キムサンヒョクにとってもチュンサンの死は、かなりの衝撃だった。しかし、ほかのみんなと違って、チュンサンにかなり辛く当たられていたサンヒョクは悲しんではいたものの、人の命はあっけないものだと、客観的に見ている自分もいた。
ユジンをとられて、あんなに嫉妬していたのに、そのチュンサンがいなくなったことで、あっさりとライバルが居なくなってしまった。しかし、ユジンが悲嘆にくれる姿に、サンヒョクも胸を痛めた。ユジンが元気になるためなら、なんでもしようといつもそばにいることを誓った。
しかし、ユジンは表向きは元気にふるまい、あまり弱音は吐かなかった。チュンサンの名前もいっさい出さなかった。ただ、時々遠い目をしている時が増えて、チュンサンの事を思い出しているのだと分かった。そんな時はユジンの世界に誰も入りこめない。チュンサンとの2人だけの時間なのだ。サンヒョクは、記憶の中のチュンサンにさえ嫉妬した。
そして、もっと自分を頼って欲しいと思っていた。しかし、たまに思わずユジンが涙ぐむときは、そっと肩をかしてあげ、ユジンを笑わせるために自分も笑っているぐらいしか、出来ることはなかった。
チュンサンが死んでからユジンは変わってしまった。無邪気さや明朗快活さがなくなり、明るさや健気さはあるものの、いつもどこか暗い影を感じさせた。あんなに大好きだった、弾けるような笑顔のユジンがいなくなり、サンヒョクは死んでもなおチュンサンを恨めしく思った。
しかし、男子生徒たちは明るさの中に憂いを帯びた表情を見せるユジンにかえって惹かれるようで、頻繁に告白されており、サンヒョクはいつもユジンのそばを離れず、気を揉まなければいけないようになった。
サンヒョクは、大学でマスメディア学部を選択した。日頃は控えめな自分が、外に向けて情報を発信することで、人に影響を与えられる側になることが、楽しくてしかたなかった。将来はテレビ局かラジオ局に勤めようと考えていた。
プライベートでは、相変わらずユジン中心の日々が続いていた。違う大学だったので、土日はいつもユジンやヨングクたちを遊びに誘った。でも、ユジンはバイトとボランティアで忙しいと言って、あまり会えない日々が続いた。ユジンはひたすら勉強などに打ち込んで、周りを見ないようにしているようだった。サンヒョクはそんなユジンをいつも気遣って、少しの時間でもそばにいたり、電話をかけたり、食事に連れて行ったりしていた。
やがて、みんな大学を卒業して、サンヒョクはラジオ局に就職した。ユジンは誰よりも喜んでくれて、就職祝いに腕時計をくれた。
このころになると、周りの友達全部がユジンとサンヒョクは付き合っていると思うようになってきた。サンヒョクも就職したことで、経済的に自立して、ユジンとの結婚を考えるようになった。
ある夏の夜、サンヒョクはユジンに結婚を前提とした交際を申し込んだ。ユジンは顔を真っ赤にして、しばらく考えているようだったが、小さな声で受け入れてくれた。
それからのサンヒョクは生まれてから一番幸せな日々を送った。彼氏なので、いつでも好きな時にユジンに会うことが出来るし、触れることも出来る。映画に行ったり、ドライブをしたり、ユジンの部屋でおしゃべりをしたり。
ユジンはガードが堅くて、キスから先にはすすまなかったが、それでもサンヒョクは満足していた。もう、カンジュンサンの亡霊は2人の間にはいない、過去に追いかけられずにすむと思った。実際、ユジンはずいぶんと明るく笑うようになった。
サンヒョクはフレンチレストランでユジンにプロポーズをして、承諾をもらった。早く結婚して一緒に暮らしたい、サンヒョクはその日を待ち焦がれてワクワクしていた。
しかし、最近ふっと思い出すことがある。
そういえばチュンサンはよく父親の大学に来て、部屋まで入って話をしていたが、いったい何をしていたのだろうと。今まで、忘れていたのに、急に思い出すなんて。
そんなとき、チェリンから帰国するというメールが届いた。予想もしない嵐の前触れだった。