夫の母が倒れたら

ある日、突然。備忘録。

5

2019年07月05日 | 日記
当日の状況;

姑は尋常ではない不調を感じ、長男(夫)に電話をかけようとした。
が、気分の悪さにそのままソファに倒れこんだ。

しばらくして何度となくチャイムが鳴っても、動けずにいたのだろう。
救急隊は実家に到着後、玄関のドアから入れず庭にまわった。
大きな一枚ガラスは、開けるのにコツが必要だ。
姑が、部屋に風を入れるために数センチ開けていたので、
外から男性ふたりがかりで少しずつ押しひろげ、中に入る隙間を作った。

救急隊の問いかけにはきちんと反応した姑。
症状は頭痛とめまい・嘔吐の3点だけだったので、実家から少し離れた
救急病院に受け入れ先が決定。


姑は突然の吐き気に苦しみながらも、居間のテーブルの上、
色とりどりの消臭ビーズを入れたガラスの灰皿にのみ嘔吐した形跡があった。
非常事態においても美しいものが大好きで、綺麗好きな姑らしい。
ソファの端に使用済ティッシュが固めて置いてあったが、台所も洗面所も
汚したあとはなかった。

夫は、姑を乗せた救急車が出発したあと、警察官から姑との関係や経緯を
聞かれ説明。
姑の保険証を探し、施錠して「行こうか」と声をかけたら
ずっと黙っていた子が大声でわぁーっと泣きだした。
子どもなりに、祖母の様子や救急車のサイレン、ものものしい大人たちの動きに
おそろしさを感じたにちがいない。

4

2019年07月04日 | 日記
夫の実家に近づくと、消防車の赤色灯が見えた。
サイレンの音を消した消防車、パトカー、救急車が3本の小路に
距離を置いて停まっている。
夫の実家の前は道幅が狭く、いっぺんに停められなかったらしい。

近所の人がチラホラ表に出ていたが、野次馬というほどでもない。
山の手のこのあたりは、品のいい家庭が集まっている。
(と、のちに冷静になった時思った)


救急隊は、これから出発する、というタイミング。
夫が車を車庫におさめる前に車から降りて、

「家族です!お世話になります!!」

子どもの手を引いて、救急車に駆け寄った。

名前を聞かれて名乗り、長男の妻だと申し出る。
救急車に同乗しますか?と聞かれ夫の顔を見ると、「後追いする!」と一言。
警察も来ているから、経緯の説明や実家の施錠が必要になるので
後から車で追っかけるということらしい。子も、夫と来ることになった。


救急車の中で横になった姑は、酸素マスクをつけられ目を閉じていた。

「お義母さーん、大丈夫よ。イチロウさん(夫)も、カオル(子)もみんな来たからね」

と言うと、

「あぁりいがぁと…わぁるいぃぃわねぇ…」

目を閉じたまま、姑が答えた。

「血圧が高く、めまい・嘔吐。受け入れ先が決まりましたので、出発します」

と救急隊の方。

「お願いします」しか言えない。

車内はカーテンのような布で窓を覆われており、外の様子は全く見えず。
時折、「道をあけてください」という運転席からのマイク音声が響く。

とりあえず、A叔母に連絡しなければ…

さすがに、救急車の中では私も動揺していたらしい。
ラインの宛先を探す指先がふるえ、A叔母の愛犬のアイコンが探せない。

『先ほど、実家に着きました。今、S病院に救急車で向かっています』

いつもの倍以上の時間をかけて一文を送り、次の内容を打とうと深呼吸した時
ラインの着信音が鳴った。

『気づくのが遅くなってごめんなさい。
 S病院なら直接行った方が近いので、合流しましょう』

A叔母と連絡がとれたことが、こんなに安心できたことはなかった。













3

2019年07月03日 | 日記
沈黙。
車内の3人とも唇を引き結んで、フロントガラスを見つめていた。
高速のランプが後方に流れていく。
夫は、制限速度すらもどかしいというふうにハンドルを握っている。

「焦らないで…気持ちはわかる…同じだから…」

正直、自分も動揺していたけれど、それほどでもなかった。
夫の焦りに同調しようという計算も働いた。

「わかってる。わかってる…」

冷静さを欠いた夫の横顔。
私が運転すべきだった、と心の中でつぶやいて、道中の無事を祈る。
こういう時、夫に余計な事を言えば怒鳴られるだけだ。


姑の近所に住んでいるA叔母と連絡がとれないのも
皆の心配に拍車をかけた。
A叔母のラインは、実家近くなっても既読にならない。

どうしたんだろう。
おばさん、ライブにでも出かけてるんだろうか?


