投資家として道を歩き出した時、いくつかの本を読めば「財務諸表には現れない財産を評価して利益を出す」という方法が載っていることと思う(ピーター・リンチの著作にもある)。
そんなことが本当にあるのか?という問いに、有価証券表記の会計ルールの点から、「ある」ことをお話ししたい。
会社が株式を買うと、会計の報告書である財務諸表に記載するルートとして、内容に応じて
・売買目的有価証券
・関係会社株式
・その他有価証券
の3つの項目に分かれる。
このうち売買目的有価証券とその他有価証券は株式の価値を時価で記載、配当があれば営業外収入で記載、
関係会社株式は取得原価で記載する代わりに純資産・純利益を持分比率で記載、配当金は基本的に不参入(保有割合に応じて変わる)、株式の時価総額は無視
という扱いの違いがある。
このルールからは、金融商品として持っているわけではない関係会社株式なら、利益を合わせることで評価に表すのが妥当である、という思想が読み取れる。
つまり、「関係会社株式として買っているものが、利益に不相応に高い評価を得ているとき」に含み益が財務諸表に記載されない状態に陥るのだ。
仮定の話で、具体例を考え出すと次のようなものになる。
利益のわりに株式の価値が高いことで世界的に知られる株式としてAmazonが存在する。
この会社は、1ドル110円で大雑把に計算すると、2013年末は利益300億円、時価総額22兆円である。
仮に、
このときに20%にあたる株式4兆5,000億円分を、NTT(当時時価総額5兆円くらい)が「新たなインターネットサービスのプラットフォーム事業として活用し本業を強化する」と言って購入し、関係会社株式にしたとする。
このとき財務諸表には、関係会社株式として4兆5000億円が記載される。(20%を保有すれば持分法適用会社となり関係会社株式になる)
時が経ち、Amazonは2019年末に時価総額がおよそ100兆円になる。利益は1兆3000億円ほどである。
NTTの持分は20兆円になるが、財務諸表の表記はまだ4兆5000億円のままだ。
利益は保有比率分、2600億円ほどが算入される。
NTTはおおよそ利益9000億円で時価総額9兆円という市場評価(PER10倍程)なので、PERを最重要の指標として評価するならば、2600億円の利益は、時価総額を2兆6000億円高めるくらいになる。
つまりこの仮定上の2019年末のNTTは、本当は20兆円のAmazon株式をもちながらもそれは財務諸表に「関係会社株式4兆5000億円」としか表されず、
利益1兆1600億円、時価総額11兆6000億円という存在になりかねないのだ。
実際には、新興IT企業に投資してそのIT銘柄が値上がりしている企業において、このような財務諸表と保有証券市場価格の乖離が出ている。
もちろんそのIT企業の株価は単なるバブルかもしれないので見極めは必要だが、少なくとも財務諸表だけを見るよりよほど正確で、今後の値動きに納得のいく投資が出来るようになるだろう。
財務諸表をあくまでスタート地点と見ることが必要である。
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