政府のコロナ対策における政治、官僚、専門家の関係について論じた記事。政治学者が書いています。
「新型コロナウイルス対策に関する安倍晋三首相の一連の意思決定に対する世論の評価は低い。その理由は、安倍政権の意思決定プロセスに問題があるためだと筆者は考える。特にコロナ対策で陣頭指揮を執る「専門家会議」が、有事を想定せずに「平時」と同じパターンで発足されたことに問題の本質があると考える。コロナ禍を奇貨として、日本の政策決定システムの抜本的な見直しを考えるべきではないか。」
一般論として、日本の政策決定全般についても述べていますが、企業会計・開示や会計監査・会計士制度に関する政府の意思決定プロセスにも当てはまる部分がありそうです。
「政策立案において、首相官邸・内閣府の主導が強まっていることは、かねて指摘されてきた(第183回)。しかし、官邸・内閣府が扱う政策案件は全体のごく一部で、政権が支持率を高く維持するために最重要と考える案件だけだ。...
一方、大多数の政策は首相官邸や内閣府が関わることなく、粛々と各省庁で立案され、実施されているのが実態だ。そして政策立案の始まりは、各省庁に設置される「審議会」である。そこに委員としてかかわるのが「専門家」だ。」
「各省庁の審議会では、事務局を務める官僚が議題を設定し、専門家を参考人として招致。彼らの意見を聞き、質疑応答の後に議事録を作成して次回の議案を作成する。審議会の委員は、実質的には質疑応答に参加するだけ。要は、官僚が完全に議論をコントロールしているのだ。
審議会で委員に求められる役割とは何か。筆者が英国に留学中、在外研究で英国に来ていたある経済学者に会ったことがある。彼は、政府の審議会委員の経験について「学者の役割は、官僚がやってほしいことにお墨付きを与える助言をしてあげることだよ」と言い切っていた。
故に、委員には現在の世界最先端の研究に携わっている若手が起用されることはほとんどない。学会等の推薦によって、かつて大きな業績を挙げた重鎮の学者が起用される。彼らは「御用学者」と呼ばれることがある。」
企業会計・会計監査の分野でも、企業会計審議会(会計基準・監査基準などを担当)、金融審議会(金商法による企業開示を担当範囲に入れている)といった正式の審議会の他にも、研究会とか有識者会合とか有識者検討会とか連絡協議会とかが、金融庁に設けられています。学者、経済界の代表、会計士などが、集められて、議論していることになっていますが、基本的には、官僚が書いたシナリオで動いているのでしょう。
会計基準だけは、あまりにもテクニカルな要素が強いので、外郭団体である財務会計基準機構(その中の企業会計基準委員会)にやらせています。独立した機関ということになっていて、がんばっていると思いますが、金融庁(あるいは経産省や法務省)の下請け仕事も多いようです。また、あくまで会計基準を担当しているだけであり、会計制度・開示制度全般に関して、大きな政策提案をする機能はなさそうです。
審議会などのシナリオを書く官僚に関しては...
「一方、政策を実質的に立案する官僚は、多くが東京大学などの学部卒である。財務官僚の多くが東大法学部出身で、彼らは基本的にジェネラリストの行政官だ。一度は海外留学する機会を持つ人が多いが、学部卒が多いために留学では修士号取得にとどまり、博士号まで取得する人は限られる。もちろん政策について一定の専門性は持っているが、それは行政の経験に基づくものだ。官僚が作成する政策案は、理論的というより現行制度をベースにした現実的なものになる。
一方、米国や英国など欧米の政府でも審議会はあるが、専門家が政策立案に関わる機会はそれだけではない。専門家は、若手の頃からさまざまなレベルでのポストに応募する機会がある。省庁では、政策の原案を練るところから多数の専門家が入り、先端の研究の知見が反映されることになる。
また、官僚組織が終身雇用・年功序列でないことから、専門家は大学・研究所・シンクタンク等と省庁の間を何度も行き来しながらキャリアを形成していく。これを「回転ドア(Revolving Door)」と呼び、終身雇用をベースに省庁を退官後に官僚が民間に籍を移す、日本の「天下り」と対比されることがある。
欧米のこの「回転ドア」は、大学と役所の専門家間で多くの「政策ネットワーク」が形成されることにつながる。また、省庁のポストには学会の推薦ではなく個人で応募する。そのため、学会に従順な専門家だけでなく、多様な学説を持つ専門家が政策立案に参画することになる。学説の間での「競争」が起こって政策案が磨かれ、政府の選択肢も増えることになる。」
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