仕入れの場のお話です。
特に役立つ情報はございませぬ。
人間模様の実録やり取りです。
※文中の人物名は仮名ですが、実話です。
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前回の渡航中、こんな事があった。
同宿だったフランス人、ソフィア。
たまたま、
彼女は指輪にするターコイズを探していた。
彼女は、
僕が古い物のバイヤーだと知ると、
「あなたと買いに行くわ」と
僕の返答を待たずに、
半ば強制的に僕を連れ出した。
経験上、こーゆーお願いは僕にとって良い事がない。
普段は断る。
でも、まぁ、
彼女の目的は明確だったし、
古い物に特段、興味もなさそうだったので、
僕は良しとした。
だが、
僕は彼女に言った。
「店は教えるけど、君が好きな石を選ぶと良いと思うよ」と。
そう僕が言うと、
癖の強い中年の彼女は、
僕に強めに返した。
「知っているわ。そんな事、分かっているわよ」と。
そ、そーなのね、じゃあ、いーですね。
そしてソフィアは、
「私はチベットの古い物を知っている」だの
「昔はこうだった、あーだったとか」とかも
続けて言うではないか。
僕は安心した。
そして、
だったら自分1人で買えや、ともちょっと思った。
ともあれ、
良いターコイズを置いている店に案内した。
(もちろん、僕の秘密の仕入れ場には連れて行かなかった)
ところが、だ。
店に着くなり、
僕にアレコレ聞いてくる。
これはどう?
あれは良い石なの?
と。
事前に言ってた事と違〜う。
パウダーの偽物を選ぶ彼女に、
僕は最低限の事を言い、
半ば無視をした。
最終的には、
偶然、店に居合わせた、
ガチ系旅人の某有名コレクターのフランス人カップル、
リュカとエマの
エマに声をかけ、彼女に選んでもらっていた。
リュカとエマは、お互いイカツいネックレスをしている上、
只者でない風貌をしているので、
一見して素人でないのは分かるだろうが、
彼らは売買業者ではない。
僕が知る限り、芸歴の長いコレクターで本物の旅人である。
二人ともナイスな人柄で、
リュカは何十年、旅をしているのだろうか。
・・・で、大量の山の中からエマがソフィアの為に選んだ、
そのターコイズ。
古い小粒で色艶が良く、
その上、穴の無い珍しいタイプであった。
流石のエマである。
しかしソフィアは、
エマの意見だけじゃなく、
僕の見解も被せて求めて来やがった。
君は人間不信か?
そんな言葉が僕の頭によぎったが、
実際にその時は、
そんな事はどーでも良く、
僕は、そのターコイズを見て、
すぐさま心の中で思った。
「あら、ちょっと〜、な〜に〜、ソレ、アタシが欲しいぃ〜」
と。
しかし、
状況的に、そんな事は言えない。
僕は格好つけた。
「フッ。グッドでレアなターコイズじゃないか。良いんじゃない」と。
僕の心の声は「ガチで欲しい」である。
僕の本音を翻すが如く、
エマは
「コレ、凄く良いわよ」とダメ押しをしやがった。
やめれ。
だが、結果、
ソフィアは買っておった。
くそう。
そんなやり取りを傍目に、
リュカの方はアフガン系の古いクリスタルのビーズの選定に集中しておった。
エマはエマで、
僕が選んでいたターコイズを欲しがったので、
「これはダメだよ、ワシが買うのじゃ」と制し、
僕は早々に現金を店主に渡し取引を完結させた。
早いもの勝ちですのじゃ。
ターコイズを一粒買うのにも、
人間ドラマが生まれるのである。
そう、
もうお気づきかもしれないが、
良い物は驚くほどすぐに無くなる。
ラダックが僻地であると思うのは勘違いであって、
実は、物の回転は意外と早いのです。
先日見た物が、
今日は無くなる、なんてのも日常茶飯事で、
密かに、僕が狙っていた古いパッソの数珠も、
僕が「空港検閲で問題あるな〜」と考えている内に、
チベット人が買って行ってしまった。
やはり良い物は目ざとく見つけられる。
それに加え、
現地の業者間での売買やり取りも、
一般的に想像するより、
頻繁に行われておるのです。
あっちの店にあった物が、
翌日にはこっちの店にあるとかね。
また、
僕が別の店で偶然再会した、
友人のネパール在住のチベット人業者ジムも、
僕が良いバター茶碗だな、と思って検討の一つに加えていた物を
翌日、彼が買ったと聞いた。
