会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

オックスフォード・レポート「日本の経済社会に対するIFRSの影響に関する調査研究」(金融庁)

オックスフォード・レポート「日本の経済社会に対するIFRSの影響に関する調査研究(The Impact of IFRS on Wider Stakeholders of Socio-Economy in Japan)」の公表について

金融庁のサイトに、オックスフォード・レポート「日本の経済社会に対するIFRSの影響に関する調査研究(The Impact of IFRS on Wider Stakeholders of Socio-Economy in Japan)」という報告書が掲載されました。

「オックスフォード・レポート」というといんちき経済評論家の投資レポートみたいな名称ですが(かつて「プリンストン債」という商品もありました)、もちろんそんなものではなく、「我が国経済社会に対するIFRSの影響について、早急に広範囲な調査を行う必要があるため、オックスフォード大学トモ・スズキ常任・終身教授に調査研究を委託しました」というちゃんとした報告書です。

トモ・スズキ教授については、オックスフォード大学ビジネススクールのサイトに経歴等が掲載されています。
http://www.sbs.ox.ac.uk/research/people/Pages/TomoSuzuki.aspx

オックスフォード大学の先生が書いているわけですが、流暢な日本語で読めます。

報告書の中身ですが、主に日本とインドにおける関係者へのインタビューから構成されているようです。例えば、日本の大手監査法人のパートナーへのインタビューは以下のようにまとめられています。

「パートナー・CPA いや、おっしゃる通りです。ちょっとやり過ぎたかなという感じはあります、煽り過ぎ。IFRS が経営を変えるとか、会計戦争とか、これを早く導入しいないとものすごいことになるような雰囲気でしたよね。我々も少し営業しすぎでした。反省してます(笑)。

インタビュアーまあ、でも、会計士さんにしてみればビジネスチャンスですもんね、法律に違反しているわけでもないし。

パートナー・CPA いや、でも、結局やり過ぎだったと思いますね、かえって、IFRS を止めてしまったかなと。結局企業にメリットがないことを分かっていながらね、無理に勧めると不信を買うわけですよ。もうその前に内部統制の件でそうした状態になっちゃってましたからね。「ここにきてまたIFRSで儲けてやろうっていうんだろう」っていう感じでみられていたのはヒシヒシ感じましたよ。

インタビュアー企業にメリットはありませんか?

パートナー・CPA 先生(インタビュアー)が一番ご存じじゃないですか(インタビュアー:いやいや、どういうことですか)。所詮会計のことでね、コンバージェンスもだいたい終わっていてですよ、この不景気にお金をかけて、経営者の時間もかけてね、こんなことやっている余裕ないですよ。こちらだってIFRS やらなきゃいけないから契約してくれって、心底は言えなかったですよ。資本コストが下がるから、なんて言えるわけないですよ、上がるの分かってるんですから。

インタビュアーまあ、でも、そうした営業を皆さんなさったのでしょうね。

パートナー・CPA そりゃやりましたよ、どこの法人も。それが業績評価の一番ですからね。中小の監査法人からクライアントを取ってこいとかね、地方の中小までね、ここぞとばかりに行きましたよ。当初IFRS が全体に適用されるような雰囲気だったですからね。」

このほか、企業会計審議会の議事録からの引用も多数なされています。

このようなインタビューの手法については、報告書の末尾で以下のようにコメントしています。

「「うなずきの方法」や「反論の方法」のために、多くのインタビュイーが「この研究員は味方であろう」とか「敵であろう」との印象をもたれたかもしれない。仮に誤った印象を作り出してしまった経緯があれば謹んでお詫び申し上げる。」

これも学問的な調査方法のひとつなのでしょう。個人的な感想を言えば、あまり感心しませんが・・・。

報告書提出の経緯や費用負担については以下のように書かれています。

「本報告書は、2011 年末に委嘱された後、諸般の事情により2012 年3 月末までに提出することを余儀なくされた。」

「本報告書を上梓するために要した費用をカバーするため、金融庁より総額1,812,000 円を受けている。」

2百万円弱しか払っていないのは、少しケチっているような気もします。しかし、2百万円弱とはいえ国費を費やしているのですから、金融庁のサイトのトップページで大々的に告知すべきでしょう。

平成23年度 委託調査費に関する支出状況(10月~12月)(金融庁)(PDFファイル)

金融庁のサイトで公開されているこの資料によれば、この報告書(委託調査)は、昨年11月30日に随意契約で契約しています。金額が小さいということもあるのかもしれませんが、こんなに重要な調査なのに、一般競争入札でないというのは疑問です。調査能力のある学者が日本にいなかったのでしょうか。もちろん、2百万円弱でこれだけの成果物が得られれば税金は有効に使われたといえるでしょう。

(補足)

当サイトではこのレポートの特徴をよくあらわしていると思われる個所をごく一部抜粋して紹介しましたが、こちらのブログでは、レポート全体を見渡したまとめがなされており、参考になります。

IFRSに関するオックスフォード・レポートのまとめと見所

また、レポートの要約版(3ページ)が金融庁のサイトに掲載されています。

オックスフォード・レポート(要約版)日本の経済社会に対するIFRSの影響に関する調査研究 2012年3月30日(PDFファイル)

次回の企業会計審議会で配布するのでしょうか。
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