しかしそこでCO2ボンベを使えばあっという間に充填完了、携帯ポンプでせっせと空気を入れるのがバカバカしくなるくらいに楽ができます。
こいつは充填されるのが名前通り二酸化炭素(CO2)であるため、抜けるのが早いという欠点があります。といっても半日くらいは十分持つので、自宅なり自転車屋なりに着いたときに空気を入れなおせば問題ありません。あくまで応急処置ですし。
しかしここで一つ疑問を持ちました。なぜ二酸化炭素は早く抜けるのか?
空気というのはだいたい窒素80%と酸素20%で構成されており、その分子のサイズを比較すると、だいたいこんな感じになります。
酸素と窒素はほぼ同じ大きさ(正確には窒素の方が少し大きい)ですが、二酸化炭素はそれより一回りデカいのがわかります。
というか酸素分子O2は酸素原子2個、二酸化炭素分子CO2は酸素原子2個+炭素原子1個なんだから、炭素原子1個分だけ二酸化炭素の方が大きくて当然です。
では次に、チューブから空気が抜けるのはどういうメカニズムなのか。
漠然としたイメージですが、こんな風にチューブにある微細な穴から少しずつ漏れているのだろう、と何となく考えていました。
しかしこのメカニズムだと分子が大きい二酸化炭素は抜けにくいはずです。しかし実際には逆で、二酸化炭素の方が早く抜ける。それは何故か?
答えは単純明快、上の図が間違っているからです。
気体をゴムのチューブに入れた場合、まず気体はゴムに入り込んでいきます。これを溶解と言い、圧力が高いほどその速度は速くなります。
次に、溶解した気体はゴムの分子間の隙間を通り抜けていき、これを拡散と呼びます。
気体がチューブから抜けるのはこの2つのプロセスがあり、そのうち拡散は分子が小さいほど速くなります。
一方で溶解は大きさに関係なく、炭素原子を含む分子が溶解しやすい傾向にあります。二酸化炭素はその炭素原子を含んでいるためにチューブから抜けやすい性質があるというわけです。
溶解と拡散のしやすさをそれぞれ溶解度・拡散度といいますが、チューブからの抜けやすさは下の数式であらわされます。
透過度がその気体の抜けやすさを示し、チューブから抜ける量は透過度のほかに圧力差・チューブの厚さなどに左右されます。
では各気体の溶解度・拡散度・透過度を見てみましょう。空気の透過度は窒素4・酸素1としての加重平均です。
先日の記事でネタにしたヘリウムの数字も入れてみました。
ブチルチューブの場合
透過度が最終的な抜けやすさ度合いです。二酸化炭素は空気の約10倍の速さで抜けるということになりますが、感覚的にもだいたいそれくらいではないでしょうか。
さっきの表はブチルチューブ、すなわち普通のチューブの場合ですが、最後にラテックスチューブの場合を見てみましょう。
ラテックスはしなやかで転がり抵抗が低くなりますが、お値段が高い上に空気が抜けやすいという難点があり、俺にとってはレース専用装備です。
ラテックスチューブの場合
ラテックスに空気を入れると普通のチューブの21倍の速さで抜けていく、ということになります。確かに半日も放置するとかなり抜けてしまうので、こんなものでしょうか。
そして二酸化炭素を入れると抜けやすさなんと250倍。たった三時間で、一か月放置したチューブと同等まで気圧が下がるという驚きの結果になりました。ラテックスにCO2ボンベは使用禁止とされるのも当然と言えるでしょう。
・参考資料
ゴム技術者のための入門講座(PDF注意)
日常の化学工学 ヘリウム風船はなぜ早くしぼむ-膜透過のはなし-
ゴム材質のガス透過性【Oリング・パーフロの桜シール】
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