○マルチアンプスピーカーシステムへの憧憬
スピーカーシステムの理想はスピーカーユニットの組み合わせの自由度が高い「マルチアンプ形式」と考えます。
自由度の高さは使う側の技量が試されることでもあります。
スピーカーシステムは複数のスピーカーユニットが組み合わされて構成されます。
小型スピーカーシステムは、低音〜中音域を担当するフルレンジスピーカーユニットと高音域を担当するツィターの2ウェイシステムです。
中型スピーカーシステムは低音域のウーファー、中音域のスコーカー、高音域のツィターで構成される3ウェイシステムです。
スピーカーユニットの特性の良い帯域を取り出して組み合わせるのです。
帯域を更に分割した4ウェイ、5ウェイもあります。
○LCネットワーク方式スピーカーシステム
スピーカーボックス内に組み込まれています。アンプから来た信号をL(コイル)とC(コンデンサー)で帯域を分割し、R(抵抗)調整し、スピーカーユニットに信号を送る方式です。
市販されているスピーカーシステムのほとんどはこのLCネットワーク方式です。
*一寸と寄り道
低音域は音量調整用の抵抗は入れません。ダンピングファクターが落ち、制動が甘くなるからです。
振動板が大きく重いウーファーは慣性力が大きく、逆起電力が発生します。アンプはこれを止める(ダンピング)役割がありますが、LCネットワーク(コイル、コンデンサー、抵抗)が入るとダンピングファクターが落ちるのです。
基本的に中域、高域等に使用するスピーカーユニットの能率はウーファーより高いものしか使えません。ウーファーの能率で制限されると考えて良いでしょう。
スピーカーシステムの能率を高めるため、ダブルウーファーにすることがあります。JBL4343、JBL4350は共に4ウェイスピーカーシステムですが、後者はダブルウーファーシステムです。
○マルチアンプ方式スピーカーシステム
パワーアンプとスピーカーユニットはダイレクトに接続されます。パワーアンプの前にチャンネルディバイダー(アンプ)があり、パワーアンプが担当する音帯域を電気的に分割します。
スピーカーユニットの能率差はチャンネルディバイダーのボリューム、パワーアンプのボリュームで埋めます。LCネットワーク方式では大きな問題となる各帯域を担当するスピーカーユニットの能率差を考えずに済みます。
プリアンプ、チャンネルディバイダー(基本1台)の後に各帯域を担当する複数のパワーアンプで構成されます。
4ウエイスピーカーシステムでは4組(モノラルアンプなら8台)のアンプが必要。かなり大掛かりなスピーカーシステムです。
高能率スピーカーユニットには音質優先のA級、低能率スピーカーユニットには高出力D級アンプ。真空管アンプと半導体アンプの併用ができます。
パワーアンプとスピーカーユニットの間に抵抗が入らない。ダンピングファクターは下がらない。低能率のウーファーも高出力パワーアンプと組み合わせることが使用可能となります。
LCネットワークはL(コイル)とC(コンデンサー)で不要帯域はカットされる。高能率のホーンスピーカーユニットを使う場合でも、ポップノイズ等の不意の低音信号が入っても安全です。
マルチアンプ方式にはそれがありません。鞘に入っていない抜き身の白刃状態。何らかの保護対策が必要です。
現に、自分はJBLツィター2405を飛ばした経験あり。安全対策としてカットオフ周波数よりかなり低い値のC(コンデンサー)を挟んでいました。安全策のためととは言え、矛盾することをしていました。
オーディオの主役はスピーカーシステムと考えます。それを活かすかために脇役(アンプ等)を組む。
しかし、マルチアンプスピーカーシステムではアンプが目立つようになる。主役はマルチアンプ?
