旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

イラクの婚礼用刺繍布「マーシュアラブ」

2022年06月27日 | 古い物


日本では一部で知られた刺繍の布、通称マーシュアラブ

イラク※の婚礼用刺繍布ですね。

(※イラクの布という事になって居るが、トルコのアナトリアやトルコ南東部という説もある。下記でも書きます)

簡単に言ってしまうと、
赤や黄色、茶色や紫などの地に、
思い思いの刺繍を施した布です。

英語だと正確には、
Iraq's Marsh Arabs

複数形になるので、
マーシュアラブスが本来は正しいのかもしれない。

僕がこの布を知ったのは15年以上前の事になるが、
一部では熱狂的なファンが居るのは知っている。

現地の絨毯業者の間では、
「アラビック」や
「クルディッシュ」と呼ばれているのを耳にする布です。

一部の専門知識がある業者は、
「マーシュ・アラブ」と呼んでいるが、
僕が知る限り、それはごく一部な感じを受ける。
特に欧米系(または欧米人相手)の業者が、この名で呼んでいる印象である。

不思議な布です。

何よりもその柄が魅力ですね。

民族文化的な背景から来る部族的な柄や、
想像力を元にした動物や植物など特有のデザインが、
人を惹き付ける要素でもあると思うのです。

専門的な説明は詳しい方に任せるとして、
ここでは仕入れた一枚をお見せしようかな。




鳥とお花。
可愛らしさ全開です。
民族的な図柄も感じる。



花で囲まれた人。
喜びを表現しているのを感じる。







刺繍でビッシリ。

部族的な文様から具象、新しい物から古い物、密な刺繍や荒い刺繍まで、
本当に様々な種類が存在するマーシュアラブだが、
この一枚は刺繍で埋め尽くされ、
喜びが表現されている。

ところで、マーシュアラブは、
イラクの物という事ではあるが、
正確にはどうなのだろうか?

僕が感じるに、広範囲居住圏に渡るクルド人の文化であって、
トルコでも数十枚単位のマーシュアラブを色々と見た(写真を一枚も撮っていないのが悔やまれる)が、
「イラクの物」と言われた事はごく一部であり、
「クルドの物」とされていた。

トルコのアナトリア近辺やトルコ南東部でも製作されているとの話しもある。

または、
イラクから運び手を介してやってきたのだろうか?

実際、僕の友達のトルコのイスタンブール在住のクルド人は何度も、
イラクとの往復を行っている(クルド人は簡単に行き来できるらしい)ので、
その経由はあり得ると言えばあり得るとは思う。

正確な流通ルートは分からないが、
その存在感は際立っております。

他のキリムや絨毯とは全く異なるアプローチの唯一的な存在感があります。






全体
圧倒的な迫力がある。
素晴らしい。
色々見たが、この一枚が自分的に最高であった。

真ん中で紡ぎ合わせるのがマーシュアラブの特徴



裏面
60年から70年前位の物かしら。
マーシュアラブとしては古い方ではあると思える。
僕が見た範囲では100年を越える物は出会わなかった。

旧知でない場合、海外の絨毯業者は嘘を平気で言うのだが、
200年前の物なんて実在するのかしら。
分からぬ。

この布を含め、絨毯やキリムに凄く詳しい英国人の老齢な女性に出会って、
色々と教えてくれたのだが、その女性が買おうとしていた一枚がこれである。

僕がその街を訪れた日の午前中に、
渡り行商の手に寄って遥々どこかの地から運び込まれた一枚であって、
そのイギリス人女史が迷っていたのだが、値段が合わず一考していた所、
僕が現れて手に入れた物なのです。

なので、まだお店にも並んでいなかった一枚になる。

本当に何枚も何枚も見たが、密な刺繍、古さ、柄、素晴らしいと思えたのです。

本来は婚礼用という事で
その「喜び」や「祝福」を表現しているのが
僕的に惹かれた要素でもありました。

野性的な部族的な柄も良いけど、
暗いニュースが多い今、
こういった喜びを持つ物に惹かれるのです。


マーシュアラブでした。



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古いシリアの民族衣装

2022年06月20日 | 古い物



僕は古い民族衣装が好きです。

もちろん、新しく作られた安価な衣装ではなく、
オリジナルを求めます。

とは言え、僕はアパレルの仕事を人生でした事がないので、
お洒落であるかダサいかは分からない。

服装は趣味趣向または生活スタイルに合った人それぞれの物であるとは思っているが、
僕の知人で、
世界のトップブランドからドメスティックブランド、古着まで色々様々、着たおして
最後に辿り着いたのがオリジナルの古い民族衣装である、という方も居る。

