未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第19章 試練を乗り越えて ①

2021-03-31 16:30:01 | 未来記

2012-05-11

1.止められない戦い

 

ルビーおばさんが、自分の息子、つまりパールの兄達が行方不明であることを口にした、その直後のことだった。

 

ホスピタルの外で、耳をつんざくような爆発音が起こった。

 

それを待っていたかのように、近くの部屋から何人かの人が、入り口へと走って出て行く音が聞こえた。

 

ホスピタルの内側からも、外へ向けて発砲を始めた。

 

アッという間に、ホスピタルを取り囲むような形で、激しい銃撃戦が始まってしまったようだ。

 

デビッドおじさんは、キラシャ達に向かって言った。

 

「この部屋から、地下を通って、別の建物につながる通路がある。

 

この場所が狙われるのも、時間の問題と思っていたが…。

 

ここにいたら、みな命はない。急がないと…」

 

 

パールは心配そうに「パパは…? 」と尋ねた。

 

「パールには、つらい思いをさせるけど、味方の兵士に任せるんだ。

 

君の民族の兵士達を信じて、我々は足でまといにならないように、場所を移動しよう。

 

とにかく、急いで!」

 

カールがベッドのそばの床を棒でテコのようにして開けると、階段が見えた。

 

デビッドおじさんは、オパールおばさんを青年にかかえさせて、下に降りるように言った。

 

パールの家族も、このままこの部屋を離れることに戸惑いを隠せなかったが、デビッドおじさんは叱るように言った。

 

「早くしないと、味方を困らせることになりますよ!

 

我々を守るために、彼らはずっと待機していたのです。今も必死で戦っているんです。

 

自分の家族を守るより、彼らは我々を守ることを優先してくれたんです。

 

我々は、生きて次の戦いに備えなくてはいけないのです!」

 

ルビーおばさんは、その言葉を聞いて、気持ちを切り替えたようだ。

 

 

「あなた、ごめんなさい。私も戦います。また会いましょうね…」

 

パールと兄弟達も、パパの顔を名残惜しそうに見つめながら、階段を降りる母親の後に続いた。

 

キラシャ達も急いで階段を降りた。

 

真っ暗なので、Mフォンのライトを頼りに、何度も転び落ちそうになりながら、必死の思いで後について行った。

 

『パールのパパが、無事でありますように。

 

戦っている兵士の人達も、無事でいてくれますように!』

 

と願いながら…

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第19章 試練を乗り越えて ②

2021-03-29 16:32:30 | 未来記

2012-05-30

2.行くか戻るか…

 

また、キララの魔術で、違う空間へと移動したタケル達。

 

位置的には、さっきまでいた宇宙船と同じ場所にいるようなのだが、モヤに包まれながら、何か空間に浮かんでいるような、妙な気分だなとタケルは思った。

 

キララは、この空間を維持しようと、まじないのようなつぶやきを続けながら、何かに集中していた。

 

しばらくは、空間を浮遊するように動いていたので、子供達は体勢を整えるのに必死だったが、モヤが白い壁のように堅くなってくると、自分の体重を足で支えられるようになった。

 

子供達の中で、一番不満げなニックが、キララに向かって怒りをぶちまけた。

 

「オレはこんなことに巻き込まれなかったらさぁ

 

今ごろ宇宙ステーションで、ゲーム三昧の生活してたンだぜ~!

 

ちゃんと、元のとこに戻してくれるンだろうな…?」

 

「さぁね。アンタは戻っても、まずホスピタルで治療が待ってるだろ?

 

それから、アンタが正常な頭だったとわかれば、

 

あンなとこで何をしてたかって、取調べが始まるだろうけどね…」

 

「なんだよ。オマエが連れて行かなきゃ、あンなとこに行けるわけないじゃンよ~!

 

オレには、何の罪もないじゃン!」

 

「アンタは、自分でマシンをいじってたじゃないか。警察はとっくにわかってるよ。

 

アンタがシーナ、シーナって叫ンでたから、頭がおかしくなってさ

 

あンなことしたと思われたンだろ?」

 

「オマエが、急に消えるからだろ? 何で勝手に消えたりするンだ!

 

オレがこんなトコにいるのも…何もかも、オマエのせいだろ!!」

 

「何でも、アタシのせいにしてればいいさ!

