昨日の橋本さんの寄稿された「ナラ枯れ」の件を調べてみると、ネット上にたくさんの記事がありました。参考までに引用させていただいてアップしました。
日本森林学会誌から
「カシノナガキクイムシとその共生菌が関与するブナ科樹木の萎凋枯死
被害発生要因の解明を目指して」 小林正秀・上田明良 京都府林業試験場
カシノナガキクイムシの穿入を受けたブナ科樹木が枯死する被害が各地で拡大している。本被害に関する知見を整理し,被害発生要因について論じた。枯死木から優占的に分離されるRaffaelea quercivoraが病原菌であり,カシノナガキクイムシが病原菌のベクターである。カシノナガキクイムシの穿入を受けた樹木が枯死するのは,マスアタックによって樹体内に大量に持ち込まれた病原菌が,カシノナガキクイムシの孔道構築に伴って辺材部に蔓延し,通水機能を失った変色域が拡大するためである。未交尾雄が発散する集合フェロモンによって生じるマスアタックは,カシノナガキクイムシの個体数密度が高い場合に生じやすい。カシノナガキクイムシは,繁殖容積が大きく含水率が低下しにくい大径木や繁殖を阻害する樹液流出量が少ない倒木を好み,このような好適な寄主の存在が個体数密度を上昇させている。被害実態調査の結果,大径木が多い場所で,風倒木や伐倒木の発生後に最初の被害が発生した事例が多数確認されている。これらのことから,薪炭林の放置によって大径木が広範囲で増加しており,このような状況下で風倒木や伐倒木を繁殖源として個体数密度が急上昇したカシノナガキクイムシが生立木に穿入することで被害が発生していることが示唆された。
ウィキペディアから
カシノナガキクイムシ
カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)とは、コウチュウ目・ナガキクイムシ科の昆虫である。広葉樹に被害を与える害虫である。成虫の体長は5mm程度の円筒状であり、大径木の内部に穿孔して棲息する。穿孔された樹木は急速に衰える。夏場でも葉が真っ赤に枯れることから、景観上の問題となることもある。
概要
夏場に枯損が深刻化する。樹木の周囲に、穿孔した木のくずが散乱することも特徴である。樹種はカシ、シイ、ナラ類が対象となりやすく、しばしば大量発生と衰退を繰り返す。針広混交林の里山でも被害は見られることから、松くい虫の被害と混同されることがあるが、両者に関連性は無い。
本種は「養菌性キクイムシ」と呼ばれるグループに属し、幹に掘ったトンネル(孔道)の内壁に繁殖した菌類を食べて生活している。体には、マイカンギアと呼ばれる菌類を保持する特殊な器官があって、枯れた木から生きている木へと菌類を運ぶ。本種と強く結びついている菌類としては、カビの仲間であるRaffaelea quercivora[1](俗に「ナラ菌」と呼ばれる)がよく知られる。
本種による影響の例として、京都市の「五山送り火」で知られる如意ヶ嶽(大文字山)など東山連峰では、2005年から2009年までの5年間に亘り、本種の影響と見られるナラ枯れの被害が拡大している[2]。
対策
対策として、伐倒及び燻蒸処理があるが、極めて広範囲で発生することから現実的ではない。被害が拡大しても、全ての樹木に被害が出るわけではないこと、また、枯損木の周囲で天然更新が行われることから、山が丸裸になることはない。
<参考・関連ホームページ>
林野庁/ナラ枯れ被害 - 農林水産省
http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/naragare.html
カシノナガキクイムシ の画像検索結果https://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%AB%E3%82%B7%E3%83%8E%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%82%AD%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%B7&biw=1256&bih=619&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&sqi=2&ved=0CDEQsARqFQoTCML27cPj6MYCFQOnlAodGs4AIA
東北森林管理局/カシノナガキクイムシ - 林野庁http://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/syo/asahi/siryou/kasinaga.html
「ナラ枯れは「地元」のカシノナガキクイムシが起こしている」という説と「大径木は昔からいくらでもあった。それでも大発生はなかった。この事実はどう説明するのだろうか。」そうだろうかと疑問を呈する意見と両方ある。さて、どうだろう???