実際に友人の某有名ファッション・ブランドのデザイナーも、
民族衣装を愛用している。

かのドリスヴァンノッテンをはじめ、
今季(昨年?)のラルフローレンのカタログを見ても、
ウズベキスタンの絣を大胆に取り入れたり、
ファッション業界のトップは民族的な感性を多く取り入れているのが分かる。


・・・で、シリアの服。



これは他人とかぶらないだろう。

何故かグッチとかドリスヴァンノッテンを思い出す。

トルコの地方都市に難民としてのシリアのアレッポから逃れて来た、
シリア難民の古物業者のストックから譲り受ける。

一緒にお茶をしたのだが、彼の身の上話しは壮絶であった。
アレッポにあった彼の店は爆撃で吹き飛んだという。



後ろ姿。
イカしてます。










手刺繍が丁寧に施されています。

今時の大量生産の服には、こういった手仕事は見られない。
古いオリジナルの良さとは細部に現れると思うのです。

サイズは男女共に着られるサイズ。











葡萄柄の銀糸刺繍バージョン




青色に黄色が美しい。





名前が書かれています。

正真正銘のオリジナル。

50年位以上は経過してるヴィンテージですね。




後ろ姿が部族的でカッコイイ。
特有の柄が一瞬アフリアの民族衣装を彷彿とさせるが、
シリアでござる。

サイズは男性用サイズ。




内側ポケットあり。


日本ではシリアの民族衣装の情報が凄く少ない(女性用ドレスは見かける)が、
海外の文献を見ると、シリア南西部のダマスカス近郊やハウラン(ホーラン)平原の
民族衣装に酷似した資料を見かけるので、
シリア南西部の衣装と思われます。










「年々、国際情勢の関係でシリアからの流れてくる物は少なくなって、
規制やチェックも凄く厳しくなって来ている」と前述のシリア難民業者は言う。

因に、この業者、古いシリアの女性用ドレスも持っていたが、
これは流石に日本で着れる人は居ないだろう、美術館とかコレクター向きであろうと思い、
それらは見送りました。


以上
古いシリアの民族衣装でした。

珍しいシリアの民族衣装はどうだろうか?

人と被らない服をお探しの方へおすすめできます。








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コーカサスの絨毯 番外編【アルメニアのドラゴンラグ】等

2022年06月15日 | 古い物



前回のコーカサス地域の動物柄の絨毯の番外編です。

アルメニアのドラゴン・ラグです。

龍柄ですね。

龍が一般的なアジア圏の人間からすると、
「どの辺が龍なの?」とツッコミを受けそうだが、
ドラゴンなのです。

詳しくは各国の学者殿の文献を参照して頂きたいが、
デフォルメされた龍の図柄なのです。
よく見ると小さな龍がいます。


因に、僕は個人的に撮影した写真を持っていないが、
タイプは違うが、
知る人ぞ知るアゼルバイジャンのドラゴン・ラグ(ジジム)は超高額で取引されております。

このアルメニアのドラゴン・ラグも古い物となると、腰が抜ける金額になっております。

世界には龍のファンが多いのが窺い知れます。

僕も龍が好きだし。




こんなのも。
こんな事を言ってしまうと笑われそうだが、一瞬、ガンダムっぽいと思った。
見る人が見れば、その希少性と価値は分かるかもしれないので説明省略。

この方向性でのトライバル感が炸裂し、ダイナミックで素晴らしい。
深いインディゴも美しく、パイル(毛足)もフカフカで古さもある。
自分の自宅用にマジで欲しかった。


以上
番外編でした。

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コーカサスのライオンラグなど動物柄の絨毯とキリム

2022年06月14日 | 古い物



個人的にも好みな動物柄の絨毯やキリムです。

絨毯で動物柄と言えば、ライオンが代表されるとこかもしれない。

イラン物を中心とした事だろうが、
ライオン・ラグは一部で根強いファンが居ると知人から聞いてもいるが、
現地でもそれを感じさせる事はあった。

ある絨毯屋に行った際に聞いた話しだが、
ドイツ人だかイギリス人だかの誰かがライオン柄ばかりを趣向しているとの事で、
それを集めていると絨毯屋の女主人は話していた。

ジョージアにも多数のライオン・ラグは存在します。
ジョージアでは鹿柄が最も有名な動物柄になるが、
ライオンを含めて多数の動物柄のキリムや絨毯もあります。




典型的なジョージアのライオン・ラグ。
絨毯ですね。
ちょっとマヌケなライオンの顔が可愛らしい。




同じテイストの感じ。
大きな花柄ボーダー(枠)で囲み絵画っぽくするのが特徴かしら。
個人的にはあまりピンと来ないがこのテイストが一般的。
とは言え、これも珍しく大量にある物ではない。
そもそも動物柄自体が全体の比率からすると多いとは言えない。
年代が入っている物も多く、これは1961年。




