って、有税による貸出金の償却・引き当てを実施すると、当期利益が減少し、自己資本比率(BIS比率)の低下に直結して、市場の信認を失い、銀行経営が危なくなる可能性が多分にあった。」(注:4号実務指針は会計士協会の実務指針)
しかし、この考え方は間違っています。当時の会計基準が税効果会計を認めていない以上、税効果会計を適用しないで計算した当期純利益が適正な金額です(投資不動産は時価評価するのが合理的かもしれませんが、だからといって現時点で不動産の評価益を計上したら粉飾決算になるのと同じです)。自己資本比率の計算上、税効果を加味するかどうかは、銀行監督上の問題であり、企業会計とは関係ありません。当局が、加味すべきだと考えたのであれば、加味した数値を銀行に提出させて、銀行監督上はその数値を使えばよいだけの話です。市場の信任を得るために必要であれば、税効果会計適用後の数値を企業会計上の数値とは別に公表するという策もあったはずです。さらに、「当期利益が減少し・・・銀行経営が危なくなる」からといって粉飾していいはずもありません。
裁判ではあくまで当時適用されていた会計基準や会計慣行に照らして判断すべきです。あるべき会計基準・会計慣行にもとづいて有罪になったり、無罪(今回のケース)になったりするのはおかしな話です。
また、仮に税効果会計が適用されていたとしても、当時の長銀の状況では、繰延税金資産の回収可能性からいって、自己資本を増やす効果はなかったと思われます。最高裁ですら、会計に関する理解は不十分なようです。
無罪という結論は妥当ですが、その理屈は100%納得できるものではありません。
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