ナラ枯れは「地元」のカシノナガキクイムシが起こしている
-遺伝子解析が示すナラ枯れ被害拡大の要因-
ポイント
ナラ枯れを媒介する「カシノナガキクイムシ」の遺伝的変異を解析したところ、被害を受けるナラ類と同様に、本州の北東と南西で遺伝子の組成が明瞭に異なっていることが明らかになりました。
このことから、カシノナガキクイムシは近年になって気候変動によって北方に分布を広げたのではなく、以前から各地に生息しており、昨今の森林環境の変化にともなって被害が顕在化したと推定されました。
概要
最近、ミズナラなどが集団で枯れる被害が顕著になっています。その原因は病原菌で、「カシノナガキクイムシ」という昆虫に運ばれて、寄主であるナラ類に被害をもたらしていることが分かっています。今回、「カシノナガキクイムシ」の遺伝的変異を解析したところ、本州中部を境にして遺伝的な組成が大きく異なることが判明しました。この違いは「カシノナガキクイムシ」の寄主であるナラ類の遺伝的変異の分布とも一致し、両者が長くそれぞれの場所で共存してきたことを示しています。したがって、現在のナラ枯れ被害は、気候変動等により「カシノナガキクイムシ」が南西から北東へ急激に分布を拡大したためではなく、里山の放置等による樹木の大径木化など、他の環境変化に原因があることが強く示唆されます。
農業情報研究所>環境>森林>ニュース:2011年2月2日
ナラ枯れ蔓延の原因は里山放置等気候変動と無縁な環境要因の変化 森林総研の新研究
森林総合研究所のカシノナガキクイムシの遺伝的変異の解析は、最近顕著になっている「ナラ枯れ被害は、気候変動等により「カシノナガキクイムシ」が南西から北東へ急激に分布を拡大したためではなく、里山の放置等による樹木の大径木化など、他の環境変化に原因があること」を「強く示唆」しているそうである。
森林総合研究所プレスリリース ナラ枯れは「地元」のカシノナガキクイムシが起こしている-遺伝子解析が示すナラ枯れ被害拡大の要因- 2011年1月31日
http://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2011/20110131/documents/20110131.pdf
研究論文本文:http://www.biomedcentral.com/1472-6785/10/2
プレスリリースによれば、「ナラ枯れがなぜ猛威をふるうようになったのかには大きく二つの仮説が知られています。一つは、もともと涼しいところに生育するミズナラに、それまで生息していなかった南方系のカシノナガキクイムシが温暖化等により分布を北上させて接触し、共進化の関係がなかったために激しい被害が出ているとする仮説です。もう一つは、ナラ類が燃料として利用されなくなって、本種の寄生に適した大径木が増えたことなど環境条件の変化によって大発生しやすくなり、各地の個体群がそれぞれ急増したという仮説です。そこで、遺伝子に残されたカシノナガキクイムシの分布の変化の跡をたどることにより、2つの仮説を検討し、被害拡大の要因を探ることを試みました」というとだ。
研究の結果は次のとおり。
「最北端の被害地である秋田県から京都府にかけての14地域のカシノナガキクイムシ集団について、マイクロサテライトマーカー用いて遺伝的構造を調べました。その結果、本州の北東部と南西部ではカシノナガキクイムシの遺伝的組成が異なっていることがわかりました。このことから、本州南西部のカシノナガキクイムシが本州北東部に分布域を広げたのではないことが分かります。ナラ枯れの被害を受けるミズナラやコナラも、これと同様に北東部と南西部で遺伝的組成が異なることが知られていま
す。
こうしたことから、現在大発生しているカシノナガキクイムシはその寄主であるナラ類とともに、それぞれの地域で長い時間をかけて共進化してきたものと考えられます。従って、カシノナガキクイムシが近年に北上したという仮説は支持されません。逆に、ナラ枯れ被害はその地域にもともと生息していたカシノナガキクイムシが、環境条件が好転したために大発生ていることが示唆されます。また、同じ地域の中でも場所が離れると遺伝的に遠くなることが認められましたが、それは大発生した本種が近隣に移動し、その場所の個体群と交配しながら大発生し、さらに近隣の場所へと少しずつ分布を拡大しているためと推察されます」。
しかし、この研究によって、好転した「環境条件」が「里山の放置等による樹木の大径木化」だとどうして確認、あるいは断定できるのか。もともと地元にいたカシノナガキクイムシを大発生させた環境条件の変化に「気候変動」が含まれる可能性を何故排除するのか、やはり我田引水の結論の匂いがする。未だ大発生が見られない白神山地や八甲田には、カシノナガキクイムシはもともといなかったとでもいうのだろうか。それとも、気候変動とはまったく無関係な「少しずつの分布の拡大」が、まだこの地まで到達していないだけということなのだろうか。
