会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

修正国際基準の公開草案に寄せられたコメント(企業会計基準委員会)

修正国際基準の公開草案に寄せられたコメント

「修正国際基準(案)」に対するコメントは、だいぶ前からASBJのウェブサイト上で公表されていたようですが、6月30日の基準確定に合わせて、ASBJの公式見解である「主なコメントの概要とそれらに対する対応」(コメントの概要とコメントへの対応を対比させて記載)も確定させたようです。

多くのコメントが寄せられているなかから、気になったものを抽出してみます(概要、対応とも、全文ではなく抜粋)。


まず、修正国際基準不要論。

「修正国際基準の任意適用が可能となることにより、我が国では 4 つの会計基準が並存することになる。
現状において日本基準を適用している企業は、ピュアな IFRS と修正国際基準のどちらか自社に都合の良い基準を選択して適用することが可能となる。
こうした状況は、単一で高品質な国際基準を策定するという本来の趣旨に反するものと思われ、財務諸表の企業間比較の有効性の観点からも問題があると考えられる。 」

「多大な社会的コストを掛けて「我が国の考え方を適切に表明し、我が国において受け入れ可能な会計基準等の開発を促し」、「我が国の市場関係者におけるIFRS への理解とより高品質な基準開発に向けた裾野の広い議論を深める」ことを主な目的とした、似て非なる会計基準を開発することにその意義、有効性、ひいては公益性は認めがたく、むしろ、4 基準併存により惹起される財務諸表利用者側の困難性や利便性の低下、国際的なレピュテーションの低下等、失うものの方が多いと考える。 」

これに対するASBJの対応は、金融庁からいわれたから作ったまでだというものです。

「我が国の会計制度に関するコメントである。当委員会は、企業会計審議会の「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下「当面の方針」という。)を踏まえ、修正国際基準の開発を行っている。なお、寄せられたコメントは制度を所管している金融庁に伝える。 」

これも不要論です。

「エンドースメント手続の目的が、ともすれば IASB に対する日本からの意見発信のための手段・方策でもあるかのように映る面があるが、そのような目的(日本からの意見発信)を実現するためであれば、会計基準の公表という社会並びに経済界への影響の強い方法でなく、他の方法により行われるべきと考えられる。」

→コメントへの対応「修正国際基準の公表による国際的な意見発信は、一定の便益をもたらすものと考えられる。 」

こちらも似たようなコメントです。

「一部の会計基準等を「削除又は修正」して採択する仕組みを設けることが、なぜ IASB への意見発信の強化につながるのかという点については、ASBJ が市場関係者に対して十分に説明していくべきと考える。」

→コメントへの対応「コメントを踏まえ、今後、市場関係者に対し十分な説明を行っていく所存である。」

のれんの会計処理について

「旧 IAS 第 22 号及び日本基準を参照して償却年数上限を 20 年としたものと推察するが、もとより 20 年という年数には確定的な理由があるわけではない。近年の国際的経営環境を俯瞰してみれば、経営環境の変化、およびそれに対応するための企業経営の短期的変化により、取得したのれん価値の持続期間が以前よりも短くなっていることは誰もが認めるところであろう。したがって、過去に決定された旧 IAS 第 22 号及び日本基準を踏襲する意義はない。また、本公開草案の「公表にあたって」の第 9 項には、「会計基準は,企業経営の規律をもたらすべきものであり・・・」と述べられており、この意義を考えると償却年数の上限を安易に長期とするべきではなく、最近の海外でののれんの償却を許容する基準の償却期間の設定状況を勘案すれば、例えば 10 年に短縮することを検討されたい。 」(これとは逆に上限不要というコメントもあり)

→コメントへの対応「・・・のれんの耐用年数については、のれんの効果が及ぶ期間を信頼性をもって見積ることは、一定の困難さがあると考えられるため、耐用年数の上限を設けることの合理性はあると考えている。その上で、国際的に 20 年は長いのではないかという意見も聞かれるが、短すぎる年数を設定すると実態を反映することが難しくなる可能性もあることから、本公開草案では上限を 20 年とすることを提案した。・・・結論の背景には、現在行われている国際的な議論を踏まえた記載を追加している。」

「今回の提案では、のれんは償却する一方で、企業結合によって取得された無形資産のうち耐用年数を確定できないものについては償却しないことになる。のれんから切り離されたブランド等の無形資産もその多くはのれんと似た性質をもつと考えられるため、のれんを償却する考え方に従えば、無形資産の価値も永続することはなく、経済的便益は徐々に消費されることになる。
したがって、のれんを償却するのであれば、耐用年数を確定できない無形資産の非償却に関する定めも「削除又は修正」すべきと考える。 」(同様の意見が他に数件あり)

→コメントへの対応「・・・のれんが残余として計算されるのに対し、耐用年数を確定できない無形資産については、関連するすべての要因を分析したうえでキャッシュ・フローをもたらす期間について予見可能な限度がないとされたものであるため、必ずしも同列で考える必要はないとの意見を踏まえ、本公開草案においては「削除又は修正」を行わないことを提案した。・・・」

「その他の包括利益の会計処理」について

「資本性金融商品についてリサイクリング処理と併せて減損処理を導入することに関して、IAS 第 39 号の減損に関する定めを用いることは、以下の理由から適切ではないと考えられる。
① IAS 第 39 号の減損に係る定めを用いることの意義は、IFRS からの乖離を小さくすることであると考えられるが、近い将来に当該定めは消滅するため、これを用いることの意義は限定される。
② IAS 第 39 号の「著しい」及び「長期にわたる」という要件は、日本の会計基準と比較しても厳しく、IFRS を適用している国においても不況時には大きな問題となった。IFRS 第 9 号の公表とそれに伴う IAS 第 39 号の廃止によって、この問題の解消が図られているが、今回の修正国際基準において当該減損に係る定めが用いられることにより、再びこの問題に向き合う必要が生じることになる。 」(同様のコメント数件あり。減損処理不要と修正すべきという意見もあり。)

→コメントへの対応「今回のエンドースメント手続は、2012 年 12月 31 日現在で IASB より公表されている会計基準等を対象としており、IAS 第 39 号も対象に含まれている。今回のエンドースメント手続において IAS 第 39 号における減損規定を「削除又は修正」しないこととしており、その点との整合性から、その他の包括利益を通じて公正価値で測定する資本性金融商品への投資に係る減損については IAS 第 39 号をベースとする原案どおりとした。」「IFRS においては、資産を原価ベースで測定する場合、回収可能価額を超える帳簿価額を付さないことを確保することが一般的に求められていると考えられる。そのため、減損損失の判定を要求する原案どおりとした。 」

このほか、退職給付会計関係のリサイクリングについても比較的多くのコメントが寄せられています。どういうタイミングでPLにもっていくのか、なかなか難しい議論のようです。
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