きのう会った母は・・・
ぜんまいの切れた人形のようだった
たぶん・・・誰かに座らされたまま・・・ずっとその状態だったのではないかと思う姿勢
力のない瞳
いつもなら・・考えられないのだけれど
差し入れた食べ物も
黙々と口には運ぶけど・・・
・・言葉も出ない
嫌でも 生きる意味を・かんがえさせられる
母は・・それでも・・・生命体として・・・生きているのだ
リュウマチで・・ひん曲がった指は
何かをぎゅうっと握り閉めているように 硬く結ばれていたから・・・
何を握っているのかと思って・・母の指を開いてみたが
空だった
食事をする時以外・・ほとんど使われない手は・・こうして意味もなくずっと握られているのだろう・・・
母の手は・・・今迄で見た中で一番ゆがんでいて・・・更に小さく見えたから
指を伸ばして・・必死にさすってみた
まっすぐな~れ・・まっすぐな~れ
心なしか、ましになったような気がする
そして・・・私は いつもより おしゃべりになる
昔・・・おかあちゃんがその手を使って
どれだけおいしい物を作ってくれたかを・・語る
お母ちゃんの焚いた黒豆は、天下一品だったとか
あの当時、自宅でホワイトソースから手作りしてグラタンを作る人は稀だったとか
我が家で食事をした中学当時の友人は お母ちゃんのお料理を褒めていたとか・・・
わたしの料理の味も、セリの料理の味も、おかあちゃんの味に似ているとか・・・
お母ちゃんの命は どれほど多くのことをしてきてくれたか・・を
ずっと、手をさすりながら懸命に話す
そしたら・・・なんだか・・私自身 普段思い出さないようなことまで
次々とあふれてきて
実家には親戚一堂が集まる為・・母は大晦日もずっと御節を作っていて
わたしも手伝わしてもらって・・きゅうりや鶉の卵の上にイクラを乗せるのと味見は
わたしの役割りだったとか
セリを産むまでの10ヶ月 ほとんど入院して過ごした私の元に
悪い足を引きずって、隔日のように見舞いに来てくれたとか
生まれて2ヶ月ほどで高熱を出して入院したセリのために
わたしと交代で、病院に寝泊りしてくれたとか・・・
最初は母に元気を取り戻してもらうために 話し出した事なのに・・・
どれだけ多くのことを私はしてもらったのだろうかと思い知る
「おねえちゃん(私のこと)に迷惑かけるのが辛い」という母に・・・私は 必死に言う
わたしの方が・・どんだけ助けてもらったか・・
お母ちゃんのしてくれた事の方が・・まだまだ・・おつりがくる
私は・・人に直に触れるのが苦手だ
思っていても・・相手が嫌がったらと思うと 抱きしめたり・・・できない
なのに・・なんでだろう・・・
車椅子に座っている母を抱きしめてみた
手だけでなく・・頬をさすり・・腕をさすり・・背中をさする
どんどん冷たくなって硬くなってしまいそうな母の体も心も
手と我が身の体温と思い出の言葉で・・・あたためたいと思った
母は・・・・つかのま 息を吹き返す
会えて・・・うれしい・・・と 涙を流しいて喜んでくれた
血が通ったように・・・少し話し・・・笑い・・・泣いた
錆びついたゼンマイは・・少し動いて
人形が・・母に戻る
私は・・たぶん・・今もこうして
母からのお蔭をもらっている
母が長生きしてくれてなかったら・・
生きているうちに 母がしてくれた多くのことを感謝することもなかっただろう
生身の母を抱きしめる事などできなかったろう・・・
ゆっくり・・ゆっくり時間をくれたから・・
赤ん坊の頃 わたしを抱いていてくれた分
今・・・やっと・・母を・・・わずかでも抱き返す時間をもらった
ありがとうね
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