「僕たち、今日結婚しよう」
ユジンはカップを持つ手を止めて、目を丸くしてミニョンを見つめた。
「本気だよ。二人だけで結婚式を挙げようよ。」
「あなた、本当に変よ。どうしちゃったの?」
ミニョンはどこまでも真剣な顔をしていた。
「ただ待つのが嫌になったんだよ。」
「お母さんたちが反対するからやけを起こしちゃったの?」
「違うよ。今すぐに君が必要なんだよ。僕の母が反対したって、君は僕と結婚するだろ?」
「ええ」
「君の母親が反対しても同じことだろ?」
「、、、そうね」
「僕も同じだよ。どっちにしろ結婚するんだ。これ以上気をもむことはないじゃないか。僕たちは10年以上待ったんだよ。」
「もう待ちたくないんだ。結婚しよう」
ミニョンの真剣な顔を前に、ユジンは戸惑っていた。困惑していた。今日のミニョンは今までで一番変だった。何かに追われるように結婚を焦っている。ユジンにはそれが何故なのか、どうしても分からなかった。
そこで、あえて特に返事はせずに自室に帰ってチョンアと打ち合わせの続きをした。しかし、心ここにあらずのユジンにチョンアが声をかけた。
「なぜ理事は帰りが遅かったわけ?」
「私にも分からないわ。」
「結婚前から手綱をしっかり握らなくちゃだめよ」
しかしユジンは力なく笑うとまた目を伏せてしまった。
「理事が様子が変なのはどんな理由なの?」
「あのね、お母さんのことなのよ。私とチュンサンと両方の母親が結婚に猛反対なの。だから辛いんだわ。」
チョンアはとてもびっくりして、思わず目を見開きながら聞いた。
「それで、結婚をあきらめちゃったの?!」
「ちがうの、その反対よ。今すぐ結婚しようっていうの」
ユジンは本当に困った様子でぽつりと言った。
「はぁ、理事ってあんたのことが本当に必要なのね。」
チョンアはあきれた口ぶりで言った。
「もう、そんなに愛されてるんなら、さっさと結婚しちゃいなさいよ。結婚なんて一緒に暮らすと公言するだけでしょ。大事なのは愛してるかどうか、ただそれだけじゃない。あんたは彼を愛してるの?」
ユジンはチョンアをじっと見つめた。その瞳はYESと言っていた。
「愛してるんだったらそれで充分よ」
しかし、ユジンはますます深く考え込んでいるようだった。チョンアにはうまく説明できなかったが、それだけでは理解できないことが奥深くで進行しているのに、自分だけがそれを知らない、そんな気持ちがするのだった。ただ厄介なのはそれが何なのか皆目見当がつかないことだった。それでもチョンアに背中を押してもらったことで結婚しようと言う勇気が持てた。
一方でミニョンは自室で目を閉じながら考え事をしていた。ミニョンとユジンは兄妹かもしれないが、ミニョンはどうしてもユジンを諦められなかった。法律上二人は赤の他人なのだ。結婚しても問題ないのだから。でもユジンに秘密のまま結婚したら、自分を許すことが出来るだろうか。そんなことを考えていると、急に視界が明るくなった。ふと目を開けると、そこに晴れやかな顔のユジンが立っていた。ユジンはカーテンを全開にすると、ミニョンの手を取って言った。
「チュンサン、目をつぶって何を考えてるの?」
ふたりは気分転換に散歩に出かけることになった。久しぶりにロープウェーに乗り込み、二人は山頂へ向かった。山頂はまだまだパウダースノーにおおわれており、二人はこの間のように真っさらな雪の上に足跡を描いて林を歩いた。
「チュンサン、結婚しようって本気?」
するとミニョンは何か言いたそうに口を開いたが飲み込んで、すっと目をそらした。
「すごく悩んだのに、本気じゃなさそうね。」
「本気だよ」
「でも私たちだけで結婚したら証人がいないじゃない?」
「証人なんて必要ない」
ミニョンのまなざしはどこまでも真剣で、ユジンを求めているのを、心から感じられた。そしてついにユジンも心を決めた。
「わかったわ。私たち、結婚しましょう。」
ふたりはそっと抱きしめあった。お互いの温もりだけが頼りの静かな門出だった。山頂の凛と冷えたすがすがしい風だけが、二人を祝福しているように感じた。