9月13日開催の金融審議会総会・金融分科会合同会合の議事録が公開されています。
この会議では、資金決済制度(マネー・ロンダリング対策など)やデジタル・分散型金融などのほか、「会計監査を巡る動向」についても、金融庁事務局による説明と各委員からの意見表明があったようです。
そのうち、「会計監査を巡る動向」に関する委員の意見より。
「公認会計士が直面している1つの大きな問題というのは、トレンド的には受験者の数が激減してしまっているということです。足元では少し回復しているようですけれども、過去に比べると受験者の数が激減してしまっていて、多様な人材を採ることが少し難しくなってきているという問題もあります。かつ、これは少し細かい話にはなりますけれども、受験者の数が減ったこともあって、予備校が特定の科目だけで受けるように指導するようになって、昔のように、例えば民法とか経済学を選択して受験する人たちは、今、ほとんどいなくなっている。みんな別の特定の科目だけを選択して、公認会計士を受けるようになっているわけです。...ルーティーンワークはAIなんかで置き換えられるような時代になっていくわけですので、もう少し様々な人材が、育成もそうですけども、入口の段階でも採れるような仕組みづくりを考えて頂くことが大事なのかもしれないと思います。」(福田委員)
「AIを中心とする技術で監査の仕事の過半ができるようになると、今の会計士の皆さんは何をするのかという問題があります。...一般論として申し上げますけど、難しい公認会計士の試験を通ってきた割には、会社の経営全体に対するいろいろなインサイトであるとか、あるいは、当然ですが、経験がどうしても欠けてしまうわけです。...例えば、日本でなかなか市場の成長機会が取れない中で外国へ行くわけですけど、そうすると、地政学の問題とか環境リスクから始まって、例えば労働市場の問題とか、金融市場の問題とか、流動性とか、さらに細かく言えば、プロジェクトマネジメントをどうするかとか、経営計画をどうするとか、そういうすさまじいリスクの塊の中で事業経営をやっているわけですね。だから例えば、そういうところに人材の交流か何かという名目で1年か2年入ってもらって、企業のリスクの塊の現場で会社をどうやって回しているかということを会計士の皆さんに肌で知ってもらって、また戻って、それを集大成であるPLとかBSの中身がどうなっているかということの監査をやって頂く、そういうローテーションを組まないと、会計士の皆さんが技術を超えて新しい価値をつくっていくには、やっぱりそういうことが要ると思うんですね。...英語の問題があって、今、私が非常に危惧しているのは、例えばロンドンのPwCの本店で国際会計基準の議論あるいはデロイトのマンハッタンの本社でUSGAAPの議論をやるときに、立ち振る舞いがよくて、きちんと英語で日本の事情を説明できる方が何人いるかというと、ほとんどいらっしゃらないんですね。だから行く行くは、いろいろな事業の経験を通して、外国でいろいろもまれて、英語もできてという人をつくっていかないと、世界的に伍して、国際会計基準とかGAAPの議論をやるときに誰も日本人が入れないというような状況になるのを非常に危惧しております。」(河村委員)(日立製作所のCFOだそうです。)
「IT技術を活用して、会計監査コストを抑えつつ、全体で不正を抑止するというところを考えて頂ければと思います。その際に、やはりデジタルというのはいい面ばかりでもないと思っておりまして、例えば、一般論ですが、あらゆる情報が取れるというため、要らないかもしれないけど、あったらいいかもという情報を要求し過ぎてしまうことも起こりがちで、集めるほうのコストが増えてしまいますので、監査する側と監査される側のバランスを取った適切な情報収集があるといいかと思っております。
さらに、昨今はAI技術というものが増えてきておりますけれども、これも一言にAI技術と言っても、実は中で使われているアルゴリズムだったりとか、入力するデータの質によってさまざまなものがあり、その中には差別など、意図しない悪い結果が出てくるということも知られております。なので、細かく見ていくというのは大変だと思いますけれども、そういうところも注意深く、どういう技術を使っているのかというのが、透明性はどうだろうとか、気を付けて運用されるのがいいかなと思っております。」(佐古委員)
会計監査以外では...
「デジタル化の対応については、現在のデジタル・分散型金融を巡る議論というのは非常に最先端のことですので、これはこれでいろいろと考えておく必要があると思いますが、より地に足のついた形で、既存の金融機関が20年間にわたって提供しているインターネットバンキングがなぜこんなに利用されないのか、これから利用されるようにするにはどうすればよいかといったことについての検討が必要だという意味で、今の解決すべき課題と道具立てにミスマッチがあるのではないかということを指摘したいと思います。」(岩下委員)
「暗号資産のマイニングに伴う電力消費が環境問題を引き起こすという、極めて消費者協会の方らしい視点で、とても大事なことだと思います。この点を金融審議会の総会で話すことができるとは思いませんでしたが、今、ビットコインのマイニングのために使われている電力は、PwCのエコノミストの推計によれば、現時点で大体160テラワットアワー、日本全体で1年間で消費する電力が900テラワットアワーですから、日本の6分の1以上の電力をビットコインのマイニングのためだけに消費しています。この水準は今すごい勢いで上がっていますので、このまま放っておくと、先進国1か国分に匹敵するのも時間の問題かと思います。このような状態を放置しておくことは、CO2の削減という観点から非常に大きな問題ですが、先ほどおっしゃった再生可能エネルギーを使うように言うというのは、これは残念ながら、誰がマイニングしているのか全然分からないので、そういうことを強制することができません。このため、今のままだと、地球環境問題への対策は講じられないということになると思います。この点は暗号資産の大変深刻な問題と考えておりまして、その点については、ある意味で、これからグローバルな取組が必要になると思います。」(岩下委員)
「間接的な情報で大変恐縮ですけれども、外国人ぽい名前の人だけが個別に銀行からコンタクトがあって、いろいろ資料を出せと言われたのが、おそらくマネロン対策だろうが、すごく差別的な扱いであったというのを見聞きしました。この夏のオリ・パラでも、その際の運営のときにも、海外から来た人たちが差別的と感じるような言葉遣いとか、種々あったということを見聞きしておりますので、国際金融センターを目指すという意味でも、日本に行ったら差別的な扱いをされてしまうというようなレピュテーションが広がらないためにも、そういうことが起こっているということを留意して頂ければと思っております。」(佐古委員)
会計士の国際人材ということでいえば、「国際会計人材ネットワーク」というのがあって、大手監査法人も、それぞれ100人~200人台の人材を登録しています。「立ち振る舞いがよくて、きちんと英語で日本の事情を説明できる」というのはかなり高いハードルですが、登録されている人の全員とまではいわないまでも、それに近い人は、何割かいるのではないでしょうか。日立のCFOからみたらたよりないのかもしれませんが...。
試験に関しては、それぞれの受験生が、自分の能力に照らして最も合格しやすい科目選択を行うのはしかたがないでしょう。むしろ、経済学やなにかは、短答式の必須科目にすればよいと思います。
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