 

…それで何でも解決すればね…」

 

ニックは、まだ言い足りなさそうに、ふてくされてしゃがみこんだ。

 

「そりゃそうと、タケル。

 

アンタの友達が、なんか妙なものを送ってくれたみたいだけど、この使い方知ってるのか? 」

 

タケルは、キララに小さなMフォンみたいなものを見せられたが、まったく見覚えがない。

 

「アンタがあの宇宙船で縛られている間に、

 

悪党に捕まってた、アンタの言うアニキって奴に聞いてみたけど、

 

宇宙でも使えるボックスらしいンだ。

 

タケルのMフォンにくっついてたから、アタシが持ってたのさ。

 

さっきの宇宙船からの転送には、こいつも使ってたンだ。

 

なかなか、良かっただろ?

 

アタシ的には、この空間ごと、これで地球まで行けるといいンだけどねェ」

 

「そんなこと、できるのか?」

 

タケルは、思わず叫んだ。

 

「どうだろう。アタシは、やってみたいンだけどね…」

 

 

「ちょっと、待って!

 

オレ、やっぱり家族のとこに帰りたくなった!」

 

キララに向かって、少年達の1人が、叫ぶように言った。

 

「うちの親は、ホント勝手で、オレのことなんてちっとも心配しちゃいないだろうけど。

 

オレには弟とか、妹もいるし…。

 

今までろくに面倒見てなかったけど、これから気持ち切り替えて面倒見たら、

 

こいつらみたいに、オレの言うこと聞くかもしれないし…。

 

アイツラの悩んでること、ちょっとは聞いてやってもいいかな~って…。

 

なんか、自分は何もしないのに文句バッカ言ってたし…、

 

親がナンかやってくれること、期待しすぎてたのかな~って。

 

もう一回やり直せたら、オレも自分で努力すれば、何とかやっていけるかもって…。

 

そう思えるようになったンだ…」

 

「それだったら、オレも…」

 

「ボクも、帰りたい…。もう、こんなのいやだよ…」

 

他の少年も、次々に帰りたいと言い始めた。

 

「タケルは? アンタが地球に行きたいンだったら、アンタひとりでも、アタシは行くよ」

 

タケルは、どうしてよいのか決めかねた。

 

「オレ達は、どうするンだ…?」

 

ニックは、ムスッとした顔のまま言った。

 

「そりゃ、戻ってもらうしかないね。アンタ達がそう思ってるンなら…」

 

「どうやって?」

 

「そりゃ、こうするしかないさ…」

 

再び、キララが呪文を唱え始めた。

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第19章 試練を乗り越えて ③

2021-03-27 16:34:28 | 未来記

2012-07-05

3.デビッドおじさんの苦悩

 

暗くて長いトンネルの中を、Mフォンのライトだけではわからない障害物に、キラシャは何度も足をひっかけた。

 

鼻をつくようなにおいも感じたので、戦争中におきざりにされた亡骸もあったかもしれない。

 

キラシャはつまずくたびに「ごめんなさい! 」とあやまった。

 

その度にケンは「大丈夫か? 」と声をかけ、

 

キラシャの腕をつかんでひっぱり、必死で走り続けた。

 

小さいころは、キラシャの方が、イジメやケンカでしょぼくれていたケンを心配して、

 

「大丈夫?」と声をかける方だった。

 

ひどい時には、いたずらな上級生に食堂のシャンデリアにつり下げられ、縛られた手が真紫になるくらいホッておかれたケン。

 

気がついたキラシャとタケルが、率先してテーブルやいすを必死に組み合わせ、上級生に手伝ってもらい、ぐったりしたケンの救出を手助けした。

 

保護者が親でないとか、イジメても保護者があまり文句を言わないという子供は、特にイジメっ子のターゲットにされるのだ。

 

キラシャは、そんなケンのために、キャップ爺を紹介した。

 

ひ弱だったケンも、キャップ爺の話す外海の話を、キラシャと一緒に、目を輝かせて聞いた。

 

成長するにつれて、ケンも男の子らしい激しい遊びに加わるようになり、今はパスボーでも得点を重ねる活躍だ。

 

キラシャは、意外なくらいケンが力強くなったことに、少しだけ胸がキュンとなった。

 

『これがタケルだったら…』

 

キラシャはチラッと思ったが、この危険な時を乗り切るには、ケンについてゆくことが最優先だ。

 

ケンは、暗いところでも障害物がカンでわかるらしい。

 

パールの兄弟も、動物のようなカンで障害物を乗り越えていた。

 

ルビーおばさんも、デビッドおじさんが抱えて移動していたようだ。

 