これもライオン・ラグ。
歴史的背景からかロシア(ソビエト)的な雰囲気を感じるが、ロシア物ではない。




リアルによせてるライオン・ラグ。
色味は良い。



頭と身体の比率がおかしい。
ユーモラスである。
個人的にはアリだ。

ジョージアの特徴として花などの表現をデフォルメして織る。

技術的な問題か民族的な性格での事かどうかは分からないが、
ジョージアの100年前のキリムとかを見てみると大きな織り柄で
デフォルメして何がモチーフか不明な場合もある。

海外のサイトを見ていると、どうやらこの大雑把な表現は、
「美術的観点での評価は落ちる」と評している人も居る様だが、
僕も最初はどうかと思ったが、今はこの表現にも個人的に魅力を感じている。




鹿ですね。
1946年。
キリムです。
何とも言えない鹿の表情が良い。
これぞ、ジョージアのキリムといった感じのジョージアン・キリムを代表する動物図柄の一枚と思える。




虎もおりました。

ジョージアのキリムって、良く言えば大胆。
悪く言えば雑。
良くも悪くも子供のお絵描き的なテイストがある。
緻密に表現するのではなく、子供のお絵描きみたいな感じで織り込むのが特徴。
技術的な事を言えば、緻密さを美と捉えるトルコやイランには遠く及ばないが、
これはこれで面白さはある。
値段は意外に高かったする。




鹿が二頭向かい合っている。
文字を見ると裏面かな。
この一枚は良かった。




かわゆい。
これも二頭向かい合い。
この構図が定番の一つである。

これは買うかどうか悩んで意外に高かったので、やめた。
もし僕がコレクターなら買ったであろう。
商売を考えると好きな人を見つけられるか不明だったし、売値もそこそこしてしまう。
1960年製。




ライオン向かい合わせ版。
これももちろん、正真正銘のジョージアン・キリム。




ライオン・ラグ。
ヘタウマの画風が炸裂している。
以前、カヘティ地方のワイナリーのオーナーが所持していたキリムのテイストと酷似している。
欲しいなー、と思ったが高かった。




上の一枚に似ているが違う一枚。
ライオンの表情がタマラン。
この感じは日本人ではまず織れないだろう。
織ろうともしないかもしれない。

日本の古い織物を見ても日本人は真面目で渋さを求める。
もちろん遊び心がある日本の古い物も多いが、
成熟した文化を背景に「大人の遊び心」を感じる。

一方、この地域は何故か子供の様な純粋な遊び心を感じてしまう。
人によっては、
ただヘタなだけじゃん、と両断してしまうかもしれないかもしれんが、
個人的には現代アートに似た感覚を感じるのは言い過ぎであろうか?


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とまぁ、色々掲載してみました。
何を感じるか、何を趣向するかは人それぞれであると思う。

ジョージアには動物柄以外にも部族的な柄ももちろん在る。

もし比べるならば、
部族感、技術的、美術的などの観点ではイラン等の動物柄の方が
素晴らしい感覚を持ち合わせていると個人的には思うが、
これはこれで美しいと思うのです。

イランやトルコ、その他の地域を色々見て、蒐集したりして、
また別の物を求めるのであれば、
ジョージアやコーカサス地域の動物柄の絨毯やキリムは面白いと思うのです。


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ジョージアでコーカサスの絨毯やキリムを宝探し

2022年06月13日 | 古い物



コーカサスという地域を知っているだろうか?

おそらく日本人の多くは知らないと思う。

では、ジョージアはどうだろうか?
アメリカのジョージア州ではない。
缶コーヒーの名前でもない。
コーカサス地域に属するジョージアという国である。

各国の若いリモートワーカー達の間では数年前から人気の国で、
いまだに旧国名のグルジアと呼ばれる事もあるようだが、それは間違いだ。

そのジョージアがある地域のコーカサス。
トルコの右上、黒海とカスピ海の近く、ロシアと国境を接する国、
と言ってもピンと来ないかもしれない。

地理的な事は地図を見て頂きたいが、
ここではコーカサスの絨毯やキリムなどの織物を探した事を書こうかしら。

そのコーカサスの織物。

日本ではほぼ知られていないかもしれないが、
世界的には絨毯キリム愛好者の間では評価は高い。
実際にニューヨーク在住の方に伺ったのだが、
ニューヨークだと数十万円の値段が付く事も珍しくはないらしい。
何故か隣国トルコでも高値が付いている。
とは言え、認知度や情報量ではまだまだとは言えるだろう。

