旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

コーカサス地方アゼルバイジャンの古い絨毯「フラワー・オブ・ライフ」

2022年08月16日 | 古い物



アゼルバイジャンの古い絨毯でござる。

アゼルバイジャンと言えば、コーカサス地方。
知る人ぞ知る絨毯の産地ですね。

相変わらず僕は本などからの情報での解説はできず、
(いつも僕の解説間違っていたらすみません)
詳しい解説は博学な方にお任せして、現地での体験を書こうかしら。

ある日、僕は知人の絨毯屋でコーヒーを飲んでおりました。
場所はジョージア。アゼルバイジャンのお隣の国ですね。

その絨毯屋の女主人は、絨毯・キリムこの道50年。
多くのコネクションを持つ彼女には頻繁に新しい絨毯やキリムが入荷または地元民が売りに来たり、
写真を送ってきたりするので、僕はコーヒーを飲みながら世間話しをして時間を過ごしてたりしたのです。

この女主人は親切、正直(たぶん)で、
トルコの観光客向けのクソ絨毯屋にありがちな押し売りや、
嘘まみれとぼったくったりする事はないのはお国柄だろうか。

彼女はアゼルバイジャンともかなり強いコネクションも持っているらしく、
たまに英語の話せないアゼルバイジャン人業者がコーヒーを飲んでたりした。

その頃、僕はジョージアのキリムや絨毯を一通り見ていて、
他の国、アゼルバイジャンやダゲスタン共和国などの絨毯の良い物を探してもいました。

そこで、その女主人に「ダゲスタンとかアゼリの絨毯の良いのないかな?」と聞いたところ、
「あるんだけど普通のクオリティね。あなた向きじゃないわよ」と言い、
絨毯・キリムの山の中から何枚か見せてくれた。

ふむふむ

確かにダゲスタンやアゼルバイジャンのちょい古い絨毯だったが、
特段な柄でもなく、
特別古くもなく、
織りや色も普通。
良くも悪くも「普通」であった。
だが値段も決して高くはない。

もしこれがイスタンブールのグランドバザールの表通りの絨毯屋なら、
様々な売り文句に加えて高額な金額をふっかけられても、
普通の観光客なら「希少で珍しい高価な絨毯」と思ってしまうかもしれないが、
珍しいとは僕は思わなかった。

僕がちょっと見て全く興味を示さなかったので、
女主人は、だから言ったでしょ、という表情だった。

少し間をあけて、
彼女は続けた。

「まぁ、他に良いのはあるにはあるんだけど....家にあるのよ」

どゆこと?
あるのか。

とりあえず僕が見たいと言うと、
「明日持ってくるわ」と言う。

そして翌日。

その絨毯屋に入ると、
山積みの絨毯にかけられた「その織物」が眼に飛び込んで来た。

え?
明らかに他と違うじゃんか。

「お花、ドーン」

「これ、僕、好き」

それが僕の最初の印象だった。

稚拙な表現と言うなかれ。

毎日数十枚を次から次へ、
滞在中には数百枚も現地で見てれば、
織りがどうとかなど一枚一枚細かな事を気にしてはキリがなくなり
(とゆーか僕は最初からインスピレーション重視だが)、
初対面の印象はザックリしてくるんですね。

選び抜かれた逸品の写真を本でじっくり解説と共に読むのとは違うので、
実際の現地では、そんなもんだよ。

写真と現物では雰囲気だって全く異なるし。




額に囲まれたシンメトリーの支柱に挟まれ、
美しい花が咲いている。

色も美しい。

時代もあるであろう。

僕が知る限り部族的な柄が多く存在するアゼルバイジャンの絨毯。
それらとは一線を画していた。





掠れ摩耗した雰囲気が良き。
花瓶の淡いターコイズ・ブルーも個人的に凄く好みの色でもある。
写真だと色が浅く見えるが、実物は少し濃く奥行きがある色です。

花瓶の摩耗部分をリペア依頼するのも簡単だったが、
使い込まれたオリジナルの状態は美しいのでそのままにする事にした。
女主人も「良い判断ね」と言っておった。





「この花の色が美しい」と女主人は黄色い花の色を褒めておった。
サフランであろうか。
写真だと表現できないのが悔しいが、
淡い上品な黄色である。



この表現がモスリム的だと個人的に感じた。
シンメトリーで幾何学的。
色の配色も良い。
シャンデリアの表現だって良い。
緑かかった青(または青味がかった緑)ってのはモスリムを象徴する気がする。
話しは逸れるが、ブルサの緑の霊廟も色が極めて美しいし、
モスリム文化の色に対する美意識は優れていると思わざるをえない。