マイクも、大きな身体をゆさゆさゆらしながら後に続いていたが、いつの間にかパールに手を引っ張られていた。

 

キラシャは、ずっとホスピタルで静養していたので、早く息が切れた。

 

『もうこれ以上、足が動かないよ~』

 

キラシャがネをあげそうになったころ、ようやく小さい明かりが遠くに見えてきた。

 

パールの兄弟と、オパールおばさんを抱えていた青年が先に到着し、ドアの向こうにいる仲間と話をしていた。

 

ドアが開くと、目の前に道が広がり、何百人も入れそうな広場が見えた。

 

オパールおばさんが、用意されていた車いすに乗せてもらうと、集まっていたたくさんの人とともに広場に向かった。

 

広場に面した建物の壁には、スクールで学んだことのある古い型のプロジェクターで、少し前の映画を映していた。

 

「最新のものが買えるほど、お金があればいいのだが…。

 

これが故障した時に、私に仕事がまわってくるんだよ。

 

ただ、食べ物もろくに口にできない人達からお金をもらうというのは、複雑な気持ちだね…」

 

とデビッドおじさんは言った。

 

「だからこそ、この人達を助けたいと思うんだ。

 

貧しい暮らしから抜け出すことはできないにしても、こういった映画を通して、いろんな世界を見てもらいたい。

 

他のエリアみたいに、安全に住めるところがあって、欲しいものが買えるような生活をするには、どうしたらいいんだろうって、話しかけてみたんだ。

 

でもね…。

 

『戦争が終わらないと、何もできないよ。

 

それに…。

 

戦争が終わっても、またすぐに次の戦争が始まるンだ…』

 

帰ってくる答えは、今も変わらない。

 

戦争で肉親を失えば、その相手をにくむ気持ちが、また次の戦争に駆り立ててしまう。

 

自分達の生活を脅かす相手が、自分達よりも裕福な生活をしようとすれば、なおさらのことだ。

 

戦争には、ルールがない。

 

強いものが、弱いものを傷つけ、その幸せを奪いとることで、自分達の生活を守ろうとする。

 

この闘いが、繰り返されて今があるんだ。

 

もっと強い力で、もっとたくさんの、いろんなエリアの人達の協力がないと…。

 

しかも、防衛軍のような大きな軍隊が入って、本気で戦争をやめさせて、

 

問題を解決しようと動かない限り、

 

…今の、この困難な状況を変えることはできないんだ…」

 

デビッドおじさんは、深いため息をついた。

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第19章 試練を乗り越えて ④

2021-03-23 16:35:31 | 未来記

2012-09-23

4.どうなるンだ…?

 

宇宙船の乗組員達と話しているアニキの後ろに、タケルと少年達が現れた。

 

タケルは気が付かなかったが、アニキはそのまま宇宙船に残っていたようだ。

 

アニキは乗組員と話していたが、先ほどの少年達の態度が好ましいものでなかったせいか、乗組員の方は疑い深い顔をして聞き流している風だった。

 

そのせいか、再び現れた少年達に気がつくと、ひとりが大声で叫んだ。

 

「こいつら、また戻ってきたぞ!

 

また何か、たくらんでるんじゃないのか?

 

おい、鎖を持ってこい!

 

手分けして、全員鎖につなぐんだ!! 」

 

その声とともに、何人かの乗組員が集まってきて、少年達の有無を言わさず、周りを取り囲み、ひとりひとり鎖につなげていった。

 

少年達のほとんどは、元の宇宙ステーションに戻りたいという一心だったので、抵抗する気持ちもなく、素直に鎖に縛られていった。

 

それでも、男達の乱暴な縛り方に、少年達は口々に文句を言った。

 

「オレ、まだアンタを殴ってないんだけど、これ以上痛い目に遭ったら、アンタを蹴るかもね!」

 

「オレ達、なんで縛らなきゃなンないのさ!」

 

「宇宙船を乗っ取って、なにするっていうンだ。  

 

それより、オレ達を元の所に返してくれよ!」

 

「オレ達は被害者なンだ。

 

家族の所に返してくれよ!」

 

「頼むから誰か、オレ達の話、聞いてくれないかなぁ!」

 

少年達の叫び声を、うるさそうに聞き流し、男達は部屋を出て行き、鍵をかけた。

 

そこへ、キララの声が聞こえてきた。

 

「こんなことになるって、わかってたよ。

 

自分らの都合ばっかり考えたって、周りはハイそうですかって聞いちゃくれないよ!

