日本では一部で知られた刺繍の布、通称マーシュアラブ
イラク※の婚礼用刺繍布ですね。
(※イラクの布という事になって居るが、トルコのアナトリアやトルコ南東部という説もある。下記でも書きます)
簡単に言ってしまうと、
赤や黄色、茶色や紫などの地に、
思い思いの刺繍を施した布です。
英語だと正確には、
Iraq's Marsh Arabs
複数形になるので、
マーシュアラブスが本来は正しいのかもしれない。
僕がこの布を知ったのは15年以上前の事になるが、
一部では熱狂的なファンが居るのは知っている。
現地の絨毯業者の間では、
「アラビック」や
「クルディッシュ」と呼ばれているのを耳にする布です。
一部の専門知識がある業者は、
「マーシュ・アラブ」と呼んでいるが、
僕が知る限り、それはごく一部な感じを受ける。
特に欧米系(または欧米人相手)の業者が、この名で呼んでいる印象である。
不思議な布です。
何よりもその柄が魅力ですね。
民族文化的な背景から来る部族的な柄や、
想像力を元にした動物や植物など特有のデザインが、
人を惹き付ける要素でもあると思うのです。
専門的な説明は詳しい方に任せるとして、
ここでは仕入れた一枚をお見せしようかな。
鳥とお花。
可愛らしさ全開です。
民族的な図柄も感じる。
花で囲まれた人。
喜びを表現しているのを感じる。
刺繍でビッシリ。
部族的な文様から具象、新しい物から古い物、密な刺繍や荒い刺繍まで、
本当に様々な種類が存在するマーシュアラブだが、
この一枚は刺繍で埋め尽くされ、
喜びが表現されている。
ところで、マーシュアラブは、
イラクの物という事ではあるが、
正確にはどうなのだろうか?
僕が感じるに、広範囲居住圏に渡るクルド人の文化であって、
トルコでも数十枚単位のマーシュアラブを色々と見た(写真を一枚も撮っていないのが悔やまれる)が、
「イラクの物」と言われた事はごく一部であり、
「クルドの物」とされていた。
トルコのアナトリア近辺やトルコ南東部でも製作されているとの話しもある。
または、
イラクから運び手を介してやってきたのだろうか?
実際、僕の友達のトルコのイスタンブール在住のクルド人は何度も、
イラクとの往復を行っている(クルド人は簡単に行き来できるらしい)ので、
その経由はあり得ると言えばあり得るとは思う。
正確な流通ルートは分からないが、
その存在感は際立っております。
他のキリムや絨毯とは全く異なるアプローチの唯一的な存在感があります。
全体
圧倒的な迫力がある。
素晴らしい。
色々見たが、この一枚が自分的に最高であった。
真ん中で紡ぎ合わせるのがマーシュアラブの特徴
裏面
60年から70年前位の物かしら。
マーシュアラブとしては古い方ではあると思える。
僕が見た範囲では100年を越える物は出会わなかった。
旧知でない場合、海外の絨毯業者は嘘を平気で言うのだが、
200年前の物なんて実在するのかしら。
分からぬ。
この布を含め、絨毯やキリムに凄く詳しい英国人の老齢な女性に出会って、
色々と教えてくれたのだが、その女性が買おうとしていた一枚がこれである。
僕がその街を訪れた日の午前中に、
渡り行商の手に寄って遥々どこかの地から運び込まれた一枚であって、
そのイギリス人女史が迷っていたのだが、値段が合わず一考していた所、
僕が現れて手に入れた物なのです。
なので、まだお店にも並んでいなかった一枚になる。
本当に何枚も何枚も見たが、密な刺繍、古さ、柄、素晴らしいと思えたのです。
本来は婚礼用という事で
その「喜び」や「祝福」を表現しているのが
僕的に惹かれた要素でもありました。
野性的な部族的な柄も良いけど、
暗いニュースが多い今、
こういった喜びを持つ物に惹かれるのです。
マーシュアラブでした。