迫力がございます。
具象の柄って好き嫌いが分かれるとは思うし、
日本の家にはトライバル柄が似合うとも承知してるが、
ここまで振り切れると清々しくて好み。
量産商業用に型通りに織った物とは異なる。

人気のモチーフとして「生命の樹(ツリー・オブ・ライフ)」が知られるとこだが、
これは個人的には「生命の花(フラワー・オブ・ライフ」を感じる。






艶のある深紅が美しい。
質の良さが現れ、光りの加減で色に変化がある。
写真だと伝わらないのが悔しい。




支柱の表現も良い。
花に強い存在感と生命力を感じる。








裏面。
しっかり織っている。







ボーダー部分




ボーダーの内側の支柱との狭間も手抜き無しで、
小花で埋められている。




細密とダイナミックの中間。
絶妙なバランスをとっていると個人的に感じる。

色も、赤・青・緑、と強い色を使っているのに、
優しく感じるのは時代を経て色が馴染んだからかもしれない。




左端がかなり解けていたので、
ここは補修を依頼した。
しっかり補修済み。






モスリムの花が100年、美しく咲いておりました。



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イラクの婚礼用刺繍布「マーシュアラブ」

2022年06月27日 | 古い物


日本では一部で知られた刺繍の布、通称マーシュアラブ

イラク※の婚礼用刺繍布ですね。

(※イラクの布という事になって居るが、トルコのアナトリアやトルコ南東部という説もある。下記でも書きます)

簡単に言ってしまうと、
赤や黄色、茶色や紫などの地に、
思い思いの刺繍を施した布です。

英語だと正確には、
Iraq's Marsh Arabs

複数形になるので、
マーシュアラブスが本来は正しいのかもしれない。

僕がこの布を知ったのは15年以上前の事になるが、
一部では熱狂的なファンが居るのは知っている。

現地の絨毯業者の間では、
「アラビック」や
「クルディッシュ」と呼ばれているのを耳にする布です。

一部の専門知識がある業者は、
「マーシュ・アラブ」と呼んでいるが、
僕が知る限り、それはごく一部な感じを受ける。
特に欧米系(または欧米人相手)の業者が、この名で呼んでいる印象である。

不思議な布です。

何よりもその柄が魅力ですね。

民族文化的な背景から来る部族的な柄や、
想像力を元にした動物や植物など特有のデザインが、
人を惹き付ける要素でもあると思うのです。

専門的な説明は詳しい方に任せるとして、
ここでは仕入れた一枚をお見せしようかな。




鳥とお花。
可愛らしさ全開です。
民族的な図柄も感じる。



花で囲まれた人。
喜びを表現しているのを感じる。







刺繍でビッシリ。

部族的な文様から具象、新しい物から古い物、密な刺繍や荒い刺繍まで、
本当に様々な種類が存在するマーシュアラブだが、
この一枚は刺繍で埋め尽くされ、
喜びが表現されている。

ところで、マーシュアラブは、
イラクの物という事ではあるが、
正確にはどうなのだろうか?

僕が感じるに、広範囲居住圏に渡るクルド人の文化であって、
トルコでも数十枚単位のマーシュアラブを色々と見た(写真を一枚も撮っていないのが悔やまれる)が、
「イラクの物」と言われた事はごく一部であり、
「クルドの物」とされていた。

トルコのアナトリア近辺やトルコ南東部でも製作されているとの話しもある。

または、
イラクから運び手を介してやってきたのだろうか?

実際、僕の友達のトルコのイスタンブール在住のクルド人は何度も、
イラクとの往復を行っている(クルド人は簡単に行き来できるらしい)ので、
その経由はあり得ると言えばあり得るとは思う。

正確な流通ルートは分からないが、
その存在感は際立っております。

他のキリムや絨毯とは全く異なるアプローチの唯一的な存在感があります。






全体
圧倒的な迫力がある。
素晴らしい。
色々見たが、この一枚が自分的に最高であった。

真ん中で紡ぎ合わせるのがマーシュアラブの特徴



裏面
60年から70年前位の物かしら。
マーシュアラブとしては古い方ではあると思える。
僕が見た範囲では100年を越える物は出会わなかった。

旧知でない場合、海外の絨毯業者は嘘を平気で言うのだが、
200年前の物なんて実在するのかしら。
分からぬ。

この布を含め、絨毯やキリムに凄く詳しい英国人の老齢な女性に出会って、
色々と教えてくれたのだが、その女性が買おうとしていた一枚がこれである。

僕がその街を訪れた日の午前中に、
渡り行商の手に寄って遥々どこかの地から運び込まれた一枚であって、
そのイギリス人女史が迷っていたのだが、値段が合わず一考していた所、
僕が現れて手に入れた物なのです。