2

2019年07月02日 | 日記
「救急車お願いします。実家の義母の様子がおかしいんです…」
自宅から、119に電話した。
早口でいくつかの確認があり、最後にこちらの連絡先を伝えて受話器を置く。

夕食の準備がすべて整ったテーブルの上。
この期に及んで、あーあ、今日に限ってお刺身買っちゃった…と後悔。
それどころじゃないのに。
とっさに何をすればいいのか、おかずにラップして冷蔵庫に入れる頭も働かない。


夫は、日中着ていた白いシャツとデニムに着替え、車の鍵を取りに2階へ。
子に向かって、「部屋着脱いで、とりあえずTシャツ!」と叫び、
自分も出かける準備を急いだ。

そうだ、現金…現金が必要。慌てて財布を取りだす。
日中姑とデパートに行って、散財していた。
「どーしよー、持ち合わせ(ない)!」
オタオタしている私に、足音立てて降りてきた夫が言った。
「そんなの向こうでどうにでもなる。とりあえず出るぞ!」


風呂場、台所、施錠の目視だけして家を飛び出した。
玄関のデジタル時計が、8:45を示し光っていた。




2019年07月01日 | 日記
某月某日;

20:15。夫の携帯の着信音が、一瞬鳴った。

遅めの夕食を準備していた私は、横で甘える子をあしらいながら
リビングのソファに寝転ぶ夫に声をかける。

「電話じゃなーい?」

スウェットのズボンをずり上げ、夫が充電器に近づく。

「あれ… 母ちゃんか。どうしたんだ」

着信履歴を確認すると、夫は姑に電話をかけた。
一回、二回。コール音をカウントする夫の不思議そうな表情。
一度切って、電話をかけなおす。つながらない。
二度・三度・・・繰り返すたび、夫の顔つきが険しくなる。

私は夫のしつこさと、姑の無神経ぶりにウンザリしていた。

(昼間に顔出したばっかりなのに・・・お義母さん、週末のこんな時間に何?)

夫が電話をかけはじめて10分。
空腹に耐えかねた子が、並べたおかずと私の顔をチラチラ見ている。
親子して、目で笑いながら浅漬けキュウリをつまんだ。

「この子ガマンできないから、悪いけど先、食べてるねー」

と声を張り上げると同時に、夫が言った。

「俺、母ちゃん見てくる」

え?これから?
車で1時間以上かかる実家に行く??

「どうしたの、お義母さん何かあったって?おばさんも(電話に)出ないの?」

冗談かと思いながら聞いていると、夫がおおっ!と携帯にかみつくように
しゃべりはじめた。

「大丈夫か?母ちゃん!母ちゃん!!」
正直に言えば、私はこの時までも大事ではないと思い込んでいた。
親子ベッタリの夫と姑。大ゲサだなぁと心の中で舌を出していた。

「やばい、やばい、やばい。実家行くから。な。」

夫は明らかにテンパっている。
15分経ってようやく電話がつながった姑に、本当に何事かあったらしい。

「もう、電話かわって。どうしたのよー。」

電話に出た姑は、今まで聞いたことのないふわふわとしたおだやかな喋り方だった。

「お義母さん、どうしたの?大丈夫?気分悪いですか」

「わぁかぁらぁなぁいい・・・」

「お義母さん、電話で救急車呼べます?」

「よーべーなーいぃー」

「こちらから呼びますからね。私たちもすぐ行きます!」

「うーん・・・」


この時、夫は祖父(没)が倒れた時と同じだ、と直感したらしい。
20年も前の話だが、脳梗塞で倒れた祖父と、母親の今のしゃべり方は
まったく同じだったと後に言う。