業者やコレクターは行き来をし、
どんどん良い物は無くなって行っているのです。
これでも今年は、
サンドラが来ていない。
サンドラはスイスの年季が入ったコレクターだ。
老齢にしてアクティブ。
コレクター歴は数十年。
そして、お金も持っている。
知識と財力、行動力を伴った無敵の女性である。
根は優しく、そして、ちょっと個性が強い。
嫌いな人に話しかけられても、
フルシカトする程、
好き嫌いがハッキリしている。
毎年ラダックへ来ていると思うが、
今年は用事があり来ていないらしい。
前回は僕の目の前で、
良い物を幾つも買って行かれた。
エマ達もあと数日でラダックを出ると言う。
今年はゆっくりできるかしら。
そんな甘い事はない。
ベトナム、マレーシア、シンガポールなどなど、
様々な国からラダックへ買い求めにやって来る。
もちろん、日本人もであろう。
今や欧米人だけではなく、
新興国を含めたアジア人が買い付けるのである。
若いベトナム人の半素人バイヤーが、
18万円以上の物を軽々と買っていくではないか。
ベトナム人も今やお金を持っているのです。
日本に出稼ぎに来ているのは、基本は労働者階級であって、
知識層は日本人が思うよりお金に余裕がある。
彼らは外国で肉体労働はしない。
そして、いっ時の中国人ばりに、
キツい値切りをする。
最終的に、僕の友人の店主にブチ切れられてはいたが。
彼を知る人間は、
彼が値引きをしないのを知っている。
僕も、業界歴38年の猛者である彼とは値段交渉は基本しない。
出会った最初の頃はしてたけどね。
幼少期から親に付いてアンティーク売買をやってきた彼。
既に十分なお金も持っているのも、今は僕は知っている。
家も凄く良い家に住んでいる。
そんな彼に、
アンティークに置いて、
交渉のテーブルで勝てないから。
そもそも彼は、
「もう売る事にはあまり興味がないよ」と自分でも言っている。
溢れるばかりのコレクションや商品を持っているが、
ゆっくりする事を好み、無理して売る事はしない。
だが、今や素人バイヤーも盛りだくさんである。
彼らはリスペクトなど無視でやってくる。
ほんのちょっと話しただけで芸歴の長い店主は、
相手の技量や財力、知識などを理解する。
プロの業者やコレクターは、
例えば、
ターコイズを手に取って、
「これはターコイズか?」とかは聞かない。
それは観光客の会話である。
その時点で良い物は見せてもくれない。
彼らが買えるのは、
店内の見える所に置いてある商品だけである。
値段の交渉または交渉の有無に関しても、
やり方が違うと思う。
そのベトナム人、
一方的に自分の希望金額を大声で押し付けるやり方であった。
そりゃ、友人もブチ切れるわ。
「あ〜、やらかしてるな〜」と
僕は店主の前の椅子に座りタバコを吸いながら、
金のロレックスを腕に巻いている若いベトナム人を見ていた。
今のラダックは素人バイヤーも沢山来るし、
観光客も大勢いる。
それ故か、
古い物に関しては、
実は、ゆったりとした時間は流れていない。
夏場に関して言える事だが、
ガヤガヤしている印象である。
人間模様も様々だが、
少し特有の雰囲気は感じる。
よく言えば、
濃密な人間関係、
悪く言えば、
噂好きの人間の集まり、
である、
カトマンズとは異なった様相を呈していると感じる。
僕はネパールでは、
観光客は来ないちょっと奥で仕入れをする。
そこには、
日本人バイヤーが来ていると言う話も聞かない。
しかし、
ラダックの古い物の売買の場には、
時として、
前述のソフィアやベトナム人の様に、
観光客も入り乱れてしまう。
それが良いか悪いか、とかではない。
プロばかりの場所とは異なった
人間模様が繰り広げられるので、
興味深い点もあるとは思う。
いや、
何処の場所でも
日本であっても
古い物に関しての
人間模様は面白い。
修羅の世界でもあり、
欲望と葛藤、
金と人情や裏切り、
それらが混じり合った、
面白い「人間」というモノが視られるのです。
僕自身も、
インスタグラムでの投稿や、
このブログで書いている事は、
僕の体験の、
ほんの数パーセントに過ぎないのです。
書けない事も多い。
実際には、
様々な人間が繰り広げるドラマが、
日々起こっておるのです。
最も、
ほとんどはロクなモンじゃないけどね。