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そんな二人の関係が変わったのは、春川第一高校に入学してしばらくしたころだった。高校でも美しくて聡明でお金持ちのミヒは、相変わらず一目置かれていた。子分のようなおとなしい女子生徒たちやジヌを従えては、自由気ままにふるまっていたのだ。しかし、隣のクラスのチョンヒョンスと出会ってから、ミヒは少しずつ変わっていった。傍若無人の振る舞いが少なくなっていった。一方でジヌも、ミヒを通じてヒョンスと知り合い、やがて友情をはぐくんでいった。ヒョンスは周りにいる金持ちの友達とは違って、苦労をしている分優しくて懐が深い一面を持っていた。ミヒがヒョンスに夢中になっていったのと同じような理由で、ジヌもまたヒョンスのことが大好きになっていった。ジヌはミヒがヒョンスを好きなのは知っていたが、自分もヒョンスの親友だったので、特に嫉妬することもなく、3人は次第にいつも一緒にいるようになっていた。
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ある日のことだった。ジヌの家にヒョンスとミヒが遊びに来ていた。いつものように庭でおいしいケーキとお茶を飲んだり、ミヒのピアノに酔いしれたり、大好きな詩を朗読したり、楽しんでいた3人。しかし、ジヌの父親が3人の写真を撮ろうとしたときにそれは起こった。ポーズを決めて、と言う父親に、ミヒはそっとヒョンスの右腕に自分の腕を絡ませて、悠然と微笑んだのだった。固まって困惑した表情になったヒョンス、びっくりして真顔になった自分が写真に納まっている。そのときジヌは初めて嫉妬という感情を覚えたのだった。
それから時は流れて、3人は高校を卒業してジヌとミヒはソウルの大学に、ヒョンスは春川で就職をした。ジヌはミヒとソウルで何度か会ったが、彼女はいつもヒョンスの話ばかりしていた。二人は付き合っており、ミヒは相変わらずヒョンスに夢中だった。そんな彼女に、ジヌはいつも自分の心を押し隠して相槌を打つのだった。ジヌにとって、二人は完璧なカップルに見えていた。きっといつかは結婚してしまうのだろうと、寂しい気持ちでミヒを見つめていた。
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その次の年の1月、ヒョンスと相手のギョンヒは通っている教会で簡素な結婚式を挙げた。もちろんミヒは欠席だったが、相手のギョンヒもまたヒョンスに劣らず芯がしっかりして心優しい女性だったので、ジヌは心から二人の結婚を祝福した。その夜のことだった。その日はジヌの両親は海外旅行に出かけており、ジヌは独りきりで酒を飲みながら、ヒョンスの結婚式を思い起こしてほっこりとした気分で酔っていた。すると突然電話が鳴った。それはミヒからだった。ミヒはとても暗い声で泣いているようだった。
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「わたし、わたし、、、、今日ヒョンスの結婚式を見てたの、、、、彼のあんなに幸せそうな顔を見たことがなかった、、、許せない、、、あいつもあいつの女も許せない、、、、彼は私と結婚するはずだったのに、、、指輪ももらったのに、、、、」
そういうと後は言葉にならずに嗚咽が延々と聞こえてきた。
「ジヌ、わたし死ぬ、、、今すぐ死ぬ、、、」
ろれつの回らない口調でミヒはつぶやいた。どうやら泥酔しているようだった。
「ミヒ!いったいどこにいるんだ?家か?」
ミヒは泣きながらわめいていたが、最後にぽつりと言って電話を切った。
「あなたたちと高校の時に、、、よく行っていったところ、、、。」
ジヌは車のキーをひっつかむと、全速力で高校時代によく訪れた春川の川のほとりに向かった。どうか間に合ってくれと祈りながら。