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冬のソナタに恋をして

兄弟





韓国最後の朝がやってきた。チュンサンは家具が何もなくなったがらんどうの部屋でキム次長に電話をしていた。

「いや、それは先輩に任せます。」

「次に会うのはアメリカか、、、」

「はい、先輩ありがとうございます」

「とにかくお前は治療に専念しろ。ところで便は夜か?」

「はい、10時です」

「見送りぐらいさせてくれよ。気を付けて行って来いよ。必ず、仕事に復帰しろよ。待ってるからな。」

「先輩お元気で」


電話を切るとキム次長はマルシアンの見回した。チュンサンが去った後のオフィスはがらんとしており、今は彼の痕跡は跡形もなかった。まるで、最初から存在しなかったように。何でこんなことになっちまったんだろうな。キム次長は大きなため息をついてチュンサンのデスクをポンポンとたたいた。




一方チュンサンも電話を切ると、室内をもう一度見まわした。思えば、この部屋を借りた時、チュンサンはユジンとの未来を夢見ていた。南怡島の湖に浮かぶボートのような洋画を飾り、ユジンが選んだ家具をそろえて、二人でクッションを並べた日が懐かしい。彼女が第1号のお客さんだと言って訪ねてきた日、笑顔がまぶしかった。そして食べきれないほどの料理を作ってくれて、誕生会をしてくれたっけ。あんなに楽しい誕生日は送ったことがなかった。何もかもが楽しい思い出で、ぐっと胸が詰まった。チュンサンは悲しい気持ちで最後に部屋を見回すとそっと出て行くのだった。


チュンサンはその足でキムサンヒョクの放送局に向かった。サンヒョクが休憩に入ると、廊下に穏やかな笑みを浮かべるチュンサンの姿があった。サンヒョクはチュンサンが何を話しに来たのだろうと警戒した。二人は社屋の屋上に行き、ソウルの街並みを眺めながら話した。ソウルの街はすっかり雪がなくなり、春のにおいがした。どんよりと曇ったかすみがかったような灰色の空が広がっていた。そしていたるところに高層ビルが立ち並んでいる味気ない街並みを見ながら、チュンサンが口を開いた。


「もう冬じゃないんだな。冬の空はきれいだった。透明なのに深みがあって。だが、もうこの空も見納めかな。」

チュンサンはドラゴンバレースキー場の青く澄んだ空を思い出していた。この数か月、ユジンと繰り返し一緒に見た空。しかし、穏やかな彼とは対照的に、驚いたのはサンヒョクだった。

「どういうことなんだ?」

「今から空港に行くよ。サンヒョク、ユジンを頼んだぞ。君にならユジンを安心して任せられる。ユジンのこと、頼んだぞ。しっかり守ってくれよ。もう苦しまないように。」


サンヒョクは驚いて尋ねた。

「チュンサン、、、まさか、、、」

チュンサンは遮って言った。

「本気で、本気で思ってるんだ。もう戻るつもりはない。」

そしてサンヒョクの肩に手を置くと

「元気でな。じゃあな。」と去っていくのだった。サンヒョクはこのままチュンサンを行かせるわけにはいかなかった。

「待てよ。チュンサン、カンジュンサン!行くなよ。僕は君がうらやましかっただけなんだ。今となっては君たちが離れなければいけない理由はないだろ。ユジンのそばにいてやれよ。」

しかしチュンサンはため息をついて言った。

「それはできないんだ」

「なんでだよ?僕と兄弟だからか?僕に遠慮して譲ってくれるのか?」


しかし、彼は悲しそうに笑って言った。

「愛は譲るものじゃない。ユジンの力になれるのは僕じゃやなくて君だ。君は僕よりも長く彼女のそばにいてあげられる。じゃあな。」

そういうと再び微笑んで彼は去っていった。

サンヒョクはチュンサンの言った意味がさっぱり分からなかった。しかし、彼が何か大きな秘密を抱えていることはわかった。サンヒョクは仕事が終わり家に帰るまでの間、ずっと彼の言葉を反芻してみたが、それでも答えはわからずじまいだった。

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