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冬のソナタに恋をして

旅立ち


ユジンがフランスに出発する朝がやってきた。昨晩から一睡もしていない彼女は、ノロノロと服を着替えると、出発の見送りにやってきた母親をリビングで出迎えた。母のギョンヒは目を真っ赤にして娘の旅立ちを悲しがった。

「お母さん、泣かないでよ。死ぬまで会えないわけじゃないでしょ」

「だって、あなたがまるで逃げ出すみたいで悔しいんだもの」

ギョンヒは深いため息をついて言った。

「わたし、逃げ出すわけじゃなのよ。フランスに勉強に行くの」

それはわかっていてもギョンヒは悔しくてならなかった。

「ねぇユジン、留学を辞めて一緒に暮らしましょうよ」

「お母さん、それはできないってわかってるでしょ?元気で頑張ってくるから」

「ユジンてば」

「心配しないで。ちゃんとご飯を食べてしっかり寝るから。それにもう泣いたりしないって約束する。だから信じてくれる?」

そういうと、泣きべそをかきながら母が作ってくれた朝ごはんを流し込むように無理やり食べるのだった。本当は泣きたかったけれど、何も食べたくなかったけれど、母を悲しませたくなかったし、チュンサンとの約束も守りたかった。ユジンは元気な振りをして懸命に笑おうとした。

「お母さんのせいでご飯の味が分からないじゃない」

するとギョンヒも気を取り直して朝ごはんを食べ始めた。ギョンヒは何もかも諦めてフランスに旅立つ娘が心配でならなかった。ユジンが幸せになりますように、と心から願って娘の顔を見つめていたが涙が止まらずなかなか食べることができないのだった。


ユジンは食事を終えると、自室で最後の荷造りチェックをしていた。そして、デスクの上に置いたパリ行のチケットをしげしげと眺めていた。今日、自分はパリに行くのだ、チュンサンが旅立ったニューヨークから遠く離れたパリに。すると、不意にドアが開いてサンヒョクが入ってきた。そして何かをすっと差し出した。それはニューヨーク行きのチケットだった。

「ユジン、これでチュンサンを追いかけろ。まだ間に合うから。」


ユジンはサンヒョクの気持ちをありがたく感じた。しかし、脳裏には一昨日チュンサンとした約束を思い出していた。

『ユジン、僕たち海辺での思い出を大切に、もう会うのはよそう。いい思い出だけを覚えておこう。どこにいてもよく食べて、よく眠るんだよ。そして幸せになるんだ』




それが、彼と最後に交わした約束だった。約束を守らなければ。しかし、サンヒョクの気持ちを考えると、微笑んでそっとチケットを受け取った。ユジンは空港には一人で行くと告げて、送って行くと粘るサンヒョクを帰した。そして、空港に着いた後も、イスに座ってニューヨーク行のチケットをずっと見つめていた。しかし、彼女の心はもう決まっていた。ユジンはアメリカに行くつもりはなかった。彼女はチュンサンが望んだことをそのまま受け入れるつもりだった。よく食べて、よく眠って幸せになること。もう会わないこと。思い出を胸に生きていくこと。二人で決めた最後の約束を胸に、ユジンはパリ行の搭乗口に向かった。ユジンの座っていた椅子には、ニューヨーク行のチケットが残されていた。

『チュンサン、さようなら。また会う日まで。貴方は私のポラリスだから私たちはきっとまた会える。それがどんな形でも。それまで約束通りあなたの思い出を胸に幸せに生きていくわ』


こうしてチュンサンが去ってすぐ、ユジンも旅立った。

行き先はパリだった。

そしてその年の冬は終わりをつげた。

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