2021-09-14 22:43:00 | 未来記
15.司法取引
防衛軍の輸送機は、基地の定位置に降り立った。
ドローンが進化した航空機なので、移動する音は静かだ。
11人の少年は、すぐに基地の会議室へ移動させられた。
牢屋にぶち込まれると思っていた少年達は、かえって警戒した。
全員手錠をされたまま、会議室の椅子に座らされ、手錠は椅子につなげられた。
銃を持った兵士達が見守る中、しばらく待っていると、防衛軍の上官らしき人が先頭で、兵士が何人か入って来た。上官の胸には、バッジがたくさん輝いていた。
「君達、ご苦労だったな。君達の戦いは、空からの映像で見ていた。賞賛に値する。
たったこれだけの少年が、無頼漢ばかリそろった大人を大勢倒すとはな。
いろいろ聞きたいことがあるが、協力してくれるかね? 」
少年達は、思っていたのとずいぶん様子が違うことに、戸惑いを感じた。
「君達の立場は、微妙なところなのだ。
このまま、無断転送の件で取り調べを行っても良いのだが、君達の使った戦略に、私達は興味を持っている。
君達は、司法取引を知ってるかね…? 」
MFiエリアのルールの授業で、その言葉を覚えていたタケルが言った。
「はい。犯罪で実刑を受けた人でも、社会にとって有益なことに協力することで、刑を受けなくてもよくなることだったと思います…」
「そうか。わかる子がいるなら、話が早い。
君達が、こちらの言うことに理解を示してくれたら、その手錠を外すことも可能だ。
さて、君達はある女の子の魔法で、すぐにでも消えることができるそうだね。
君達の仲間で、宇宙船に残っていたニックという少年が、話をしてくれた」
それを聞いた少年達は、口々にニックを罵った。
「あいつ、しゃべりやがったのか… 」
「なんだよ。いっつも、勝手なことばかりしやがって… 」
「自分が助かりたくて、オレらのことバラしたのか…」
それを聞いていた上官は、手を振って話を続けた。
「君達が誤解しないように言うが、
ニックという少年は、まず自分のやっていた犯罪を白状した。
地球に転送した君達が、同じような犯罪に関わっていたとも言った。
だが、それを強要したグループから、暴力を振るわれ、逃げると連れ戻され、しかたなくやっていたことも、くわしく説明した。
彼は、ラミネス宇宙ステーションに戻って、これから裁判にかけられる。
その時、そのグループのことや、君達のことも発言するだろう… 」
少年達は、言葉を失った。
「君達も、彼と同じように、これから裁判を受けなくてはならない。
ただ、君達の戦い方が、わが防衛軍にとって、有益なことをもたらすかもしれない。
君達は、女の子の魔法が功を奏したとはいえ、味方に犠牲も出さず戦った。
しかも君達より、腕力のある大人をひとり残さず、動けないように縛り上げた。
全員が未成年だというのに!
まぁ、まずは君達の刑罰が確定してからでも良い。いくら悪い奴に強要されたからと言っても、君達のしたことで、被害届も出ている。
今、ラミネス宇宙ステーションでは、これまでにないくらい犯罪が多発しているのだ。
多くの子供達が犯罪に巻き込まれ、行方不明の子を探す親が、何人も捜索願を出している。
君達もその1人かもしれない。
君達を手下に使っていたグループは、すでに捕まっているが、君達の証言で、より重い刑罰を与えることができる。
被害を受けた人達への、罪を償う気持ちで、裁判に臨んで欲しい。
そのあとで、君達が素直に実刑を受けて刑務所に入るか…
それとも、君達が防衛軍に役立つような働きをしたいと希望するなら、
その道も与えてあげよう。
もちろん、君達を探している親との話し合いも必要だ。
よく考えて決めたまえ… 」
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