多摩川サイクリングロードの車窓から

松島や ああ松島や 松島や(語彙力

 宮島、天橋立、そして松島は日本三景として有名ですが、松島が景勝地として著名になったのは伊達家による整備が始まった江戸時代のことです。それ以降は歌人や俳人が続々訪れたそうで、その一人である松尾芭蕉はそのあまりの見事さに言葉を失ってこの句を詠んだのだとか。
 俺は俳句なんか全く知りませんが、芭蕉の句が極めて洗練されていることくらいはなんとなくわかります。

古池や蛙飛びこむ水の音
夏草や兵どもが夢の跡
五月雨をあつめて早し最上川

 この辺りの名句は聞いただけで情景が目に浮かびます。たった17文字で聞いた人の脳裏に絵を描いてしまうんだからすげーなーと思うわけですが、しかし「松島や」の句はそれがない。それどころか、なに言ってんだオメーなんか悪いものでも食ったのか、という感想しか出てきません。

 芭蕉にそこまでの衝撃を与えるほど松島というのは絶景なのか?ぜひ一度行ってみなければなりますまい。今の住まいからは100㎞以上あるので往復は少し辛いですが、帰り道は輪行すればいいでしょう。



 いま俺が住んでいるのは福島県の浜通りです。そこから海沿いを北上するのですから、必然的に3.11の津波に襲われた地域を通ることになります。


 この道路は震災後に作られたもので、GoogleMapには出てきません。津波で何もかも押し流されてしまったので、それを機会にゴチャゴチャしていた道路を整理しているのでしょう、新しくてまっすぐな道路があちこちにできています。
 この辺りは水田として復活していますが、いまだに荒れ放題の場所も少なくありません。津波が来たところは住宅を建てる許可が下りないとも聞きますし、農地として再生するのもコストがかかりすぎて割が合わないのでしょうか。



 ちょっとした坂を登るとこういう看板が出てきます。震災当時、正面の家の方は生きた心地もしなかったでしょうが、ここを境に大きく運命は変わった、というわけです。坂と言っても標高差はせいぜい10m程度、丘というより単なる起伏なのですが、たったそれだけで。



 相馬市内にある松川浦は砂州によって作られた潟湖で、砂州の上を道路が走っており両側に海が見えるので気持ちよく走れます。当然ここも津波でやられており、2018年にようやく再建されました。
 言い方を変えれば、こういう観光道路の再整備に手が回るようになったということ。東北再建の先は長いですが、それでも着実に進んでいるということでしょう。



 松島というのは松島湾に多くの島が点在しており、どこからその風景を眺めるか、がポイントになりそうです。遊覧船乗り場がある松島公園が観光の中心地っぽいですが、そんなところに自転車で行っても面白くありません。
 そこでもう少し調べてみると、松島を一望できる四大観という名所があるそうです。

 壮観 大高森
 麗観 富山
 偉観 多聞山
 幽観 扇谷

 こうして並べてみると何だか凄そうです。いずれも松島湾を見下ろす山にあり、交通の便が悪いので自転車で行くならこっちでしょう!


偉観 多聞山


 最初に訪れたのが南側にあるこの多門山。眺めの方はなかなかいいですが、芭蕉の語彙力を奪うほどではないような・・・?
 ここは駐車場が広くてトイレもあり、撮影スポットである毘沙門堂まで駐車場から近い。車で行くにせよ自転車で行くにせよ、間違いなく四大観の中でここが一番楽です。


幽観 扇谷


 そのまま松島湾にそって国道45号を北上すると、次に現れたのが扇谷です。これ以外に看板は無く、車で来ると見落としてしまいそうです。客を呼ぶ気あんのか?


 国道から脇道に入るとすぐ砂利道になるので、自転車的にはなかなか辛いスポットです。500m程走るとここに出るのですが、俺は最初ここを直進して遭難しそうになりました。


 右に見える階段を登るのが正解です。何も案内がないので、GoogleMapで方向を見定めてたぶんこっち、と登ってみたら当たりでした。看板くらい立ててくれればいいのに。
 それにしてもほかに人が全くいません。いくら交通が不便とは言え一応名所なんじゃないの・・・?


 見える景色はというと、視界が狭いからか多門山以上にイマイチ感があります。水平線に島がかかっており、天気が良ければコントラストが美しいのでは?と思えるのですが。




 扇谷からほど近いところに松島公園があります。有名なこの橋、自転車で渡れないかなーと思っていましたが案の定ダメでした。
 ここは駅から近いこともあって人が多いので、自転車でうろうろしていると邪魔になります。さっさと退散して次に行くとしましょう。


麗観 富山


 国道45号から奥松島パークラインに入り、松島湾の北側に富山があります。相変わらずやる気のない看板ですが、大丈夫かいな。


 看板から1kmほど走ると舗装道路が終わり、この階段から参道が始まります。比較的歩きやすい道ですが、10分以上は歩くのでSPD-SLでは多分辛いです。
 こちらも先ほどの扇谷と同じく、全く人を見かけませんでした。土曜日の観光地としてはどうなのさ、それ。


 頂上にある富山観音堂から松島が望めます。他と比べて海から遠く、標高も高いので広々とした光景が楽しめますが、それにしても天気が(以下略


壮観 大高森


 最後は大高森。松島湾をぐるっと回り、東側にある宮戸島までやってきました。ここは入り口がわかりやすいし、道路の向かい側には遊覧船乗り場もあるからでしょうか、そこそこ他の見物客も来ていました。といっても見かけたのは10人程度でしたが。
 写真の階段はきれいに整備されていますが、それはここだけ。ちょっと登るとすぐに歩きにくい道に変わります。


 15分歩くと頂上に到着しました。相変わらずの曇天でしたが、雲の切れ間から陽が射しておりこれはこれで悪くありません。ここはほぼ全周を見渡すことができ、景観の良さでは四大観で一番です。アクセスの悪さと登山の大変さも一等賞ですが、それでも来る価値はありそうです。
 自転車では難しいですが、夕暮れにはまた違った絶景が拝めそうな予感がします。





しかしこの句って雑すぎるよな。それどころか、季語がないから俳句になってないんじゃ?松尾芭蕉ともあろう者が。

どれ、ちょっと調べてみるか

「松島や~」の句は松尾芭蕉作ではありません!その真相と古来の名勝松島の歴史


なん・・・だと・・・

島々や千々にくだきて夏の海 
           -松尾芭蕉

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