隣国トルコやイランの絨毯と言えば世界的にもだいぶ以前より知られた存在だが、
コーカサスの絨毯はそれらの国々とは一線を画す素晴らしい織物文化を持っているのです。

さて、そのコーカサスの絨毯とキリム。
コーカサスのジョージアで今回も探してみました。

隣国アゼルバイジャンであれば国を挙げて絨毯産業を応援しているのを感じるが、
ジョージアではあまりスポットを浴びていない。

トルコの様に道を歩けば絨毯屋がある、という訳ではなく、
買える場所は限られている。

ぶっちゃけ、店の数がめっちゃ少ない。

限られた店に物が集中している。

民間から仕入れるという僕がチベット圏で行っている方法も試したが、
ジョージアでこの方法では良い物を探すのは本当に大変で効率的ではない。
簡単に言うと、民間人が持っている絨毯類の品質は低いのである。
時間が限られている場合は限界があるので、早々にこの方法は諦めた。

そこで、絨毯屋の在庫を一通り(とは言え、数百枚単位の膨大な量)見て、
良い物をピックアップした後、
倉庫があるというので、車を飛ばして見に行ってみました。



倉庫に積まれたコーカサス絨毯とキリムの山。



大量に積まれている。
店なら片っ端から広げて見せてくれるが、
全部を広げて見る必要はなく側面で大体分かるので、
物の種類だけ聞き、
気になった物だけピックアップする。



古いカラバフのオリジナルも山の中から普通に出てくる。
カラバフは価値も高いのです。



絨毯やキリム好きなら宝の山。
もし此処がトルコやイランなら当たり前の景色で淡々と選ぶだけで良いが、
なんと言っても、此処はジョージア。
積まれた山のほぼ全てが希少なコーカサス絨毯とキリムばっかりなので、
それだけでも価値はあるだろう。



とにかく量が多いので、二人がかりで良さそうなのを引っ張り出し、
外の光りで確認するという作業を繰り返す。
舞い上がる埃が半端なかった。
余談だが、もし絨毯類の商売をやりたいのであればマスクがあると役に立ちます。

選び抜いた物を車に積み込んだのだが、
もし予算があれば纏めて買取りたいとこだ。

ジョージアでもトルコでもチベット圏でもいつもの事だが、
僕は誰しもが行けない「物の現場」には辿り着ける。
知られていない物を見る事もできる。
どう買うかも分かっている。
しかし、いつも買う金がない。
泣けてくるぜ。



で、ピックアップした物を車に積み込んだのだが、
倉庫の在庫なので、
値段はオーナーに聞かなければ分からないと言う。
そこで、オーナーが居る店舗にピックアップした絨毯を持っていく。
(写真は店に戻る道中見かけた車。積載量と古い車がイカす)




で、ピックアップした数枚の中の一枚。
倉庫に長年眠っていた逸品。
どうやらオーナーのコレクションでリペアする予定だったのを忘れていたそうだ。



狂っている様な変態宇宙人的コーカサス絨毯。
よく見ると動物や人の様な柄。
古いさも申し分ない。

明らかに商業的な絨毯ではなく、古いオリジナル。
この類いはトルコではまず目にしない。

値段交渉の後、仕入れる。

因にこんなのも在った。



ダイナミックさ爆発。
フカフカのパイル(毛足)にインディゴが美しい。
日本では売り辛いだろう。高くて見送る。






倉庫ついでに立ち寄った絨毯洗浄の場所。
車を洗浄する高圧シャワーで少し離して洗うとの事。

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インスタグラムを見てくれている友人には、
「遊んでたねー」とよく言われるが、
実はほぼ毎日こーゆー事を繰り返しているのでござる。

まぁ、楽しいと言えば楽しいのだが、
仕事でやってるので日本で売る事を想定しなければならない。
むちゃくそマニアックな絨毯を買っても理解されない事も想定しなければならない。
例え、希少で価値のある物と出会っても売れなければ商売にならない。
それはプロではなく、趣味となってしまう。
そして今の時代、日本で絨毯やキリムに数十万円を出す人は稀だろう。
特にそれが知られていないコーカサスの絨毯やキリムなら尚更だ。

そこが、自分の好みだけで買うのとは大きく異なる点かな。
もし自分用に買うのなら気が楽なんだけどね。


コーカサス絨毯の宝探しでした。



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