会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東証、日産と監査法人を調査=ゴーン容疑者の役員報酬の虚偽記載(時事より)

東証、日産と監査法人を調査=ゴーン容疑者の役員報酬の虚偽記載

日産ゴーン事件に関して、東証が日産と新日本監査法人を調べるという記事。

「日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者の役員報酬をめぐる有価証券報告書への虚偽記載事件に関し、東証は日産を調査する方針だ。上場ルールに基づき、背景や内部管理体制などを詳しく検証する。会計監査を担当している新日本監査法人からも事情を聴く見通しだ。」

粉飾決算の話ではなく、金融庁が独自に決めた開示ルール(開示府令)に抵触しているかどうかの話なので、まず、金融庁に、どういうルールになっているかを確認すべきでしょう(検察のリークにもとづいて、いろいろと書きなぐっているマスコミも同様)。

“報酬隠し”は氷山の一角?…監査関係者「ゴーン容疑者は巨額すぎた」(産経)

大手監査法人関係者のコメントも...

「大手監査法人の関係者によると、一般的に企業の経営者は高額報酬ランキングの上位になれば、株主総会で批判の矢面に立たされるため、報酬を少なく見せるためあの手この手を使うのが実情という。

その手法の一つが、子会社からの報酬の形を取ることだ。有価証券報告書に記載義務のある子会社からの報酬は「主な連結子会社」に限られるため、主な子会社でなければ記載しなくていい。企業によっては報告書の開示欄に「報酬に含めるのは主な連結子会社」とわざわざ注釈を書き加える場合もある。」

「主な連結子会社」限定ですから、もちろん、問題となっているオランダ子会社のような非連結子会社は含まれないのでしょう。

役員報酬に関する金融庁の開示ルールについては、ルール公表時(2011年)に明らかにされた、パブコメで寄せられた意見に対する金融庁の考え方という資料があります。

その中の一項目より。

役員がその職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったものは、最近事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書で開示された場合を除き、最近事業年度に係る有価証券報告書に開示するべき報酬等に該当します。

例えば、提出会社が会計基準に従って退職慰労金繰入額を引当計上している場合、基本的に最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額が最近事業年度に係る報酬等に該当すると考えられ、当該繰入額を当該最近事業年度に係る有価証券報告書で開示していれば、実際に退職慰労金を支払う将来の時点で重ねて開示する必要はないと考えられます。」

あくまで、役員としての職務執行の対価を開示するのであって、役員を辞めた後に、(例えば顧問やコンサルタントとして)会社になんらかのサービスを提供する対価は、そもそも含まれていません。日産のケースでは、虚偽記載とされている金額は、ゴーン氏が役員を退任した後のコンサル報酬として支払うということですから、そもそも対象外といえます。

また、退任後のコンサル報酬ではなく、実質、退職慰労金だとしても(まだ払っていなくて退職後に払うのであれば、各年度の報酬ではなくせいぜい退職慰労金でしょう)、会計上引当て計上しているものを、開示すればいいのであって、引当てしていない場合は、開示は不要でしょう(退職時に費用計上され、開示される)。

内規で役員退職慰労金を決めている会社で、引当てしていない(したがって内規によってその期までに決まった退職慰労金要支給額も役員報酬として開示していない)会社もあると思われますが、その方法も認められているわけであり、日産の場合も同様に考えるべきでしょう。

この朝日の記事は、特捜部の考えを書いているようですが、間違っていると思います。

虚偽記載、総額80億円か ゴーン前会長の再逮捕も視野(朝日)

「複数の関係者によると、きっかけは、09年度の決算から、1億円以上の報酬を得た役員については名前と金額の個別開示を義務づけた制度改正だったという。

ゴーン前会長は改正前の20億円前後の報酬を維持しようとしたが、そのまま開示すると「高額だ」と批判されると懸念。開示する報酬を約10億円にとどめる「裏の仕組み」(関係者)の構築をケリー前代表取締役に指示し、メールなどでやり取りしたという。