ともあれ、大径木は昔からいくらでもあった。それでも大発生はなかった。この事実はどう説明するのだろうか。
ナラの木が枯れる被害の拡大要因を解明
:森林総合研究所
(独)森林総合研究所は1月31日、ナラの木が枯れる「ナラ枯れ」を媒介する「カシノナガキクイムシ」の遺伝的変異を解析したところ、被害を受けるナラ類と同様に、本州の北東部と南西部で遺伝子の組成が明瞭に異なっていることが分かったと発表した。
最近、日本海沿岸を中心に、ミズナラなどのナラの木が枯死する現象、いわゆるナラ枯れが目立ち、現在もその被害地域は拡大している。ナラ枯れは、カシノナガキクイムシという体長4~5mmの黒い円筒状の形をした昆虫が、ナラ枯れをおこす病原菌(ナラ菌)を運び、寄生するナラ類に被害をもたらしている。
ナラ枯れが猛威をふるうようになった理由については、大きく分けて、近年の気候の温暖化によりカシノナガキクイムシが分布を北方に広げたという仮説と、ナラ類が燃料として利用されなくなり、カシノナガキクイムシが寄生しやすい大きな木が増えた環境条件の変化によるという仮説の2つがあった。
同研究所では、今回、遺伝子に残されたカシノナガキクイムシの分布の変化の跡をたどることにより、2つの仮説を検討し、被害拡大の要因を探った。
研究では、最北端の被害地である秋田県から京都府にかけての14地域で、カシノナガキクイムシの集団を対象に、「マイクロサテライトマーカー」という遺伝子の並び方の違いを調べる方法を用いて、遺伝的構造の変異を調べた。
その結果、本州中部を境にして、本州の北東部と南西部ではカシノナガキクイムシの遺伝的な組成が大きく異なっていることが判明した。
被害を受けているミズナラやコナラも、本州の北東部と南西部では遺伝的な組成が異なることが知られており、カシノナガキクイムシの遺伝的な組成の変異は、寄生するナラ類の遺伝的変異の分布と一致した。
こうしたことから、カシノナガキクイムシは、気候変動により本州南西部から北東部に分布を広げたものではなく、それぞれの地域に元々生息していたカシノナガキクイムシが、近年里山の放置などによる樹木の大木化など、森林環境の変化によって大発生する条件が増え、ナラ枯れの被害が顕在化したと推定された。
今後、カシノナガキクイムシの集団間の遺伝的変異を、より細かく調べることにより、離れた被害地間での移動の実態などの推定が可能になり、こうした情報によって翌年の被害地予測などに活用できるものと期待される。
日本森林学会誌から
「カシノナガキクイムシとその共生菌が関与するブナ科樹木の萎凋枯死
被害発生要因の解明を目指して」 小林正秀・上田明良 京都府林業試験場
カシノナガキクイムシの穿入を受けたブナ科樹木が枯死する被害が各地で拡大している。本被害に関する知見を整理し,被害発生要因について論じた。枯死木から優占的に分離されるRaffaelea quercivoraが病原菌であり,カシノナガキクイムシが病原菌のベクターである。カシノナガキクイムシの穿入を受けた樹木が枯死するのは,マスアタックによって樹体内に大量に持ち込まれた病原菌が,カシノナガキクイムシの孔道構築に伴って辺材部に蔓延し,通水機能を失った変色域が拡大するためである。未交尾雄が発散する集合フェロモンによって生じるマスアタックは,カシノナガキクイムシの個体数密度が高い場合に生じやすい。カシノナガキクイムシは,繁殖容積が大きく含水率が低下しにくい大径木や繁殖を阻害する樹液流出量が少ない倒木を好み,このような好適な寄主の存在が個体数密度を上昇させている。被害実態調査の結果,大径木が多い場所で,風倒木や伐倒木の発生後に最初の被害が発生した事例が多数確認されている。これらのことから,薪炭林の放置によって大径木が広範囲で増加しており,このような状況下で風倒木や伐倒木を繁殖源として個体数密度が急上昇したカシノナガキクイムシが生立木に穿入することで被害が発生していることが示唆された。
ウィキペディアから
カシノナガキクイムシ
カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)とは、コウチュウ目・ナガキクイムシ科の昆虫である。広葉樹に被害を与える害虫である。成虫の体長は5mm程度の円筒状であり、大径木の内部に穿孔して棲息する。穿孔された樹木は急速に衰える。夏場でも葉が真っ赤に枯れることから、景観上の問題となることもある。
概要
夏場に枯損が深刻化する。樹木の周囲に、穿孔した木のくずが散乱することも特徴である。樹種はカシ、シイ、ナラ類が対象となりやすく、しばしば大量発生と衰退を繰り返す。針広混交林の里山でも被害は見られることから、松くい虫の被害と混同されることがあるが、両者に関連性は無い。