なので、まだお店にも並んでいなかった一枚になる。

本当に何枚も何枚も見たが、密な刺繍、古さ、柄、素晴らしいと思えたのです。

本来は婚礼用という事で
その「喜び」や「祝福」を表現しているのが
僕的に惹かれた要素でもありました。

野性的な部族的な柄も良いけど、
暗いニュースが多い今、
こういった喜びを持つ物に惹かれるのです。


マーシュアラブでした。



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古いシリアの民族衣装

2022年06月20日 | 古い物



僕は古い民族衣装が好きです。

もちろん、新しく作られた安価な衣装ではなく、
オリジナルを求めます。

とは言え、僕はアパレルの仕事を人生でした事がないので、
お洒落であるかダサいかは分からない。

服装は趣味趣向または生活スタイルに合った人それぞれの物であるとは思っているが、
僕の知人で、
世界のトップブランドからドメスティックブランド、古着まで色々様々、着たおして
最後に辿り着いたのがオリジナルの古い民族衣装である、という方も居る。

実際に友人の某有名ファッション・ブランドのデザイナーも、
民族衣装を愛用している。

かのドリスヴァンノッテンをはじめ、
今季(昨年?)のラルフローレンのカタログを見ても、
ウズベキスタンの絣を大胆に取り入れたり、
ファッション業界のトップは民族的な感性を多く取り入れているのが分かる。


・・・で、シリアの服。



これは他人とかぶらないだろう。

何故かグッチとかドリスヴァンノッテンを思い出す。

トルコの地方都市に難民としてのシリアのアレッポから逃れて来た、
シリア難民の古物業者のストックから譲り受ける。

一緒にお茶をしたのだが、彼の身の上話しは壮絶であった。
アレッポにあった彼の店は爆撃で吹き飛んだという。



後ろ姿。
イカしてます。










手刺繍が丁寧に施されています。

今時の大量生産の服には、こういった手仕事は見られない。
古いオリジナルの良さとは細部に現れると思うのです。

サイズは男女共に着られるサイズ。











葡萄柄の銀糸刺繍バージョン




青色に黄色が美しい。





名前が書かれています。

正真正銘のオリジナル。

50年位以上は経過してるヴィンテージですね。




後ろ姿が部族的でカッコイイ。
特有の柄が一瞬アフリアの民族衣装を彷彿とさせるが、
シリアでござる。

サイズは男性用サイズ。




内側ポケットあり。


日本ではシリアの民族衣装の情報が凄く少ない(女性用ドレスは見かける)が、
海外の文献を見ると、シリア南西部のダマスカス近郊やハウラン(ホーラン)平原の
民族衣装に酷似した資料を見かけるので、
シリア南西部の衣装と思われます。










「年々、国際情勢の関係でシリアからの流れてくる物は少なくなって、
規制やチェックも凄く厳しくなって来ている」と前述のシリア難民業者は言う。

因に、この業者、古いシリアの女性用ドレスも持っていたが、
これは流石に日本で着れる人は居ないだろう、美術館とかコレクター向きであろうと思い、
それらは見送りました。


以上
古いシリアの民族衣装でした。

珍しいシリアの民族衣装はどうだろうか?

人と被らない服をお探しの方へおすすめできます。








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コーカサスの絨毯 番外編【アルメニアのドラゴンラグ】等

2022年06月15日 | 古い物



前回のコーカサス地域の動物柄の絨毯の番外編です。

アルメニアのドラゴン・ラグです。

龍柄ですね。

龍が一般的なアジア圏の人間からすると、
「どの辺が龍なの?」とツッコミを受けそうだが、
ドラゴンなのです。

詳しくは各国の学者殿の文献を参照して頂きたいが、
デフォルメされた龍の図柄なのです。
よく見ると小さな龍がいます。


因に、僕は個人的に撮影した写真を持っていないが、
タイプは違うが、
知る人ぞ知るアゼルバイジャンのドラゴン・ラグ(ジジム)は超高額で取引されております。

このアルメニアのドラゴン・ラグも古い物となると、腰が抜ける金額になっております。

世界には龍のファンが多いのが窺い知れます。

僕も龍が好きだし。




こんなのも。
こんな事を言ってしまうと笑われそうだが、一瞬、ガンダムっぽいと思った。
見る人が見れば、その希少性と価値は分かるかもしれないので説明省略。

この方向性でのトライバル感が炸裂し、ダイナミックで素晴らしい。
深いインディゴも美しく、パイル(毛足)もフカフカで古さもある。
自分の自宅用にマジで欲しかった。


以上
番外編でした。

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コーカサスのライオンラグなど動物柄の絨毯とキリム

2022年06月14日 | 古い物



個人的にも好みな動物柄の絨毯やキリムです。

絨毯で動物柄と言えば、ライオンが代表されるとこかもしれない。

イラン物を中心とした事だろうが、
ライオン・ラグは一部で根強いファンが居ると知人から聞いてもいるが、
現地でもそれを感じさせる事はあった。

ある絨毯屋に行った際に聞いた話しだが、
ドイツ人だかイギリス人だかの誰かがライオン柄ばかりを趣向しているとの事で、
それを集めていると絨毯屋の女主人は話していた。