チャンネルディバーダー、アンプを交換して楽しむ(悪戦苦闘する)オーディオマニア向きでしょう。
マルチアンプシステムには大きく二つのタイプがあります。
スピーカーユニット個々を全て、個々別々にドライブするフル・マルチアンプ方式とスピーカーユニットの一部をネットワークで結合するパート・マルチアンプ方式です。
大ヒットしたJBL4343の前身モデルJBL4340は4ウエイスピーカーシステム。ミッドバス、ミッドホーン、ツィターの間はLCネットワーク式で一つのアンプで駆動、ウーファーだけを別のアンプで繋ぐパートマルチアンプシステムです。パートマルチアンプシステムでは高能率ホーンのドライバーを破損する危険はありません。
JBL4343は4340の発展系。LCネットワーク式であると同時にパートマルチアンプにも対応しています。
○マルチアンプスピーカーシステムの特徴
メリット①
スピーカーユニットの能率差による制限がない。スピーカーユニットの能率差はアンプの選択とボリュームで調整可能。
LCネットワークスピーカーには向かない「高能率ウーファー」と「低能率ツィター」の組み合わせが可能となる。
メリット②
スピーカーユニットとアンプは1:1の関係にある。
組み合わせの自由度が高い。A 級〜D級アンプ、半導体アンプ、真空管アンプの混在させることも可能です。
メリット③
クロスオーバー周波数、カットオフカーブ(6db、12db、18db・・・)がスピーカーユニット毎に自由に変更できるので、スピーカーユニットの特性が活かせます。
スピーカーユニット選択の自由度が広がります。
デメリット①
使い勝手が悪い。電源を入れる順は川上側(プレイヤー)から川下側(パワーアンプ)へ、電源を切る順はその逆にしなければなりません。ポップノイズでホーンツィターは飛ぶかも・・・断線しないまでも、ホーンドライバーにダメージを与えます。
高域・中域のスピーカーユニットを保護する必要がある。パワーアンプでは即断機能が必要です。
デメリット②
チャンネルドライバーをグラフィックイコライザー的にいじることも可能です。
歯止めがなくなる。聴感頼りの調整は危険です。客観的に聴けば、めちゃくちゃなことになっている可能性が高い。
以上がマルチアンプスピーカーシステムの「理想と現実」(自分なり解釈)です。
◎自分の挫折記録
マルチアンプ形式の遍歴はかなりありました。最終形のみを紹介します。
◎スピーカーシステム
○スピーカーユニット (全てJBL製)
・高域 2405(プロフェッショナルシリーズ) 075の広域拡張版
・中域 375(従来品最終バージョン) + ウッドホーン(パイオニア・エクスクルシーブ)
・低域 2220A(プロフェッショナルシリーズ) 130A相当品(フルレンジユニット130のウーファー版)
*JBLプロフェッショナルシリーズは、全て新設計ユニットではなく、従来品ユニットの型番を4桁の数字に置き換えた2種類がある。例えば、2440は従来品375。2402は従来品075と同等品です。
自分は勢いのある高能率JBL(旧製品群)が好きでした。高域2405は当時の高音域の拡張の流れに従って導入したものです。失敗でした。2402(075)を選ぶべきでした。
○スピーカーボックス 光陽電気製音響迷路
形はバックロードホーンに似ています。音響迷路は最低音域を増強することを目的としており、密閉箱の最低音域を増強するイメージに近い。
低音域を広く増強するバックロードホーンのような迫力はありません。
◎アンプ類 全てラックス製です。
○プリアンプ CL - 36U
CL-35シリーズの最終バージョン 漆塗り(オプション)ウッドケース入り
○チャンネルディバイダー A-2003 真空管式3ウエイ仕様
クロスオーバー周波数は基盤交換式 カットオフスロープ:ー6d b、ー12db
○パワーアンプ
・高域用 MQ80(ステレオアンプ) 1台
出力管 双三極管6336A
・中域用 MQ68C(ステレオアンプ):MQ60をNFB切り替え可能にしたcustom版をBTL接続にして使用 2台
出力管 50CA10(NECと共同開発品)
・低域 MB3045(モノラルアンプ) 2台
出力管 8045G(NECと共同開発品) 後にGE製 KT88に交換
ラックス製真空管アンプとJBLスピーカーユニットを使用した3ウェイマルチアンプスピーカーシステムです。
これは自分が店員同様に出入りしていたオーディオ店がラックス、サンスイ(JBL)の特約店で、試聴する機会が多かったからです。
◎マルチアンプスピーカーシステムに思う。
今もマルチアンプスピーカーシステムが一つの理想と思っています。しかし、自分にはハードルが高い。
4343ならパートマルチアンプが出来る。面白いかも・・・・
現代設計のスピーカーはアンプ内蔵型があります。その多くはマルチアンプ形式です。音作り(例えば低域の増強)が出来る。
LCネットワークを真面目に考えると、物量主義になる。コストもそれなりに掛かる。今の技術なら、チャンネルディバーダーもパワーアンプもIC化で小型且つ安価にできる。小型システムコンポのアンプ内蔵型スピーカーはこの形です。
ユーザー側もマルチアンプスピーカーを使っている意識はないでしょう。