本種は「養菌性キクイムシ」と呼ばれるグループに属し、幹に掘ったトンネル(孔道)の内壁に繁殖した菌類を食べて生活している。体には、マイカンギアと呼ばれる菌類を保持する特殊な器官があって、枯れた木から生きている木へと菌類を運ぶ。本種と強く結びついている菌類としては、カビの仲間であるRaffaelea quercivora[1](俗に「ナラ菌」と呼ばれる)がよく知られる。
本種による影響の例として、京都市の「五山送り火」で知られる如意ヶ嶽(大文字山)など東山連峰では、2005年から2009年までの5年間に亘り、本種の影響と見られるナラ枯れの被害が拡大している[2]。
対策
対策として、伐倒及び燻蒸処理があるが、極めて広範囲で発生することから現実的ではない。被害が拡大しても、全ての樹木に被害が出るわけではないこと、また、枯損木の周囲で天然更新が行われることから、山が丸裸になることはない。
<参考・関連ホームページ>
林野庁/ナラ枯れ被害 - 農林水産省
http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/naragare.html
カシノナガキクイムシ の画像検索結果https://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%AB%E3%82%B7%E3%83%8E%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%82%AD%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%B7&biw=1256&bih=619&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&sqi=2&ved=0CDEQsARqFQoTCML27cPj6MYCFQOnlAodGs4AIA
東北森林管理局/カシノナガキクイムシ - 林野庁http://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/syo/asahi/siryou/kasinaga.html
「ナラ枯れは「地元」のカシノナガキクイムシが起こしている」という説と「大径木は昔からいくらでもあった。それでも大発生はなかった。この事実はどう説明するのだろうか。」そうだろうかと疑問を呈する意見と両方ある。さて、どうだろう???
ナラ枯れは「地元」のカシノナガキクイムシが起こしている
-遺伝子解析が示すナラ枯れ被害拡大の要因-
ポイント
ナラ枯れを媒介する「カシノナガキクイムシ」の遺伝的変異を解析したところ、被害を受けるナラ類と同様に、本州の北東と南西で遺伝子の組成が明瞭に異なっていることが明らかになりました。
このことから、カシノナガキクイムシは近年になって気候変動によって北方に分布を広げたのではなく、以前から各地に生息しており、昨今の森林環境の変化にともなって被害が顕在化したと推定されました。
概要
最近、ミズナラなどが集団で枯れる被害が顕著になっています。その原因は病原菌で、「カシノナガキクイムシ」という昆虫に運ばれて、寄主であるナラ類に被害をもたらしていることが分かっています。今回、「カシノナガキクイムシ」の遺伝的変異を解析したところ、本州中部を境にして遺伝的な組成が大きく異なることが判明しました。この違いは「カシノナガキクイムシ」の寄主であるナラ類の遺伝的変異の分布とも一致し、両者が長くそれぞれの場所で共存してきたことを示しています。したがって、現在のナラ枯れ被害は、気候変動等により「カシノナガキクイムシ」が南西から北東へ急激に分布を拡大したためではなく、里山の放置等による樹木の大径木化など、他の環境変化に原因があることが強く示唆されます。
農業情報研究所>環境>森林>ニュース:2011年2月2日
ナラ枯れ蔓延の原因は里山放置等気候変動と無縁な環境要因の変化 森林総研の新研究
森林総合研究所のカシノナガキクイムシの遺伝的変異の解析は、最近顕著になっている「ナラ枯れ被害は、気候変動等により「カシノナガキクイムシ」が南西から北東へ急激に分布を拡大したためではなく、里山の放置等による樹木の大径木化など、他の環境変化に原因があること」を「強く示唆」しているそうである。
森林総合研究所プレスリリース ナラ枯れは「地元」のカシノナガキクイムシが起こしている-遺伝子解析が示すナラ枯れ被害拡大の要因- 2011年1月31日
http://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2011/20110131/documents/20110131.pdf
研究論文本文:http://www.biomedcentral.com/1472-6785/10/2
