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アゼルバイジャンの古い絨毯でござる。
アゼルバイジャンと言えば、コーカサス地方。
知る人ぞ知る絨毯の産地ですね。
相変わらず僕は本などからの情報での解説はできず、
(いつも僕の解説間違っていたらすみません)
詳しい解説は博学な方にお任せして、現地での体験を書こうかしら。
ある日、僕は知人の絨毯屋でコーヒーを飲んでおりました。
場所はジョージア。アゼルバイジャンのお隣の国ですね。
その絨毯屋の女主人は、絨毯・キリムこの道50年。
多くのコネクションを持つ彼女には頻繁に新しい絨毯やキリムが入荷または地元民が売りに来たり、
写真を送ってきたりするので、僕はコーヒーを飲みながら世間話しをして時間を過ごしてたりしたのです。
この女主人は親切、正直(たぶん)で、
トルコの観光客向けのクソ絨毯屋にありがちな押し売りや、
嘘まみれとぼったくったりする事はないのはお国柄だろうか。
彼女はアゼルバイジャンともかなり強いコネクションも持っているらしく、
たまに英語の話せないアゼルバイジャン人業者がコーヒーを飲んでたりした。
その頃、僕はジョージアのキリムや絨毯を一通り見ていて、
他の国、アゼルバイジャンやダゲスタン共和国などの絨毯の良い物を探してもいました。
そこで、その女主人に「ダゲスタンとかアゼリの絨毯の良いのないかな?」と聞いたところ、
「あるんだけど普通のクオリティね。あなた向きじゃないわよ」と言い、
絨毯・キリムの山の中から何枚か見せてくれた。
ふむふむ
確かにダゲスタンやアゼルバイジャンのちょい古い絨毯だったが、
特段な柄でもなく、
特別古くもなく、
織りや色も普通。
良くも悪くも「普通」であった。
だが値段も決して高くはない。
もしこれがイスタンブールのグランドバザールの表通りの絨毯屋なら、
様々な売り文句に加えて高額な金額をふっかけられても、
普通の観光客なら「希少で珍しい高価な絨毯」と思ってしまうかもしれないが、
珍しいとは僕は思わなかった。
僕がちょっと見て全く興味を示さなかったので、
女主人は、だから言ったでしょ、という表情だった。
少し間をあけて、
彼女は続けた。
「まぁ、他に良いのはあるにはあるんだけど....家にあるのよ」
どゆこと?
あるのか。
とりあえず僕が見たいと言うと、
「明日持ってくるわ」と言う。
そして翌日。
その絨毯屋に入ると、
山積みの絨毯にかけられた「その織物」が眼に飛び込んで来た。
え?
明らかに他と違うじゃんか。
「お花、ドーン」
「これ、僕、好き」
それが僕の最初の印象だった。
稚拙な表現と言うなかれ。
毎日数十枚を次から次へ、
滞在中には数百枚も現地で見てれば、
織りがどうとかなど一枚一枚細かな事を気にしてはキリがなくなり
(とゆーか僕は最初からインスピレーション重視だが)、
初対面の印象はザックリしてくるんですね。
選び抜かれた逸品の写真を本でじっくり解説と共に読むのとは違うので、
実際の現地では、そんなもんだよ。
写真と現物では雰囲気だって全く異なるし。
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額に囲まれたシンメトリーの支柱に挟まれ、
美しい花が咲いている。
色も美しい。
時代もあるであろう。
僕が知る限り部族的な柄が多く存在するアゼルバイジャンの絨毯。
それらとは一線を画していた。
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掠れ摩耗した雰囲気が良き。
花瓶の淡いターコイズ・ブルーも個人的に凄く好みの色でもある。
写真だと色が浅く見えるが、実物は少し濃く奥行きがある色です。
花瓶の摩耗部分をリペア依頼するのも簡単だったが、
使い込まれたオリジナルの状態は美しいのでそのままにする事にした。
女主人も「良い判断ね」と言っておった。
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「この花の色が美しい」と女主人は黄色い花の色を褒めておった。
サフランであろうか。
写真だと表現できないのが悔しいが、
淡い上品な黄色である。
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この表現がモスリム的だと個人的に感じた。
シンメトリーで幾何学的。
色の配色も良い。
シャンデリアの表現だって良い。
緑かかった青(または青味がかった緑)ってのはモスリムを象徴する気がする。
話しは逸れるが、ブルサの緑の霊廟も色が極めて美しいし、
モスリム文化の色に対する美意識は優れていると思わざるをえない。
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迫力がございます。
具象の柄って好き嫌いが分かれるとは思うし、
日本の家にはトライバル柄が似合うとも承知してるが、
ここまで振り切れると清々しくて好み。
量産商業用に型通りに織った物とは異なる。
人気のモチーフとして「生命の樹(ツリー・オブ・ライフ)」が知られるとこだが、
これは個人的には「生命の花(フラワー・オブ・ライフ」を感じる。
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艶のある深紅が美しい。
質の良さが現れ、光りの加減で色に変化がある。
写真だと伝わらないのが悔しい。
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支柱の表現も良い。
花に強い存在感と生命力を感じる。
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裏面。
しっかり織っている。
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ボーダー部分
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ボーダーの内側の支柱との狭間も手抜き無しで、
小花で埋められている。
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細密とダイナミックの中間。
絶妙なバランスをとっていると個人的に感じる。
色も、赤・青・緑、と強い色を使っているのに、
優しく感じるのは時代を経て色が馴染んだからかもしれない。
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左端がかなり解けていたので、
ここは補修を依頼した。
しっかり補修済み。
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モスリムの花が100年、美しく咲いておりました。