特捜部は、ゴーン前会長と日産が毎年交わした文書を入手。そこには、年収総額を約20億円と明記したうえで、その年に受け取る約10億円、退任後に受け取る約10億円が分けて記載されていた。ケリー前代表取締役は、前会長の退任後の報酬を蓄積するため、経理部門も見抜けないよう経理操作していたという。」

もちろん、年間10億円、累計80億円が高すぎると思えば、退職金(あるいはコンサル報酬)支払いを決める取締役会が、それを認めなければいいだけでしょう。

ゴーン氏事件 検察を見放し始めた読売、なおもしがみつく朝日(Yahoo)

「読売は、1面トップで、【退任後報酬認めたゴーン容疑者「違法ではない」】という見出しで、

報酬の一部を役員退任後に受け取ることにしたことなど、事実関係を認める供述をしていることが関係者の話でわかった。ただ、「退任後の支払いが確定していたわけではなく、報告書への記載義務はなかった」と逮捕容疑は否認している

と報じている。

そして、3面で、【退任後報酬に焦点 報告書記載義務で対立】との見出しで、ゴーン氏の「退任後報酬」について、

ある検察幹部は、「未払い額を確認した覚書」を作り、報酬の開示義務がなくなる退任後に受け取ることにした時点で、過少記載を立証できる」と強調する。

との検察側の主張を紹介した上、ゴーン氏側の主張を改めて紹介し、

実際、後払い分は日産社内で積み立てられておらず、ゴーン容疑者の退任後、日産に蓄積された利益の中から支払われる予定だった。支払方法も顧問料への上乗せなどが検討されたが、決まっていなかったという。

と述べて、「退任後報酬」の支払が「確定していた」ことを疑問視する指摘をしている。

それに加え、専門家見解として、金商法に詳しい石田真得・関西学院大教授の

将来に改めて会社の意思決定が必要となるなど、受け取りの確実性に曖昧さが残る場合、罪に問えるかどうかは議論の余地がある。

とのコメントを紹介している。「議論の余地」と表現は控え目だが、開示義務を疑問視する見解であることは明らかだ。」

コメント一覧

kaikeinews
訂正報告書がどうなるか、注目ですね。
監査対象外の役員報酬だけでなく、監査対象である財務諸表の未払金(あるいは役員退職慰労引当金)の訂正がなされるのかどうか...

報じられている特捜部の理屈だと、PL上の費用が漏れていたということになり、未払金(または引当金)を計上しないと整合しません。

あるいは、財務諸表は重要性なしで訂正しないという手もある?
FSA
今まで20億円の報酬を、開示が必要になった年から、10億円にして、その差額10億円を埋めるためのコンサル契約ですから、金額ありきで実質は伴わないと思います。年齢的にも。
kaikeinews
また、退任後のコンサル契約だとして、それに実質が伴っているのであれば、役員在任期間の費用ではないといえるでしょう(当然開示対象でもない)。
kaikeinews
契約の中身がわからないとなんともいえませんね。
いずれにしても、すでに支払い済みのものを、報酬でないかのように仮装していたわけではなく、そもそも、まだ支払われていないという点は大きいと思います。

ゴーン氏側は、退任後に確実に受け取りできるような契約にしたかったのでしょうが、逆にそういう契約だと、会社法上、利益相反で無効になったりしないのでしょうか。弁護士としては、会社法違反にもならず、しかも、退任後に確実に受け取れるようなスキームを準備しないといけないわけですが、それはなかなか難しいように思われます。

引当金についていえば、役員在任期間への費用配分を重視すれば、支払までに取締役会などの承認という手続があったとしても、引当てが必要となるのでしょうが、承認されるまでは、会社に対する拘束力はないという点を重視すれば、引き当て不要と思います。
FSA
引当金は確定までしている必要はなく、可能性が高ければ計上すべきでは?文書化し、弁護士にまで意見を聞いた上でのスキームなので、支払可能性は相当高かったと思います。
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