プレスリリースによれば、「ナラ枯れがなぜ猛威をふるうようになったのかには大きく二つの仮説が知られています。一つは、もともと涼しいところに生育するミズナラに、それまで生息していなかった南方系のカシノナガキクイムシが温暖化等により分布を北上させて接触し、共進化の関係がなかったために激しい被害が出ているとする仮説です。もう一つは、ナラ類が燃料として利用されなくなって、本種の寄生に適した大径木が増えたことなど環境条件の変化によって大発生しやすくなり、各地の個体群がそれぞれ急増したという仮説です。そこで、遺伝子に残されたカシノナガキクイムシの分布の変化の跡をたどることにより、2つの仮説を検討し、被害拡大の要因を探ることを試みました」というとだ。
研究の結果は次のとおり。
「最北端の被害地である秋田県から京都府にかけての14地域のカシノナガキクイムシ集団について、マイクロサテライトマーカー用いて遺伝的構造を調べました。その結果、本州の北東部と南西部ではカシノナガキクイムシの遺伝的組成が異なっていることがわかりました。このことから、本州南西部のカシノナガキクイムシが本州北東部に分布域を広げたのではないことが分かります。ナラ枯れの被害を受けるミズナラやコナラも、これと同様に北東部と南西部で遺伝的組成が異なることが知られていま
す。
こうしたことから、現在大発生しているカシノナガキクイムシはその寄主であるナラ類とともに、それぞれの地域で長い時間をかけて共進化してきたものと考えられます。従って、カシノナガキクイムシが近年に北上したという仮説は支持されません。逆に、ナラ枯れ被害はその地域にもともと生息していたカシノナガキクイムシが、環境条件が好転したために大発生ていることが示唆されます。また、同じ地域の中でも場所が離れると遺伝的に遠くなることが認められましたが、それは大発生した本種が近隣に移動し、その場所の個体群と交配しながら大発生し、さらに近隣の場所へと少しずつ分布を拡大しているためと推察されます」。
しかし、この研究によって、好転した「環境条件」が「里山の放置等による樹木の大径木化」だとどうして確認、あるいは断定できるのか。もともと地元にいたカシノナガキクイムシを大発生させた環境条件の変化に「気候変動」が含まれる可能性を何故排除するのか、やはり我田引水の結論の匂いがする。未だ大発生が見られない白神山地や八甲田には、カシノナガキクイムシはもともといなかったとでもいうのだろうか。それとも、気候変動とはまったく無関係な「少しずつの分布の拡大」が、まだこの地まで到達していないだけということなのだろうか。
ともあれ、大径木は昔からいくらでもあった。それでも大発生はなかった。この事実はどう説明するのだろうか。
ナラの木が枯れる被害の拡大要因を解明
:森林総合研究所
(独)森林総合研究所は1月31日、ナラの木が枯れる「ナラ枯れ」を媒介する「カシノナガキクイムシ」の遺伝的変異を解析したところ、被害を受けるナラ類と同様に、本州の北東部と南西部で遺伝子の組成が明瞭に異なっていることが分かったと発表した。
最近、日本海沿岸を中心に、ミズナラなどのナラの木が枯死する現象、いわゆるナラ枯れが目立ち、現在もその被害地域は拡大している。ナラ枯れは、カシノナガキクイムシという体長4~5mmの黒い円筒状の形をした昆虫が、ナラ枯れをおこす病原菌(ナラ菌)を運び、寄生するナラ類に被害をもたらしている。
ナラ枯れが猛威をふるうようになった理由については、大きく分けて、近年の気候の温暖化によりカシノナガキクイムシが分布を北方に広げたという仮説と、ナラ類が燃料として利用されなくなり、カシノナガキクイムシが寄生しやすい大きな木が増えた環境条件の変化によるという仮説の2つがあった。
同研究所では、今回、遺伝子に残されたカシノナガキクイムシの分布の変化の跡をたどることにより、2つの仮説を検討し、被害拡大の要因を探った。
研究では、最北端の被害地である秋田県から京都府にかけての14地域で、カシノナガキクイムシの集団を対象に、「マイクロサテライトマーカー」という遺伝子の並び方の違いを調べる方法を用いて、遺伝的構造の変異を調べた。
その結果、本州中部を境にして、本州の北東部と南西部ではカシノナガキクイムシの遺伝的な組成が大きく異なっていることが判明した。
被害を受けているミズナラやコナラも、本州の北東部と南西部では遺伝的な組成が異なることが知られており、カシノナガキクイムシの遺伝的な組成の変異は、寄生するナラ類の遺伝的変異の分布と一致した。
こうしたことから、カシノナガキクイムシは、気候変動により本州南西部から北東部に分布を広げたものではなく、それぞれの地域に元々生息していたカシノナガキクイムシが、近年里山の放置などによる樹木の大木化など、森林環境の変化によって大発生する条件が増え、ナラ枯れの被害が顕在化したと推定された。
今後、カシノナガキクイムシの集団間の遺伝的変異を、より細かく調べることにより、離れた被害地間での移動の実態などの推定が可能になり、こうした情報によって翌年の被害地予測などに活用できるものと期待される。