 

アタシが言っても、たぶん聞いちゃくれないと思ったから、黙ってたけどね…」

 

この言葉に、少年達の怒りが爆発した。

 

「わかってるなら、なんで戻ったンだ!」

 

「そうだよ、戻らない方が自由に動けたし、こんな痛い思いして縛られなくても…」

 

「早く、オレ達を自由にしてくれよ!」

 

しかし、キララは少年達を怒鳴りつけた。

 

「アンタ達のいけないとこは、人の話を聞かないとこなンだ。

 

そんなことじゃ、人もアンタ達の言うこと聞いてくれないよ!

 

いいかい!

 

今まで、ひとりひとり、アンタ達の未来を見せてやったことがあるだろ?

 

覚えてるかい?

 

ニックだって、今のままじゃ、将来は監獄行きなンだ。

 

ここにいるみんなも、そう違いやしないンだ。

 

そりゃ、自分の将来を聞いて、自分でそうならないようにすりゃ、アタシの言ったことなンて忘れていいさ。

 

でも、今ンとこ、アンタ達の未来は、変わってないよ!

 

特に、タケル!

 

まだアンタの未来を見せてなかったけど、ホントはここの誰より悲惨な運命?

 

ってのが、待ってるンだ。

 

しかも、もうすぐそれが始まるンだよ… 」

 

タケルは、今までキララが言ったことが、本当に起こることを思い出した。

 

「アンタの大切な子がいるだろ?

 

アノ子がこれからどうなるか

 

知りたいかい…?」

 

タケルは、キララをにらみつけながら、…キラシャに何が起きるのだろうと、不安な気持ちを押しこらえた。

 

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第19章 試練を乗り越えて ⑤

2021-03-21 16:38:31 | 未来記

2012-12-04

5.にぎやかなお祭り

 

それまで映画を流していた広場で、あちこちから太鼓の音が鳴り響き始めた。

 

最初はバラバラに鳴っていたが、だんだん音が重なると、それに笛の音が加わり、他のいろんな楽器の音も一斉に鳴り響いた。

 

アフカ・エリア独特の、民謡音楽の演奏とお祭りが始まったのだ。

 

広場に集まった人達は、音楽に合わせながら、思い思いに自分の手足を動かし、自分の民族の踊りを始めた。

 

何台かのカメラが人々を撮り始め、大きなスクリーンに、楽しそうに踊り始めた人々が映し出された。

 

キラシャは、アフカ人の動きの早さにびっくりして、最初はじっとその様子を見ているだけしかできなかった。

 

キラシャの生まれ育ったエリアで、音楽に合わせて踊るのは、ダンスの授業と、誕生日会でのカラオケの時くらいだったから。

 

独特な音楽の調子に合わせてうまく踊れるほど、キラシャは踊りが得意じゃなかった。

 

気がつくと、パールは兄弟達と一緒に、見たことがないくらい、はしゃぎながら踊っていた。

 

マイクも、上機嫌でパールを見つめながら、大きな身体を揺さぶっていた。

 

ケンは照れくさそうに、踊っていいのか、どうしようかと迷っている感じだ。

 

キラシャは、ちょっとホッとして、ケンに苦笑いをしてみせた。

 

それでも、響き渡る太鼓と音楽、周りの人達の踊りや叫び声で、熱気がムンムンしてくる。

 

キラシャも、ケンをつつきながら、少しだけ軽く身体を動かしたりして、雰囲気に慣れようと努力してみた。

 

車いすのオパールおばさんも、元気に踊る子供達と、その姿を見守りながら、軽く身体を動かすルビーおばさんを見つめた。

 

ルビーおばさんは、夫や子供達のことを心配してか、表情は曇りがちだが、久しぶりに見るパールの踊りに、少し心が和んだ様子だ。

 

オパールおばさんが、車いすの後ろに立っているデビッドおじさんを振り返ると、デビッドおじさんもおばさんが何か話しかけようとしていることに気づき、顔のそばへ耳を寄せた。

 

それを見かけたキラシャは、デビッドおじさんとオパールおばさんが、とても仲の良いカップルに見えてしまい、

 

『大人になっても、タケルとずーっと、こんな風にできたら良かったのに…』と思った。

 

『タケルは、今いったいどこにいるんだろう?

 

会えるのなら、宇宙の果てにまで飛んで行っても、会って抱きついて

 

タケルの耳元に話しかけたい…

 

ホントに会いたかったんだよ~って…』

 

キラシャは、胸がキュンとするくらい、せつない気持ちでそう願った。

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