ジョージアにも多数のライオン・ラグは存在します。
ジョージアでは鹿柄が最も有名な動物柄になるが、
ライオンを含めて多数の動物柄のキリムや絨毯もあります。




典型的なジョージアのライオン・ラグ。
絨毯ですね。
ちょっとマヌケなライオンの顔が可愛らしい。




同じテイストの感じ。
大きな花柄ボーダー(枠)で囲み絵画っぽくするのが特徴かしら。
個人的にはあまりピンと来ないがこのテイストが一般的。
とは言え、これも珍しく大量にある物ではない。
そもそも動物柄自体が全体の比率からすると多いとは言えない。
年代が入っている物も多く、これは1961年。




これもライオン・ラグ。
歴史的背景からかロシア(ソビエト)的な雰囲気を感じるが、ロシア物ではない。




リアルによせてるライオン・ラグ。
色味は良い。



頭と身体の比率がおかしい。
ユーモラスである。
個人的にはアリだ。

ジョージアの特徴として花などの表現をデフォルメして織る。

技術的な問題か民族的な性格での事かどうかは分からないが、
ジョージアの100年前のキリムとかを見てみると大きな織り柄で
デフォルメして何がモチーフか不明な場合もある。

海外のサイトを見ていると、どうやらこの大雑把な表現は、
「美術的観点での評価は落ちる」と評している人も居る様だが、
僕も最初はどうかと思ったが、今はこの表現にも個人的に魅力を感じている。




鹿ですね。
1946年。
キリムです。
何とも言えない鹿の表情が良い。
これぞ、ジョージアのキリムといった感じのジョージアン・キリムを代表する動物図柄の一枚と思える。




虎もおりました。

ジョージアのキリムって、良く言えば大胆。
悪く言えば雑。
良くも悪くも子供のお絵描き的なテイストがある。
緻密に表現するのではなく、子供のお絵描きみたいな感じで織り込むのが特徴。
技術的な事を言えば、緻密さを美と捉えるトルコやイランには遠く及ばないが、
これはこれで面白さはある。
値段は意外に高かったする。




鹿が二頭向かい合っている。
文字を見ると裏面かな。
この一枚は良かった。




かわゆい。
これも二頭向かい合い。
この構図が定番の一つである。

これは買うかどうか悩んで意外に高かったので、やめた。
もし僕がコレクターなら買ったであろう。
商売を考えると好きな人を見つけられるか不明だったし、売値もそこそこしてしまう。
1960年製。




ライオン向かい合わせ版。
これももちろん、正真正銘のジョージアン・キリム。




ライオン・ラグ。
ヘタウマの画風が炸裂している。
以前、カヘティ地方のワイナリーのオーナーが所持していたキリムのテイストと酷似している。
欲しいなー、と思ったが高かった。




上の一枚に似ているが違う一枚。
ライオンの表情がタマラン。
この感じは日本人ではまず織れないだろう。
織ろうともしないかもしれない。

日本の古い織物を見ても日本人は真面目で渋さを求める。
もちろん遊び心がある日本の古い物も多いが、
成熟した文化を背景に「大人の遊び心」を感じる。

一方、この地域は何故か子供の様な純粋な遊び心を感じてしまう。
人によっては、
ただヘタなだけじゃん、と両断してしまうかもしれないかもしれんが、
個人的には現代アートに似た感覚を感じるのは言い過ぎであろうか?


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とまぁ、色々掲載してみました。
何を感じるか、何を趣向するかは人それぞれであると思う。

ジョージアには動物柄以外にも部族的な柄ももちろん在る。

もし比べるならば、
部族感、技術的、美術的などの観点ではイラン等の動物柄の方が
素晴らしい感覚を持ち合わせていると個人的には思うが、
これはこれで美しいと思うのです。

イランやトルコ、その他の地域を色々見て、蒐集したりして、
また別の物を求めるのであれば、
ジョージアやコーカサス地域の動物柄の絨毯やキリムは面白いと思うのです。


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