2014-04-05
3.秘密の空間
タケルの周囲が暗くなったと思った瞬間、
無重力の真っ暗な空間に、ポ~ンと放り出されたかと思うと、
近くで何かが爆発した。
その爆発の音の凄まじさに、タケルの耳の鼓膜が激しい痛みとともに、
パーンと破れたような感覚があり、
『もう、これでホントに耳が聞こえなくなるンだ…』と、タケルは覚悟を決めた。
その後も、どこかで爆発するたびに周囲が明るくなるが、音がまったく聞こえないので、
タケルはかえって冷静に、爆発の様子を見守ることができた。
そんなタケルに、キララが話しかけてきた。
「この爆発って、タケルが地球に帰ってから、すぐに始まるのさ。
これから起こることなンだよ!
アンタに会うのを待ってる女の子がいる。
キラシャだっけ…
アンタの友達、ケンと一緒にね。
よっぽど、アンタのことが好きなンだろうね。
でも、アノ子、ケンにも心を動かされてるみたいだよ。
ずっとそばにいると、情が移っちゃうのかね。
まるで、アンタとアタシみたいだ…』
タケルの怒りが、爆発した。
『何言ってやがンだぁ!
よく聞け! オレは、オマエがだいっっっきらいなンだ!
人を操り人形みたいに使いやがって!
キラシャはな!
オレに反抗した時だって、
オレの言い分が正しいってわかったら、
ちゃんと言うこと聞いてくれたぞォ!
オマエみたいに、何でも思い通りに人を巻き込もうなンて、
人の気持ちがわかンない奴に、何がわかるって言うンだァ!
オマエに未来が見れるって言うンなら、オレがその未来を変えてやろーじゃねェか!
オマエがどんな未来を見せたって、そんな未来なんてくそっくらえだ!』
『だからさ…
このまンまじゃ、アノ子は爆発で死んじゃうンだよ!
ケンとかって、友達と一緒にね。
アノ子を助けられるのは、アンタしかいないンだ。
…でもね、アンタひとりじゃ無理だよ。
アンタさえやる気になれば、今は宇宙ステーションに戻りたいって言ってる子らも、
一緒に地球に行って、アンタを助けてくれるかもしれない。
アノ子らは、家族と宇宙の旅してる途中で、ゲームに夢中になってさ。
親からこっぴどくしかられて、置いてけぼりにされた子もいるっていうのに、
悪党に目つけられて、ゲームでせっかく獲ったポイントだって、はぎとられてさ。
挙句の果てに、あの連中の手先になって、コソ泥に使われるしかないのさ…。
アノ子らにも、この秘密の空間で自分の未来を見せて、
こんなことになンないようにって、言い聞かせたんだけどさ。
『こんなのウソだ! オレをだまして、働かして、オマエがカネをせびるつもりだろ!』
だってさ。
けどね…。
アノ子らも、アンタと同じで、いずれアフカに行く運命持ってるらしい。
アフカは、アンタも知ってるだろうけど、今も戦争で殺し合いをやってるトコさ。
あるグループは、自分達の仲間だけじゃ人数が足りないってさ、
行き場を失った子供達をかき集めて、戦争が起こった時の兵士にしてンだ。
自分達のテリトリーを守るためにね…。
アノ子らは、身代わりに死ンでゆくのさ。
アンタが見ているこの爆発も、そのグループの仕業だよ。
これをホッとくと、アノ子らは鞭を打たれて、寝る間も与えられずに歩かされて、
戦争に駆り出されて、戦闘の盾にされて、銃に打たれて死んでゆくンだ。
アノ子らにも、あいつらのやり口を何度も見せてやったよ。
今まで犠牲になった子らが、どんな目に遭ったかってね…。
例えば、こんな風に…」
キララは、タケルにアフカの子供達が、大人に銃で脅され、暴行され、殺され、穴に次々に葬られるというシーンを3Dホログラムで見せた。
タケルは、女の子達が泣き叫ぶ中、次々に犯されては殺されるという、目を覆いたくなるような映像が流れるのを、歯を食いしばって、見つめた。
キララは、そんなタケルを見ながら話をつづけた。
「アンタは、平気かい…?
アノ子らは、ビビッて目をそむけるし、そんなはずがないって、反発してたけど…。
何しろ、戦争してないエリアで育った子ばっかりだからね…。
アタシが宇宙ステーションで起きる事故を予知して、それがホントに起きたからね。
アタシの言うこと、少しずつ聞いてくれるようになったンだよ…。
それにさ。
悪党連中の言いなりに、人の部屋に入って盗ンだものとか、
人のMフォンで買い物したものを、転売して金にするンだ。
たくさん稼いだって、全部あの悪党達に取り上げられるンだよ。
そのくせ失敗したら、ぶん殴られるしね…。
あんまりひどいことされるから、警察に届けようって、手もあったけどさ。
自分らもその手先として働いてたからね。
自分のやったことが警察にバレたら、捕まるしかないだろ。
何人もいたよ。奴らに連れて行かれて、帰ってこなかった子がね。
今残ってる子らも、あくる日にはいなくなってたかもね。
だからさ。地球に帰って、生きれるトコ見つけてやろうと思ったのさ。
…タケル。アンタはどう思う?』
『オレの知ったこっちゃないさ。
それに、本物の戦争してるトコだぞ!
そンなトコへ行く方が、よっぽど危ないじゃないか!
アイツ等だって、コレ見せて喜ンでるお前から逃げれた方が、よっぽど幸せだよ。
何だよ。人の運命がどうのこうのって…。
オマエこそ、自分の運命を変えりゃいいンじゃないか!
オレはゴメンだぞ!
アイツらはあの宇宙ステーションに戻って、家族に会えばいいンだ。
何だったら、オレもさがしてやるよ!
その方が、幸せだよ!
オレは、まだ裁判も終わってないンだ。宇宙ステーションに帰らないとな。
地球へ行くのは、それからだ! 』
キララの『それでいいのか? 』という言葉が聞こえると、
いつの間にかタケルの周りが明るくなり、
元の宇宙船に戻っていた。
タケルの周りにいた男の子達は、みなタケルを見ていた。
「どうだった? 秘密の空間は…」
「怖かった? ウェンディは、時々オレら驚かして、おもしろがってンだ」
「ウェンディといたら、悪い奴から殴られたら、すぐ隠してもらえるし、
おいしいものも食べれるし、ゲームしてて楽しいけど…
怒られるたびに、あの空間見せられるンだ…」
「自分がこうなるって言われてもな。
まだ、子供なのに、銃持って戦わされるなンてな…」
「アフカじゃ、子供も武器持って戦わないと殺されちゃうンだ。
相手が怖い奴だと、ちょっとビビるよな…」
タケルは、てっきりあの爆音で耳が聞こえなくなったと思っていたので、少年達の声が普通に聞こえるのが不思議に思えた。
「別に。映画やゲームの方が、もっと怖い格好して、派手に血の出るシーンやってるさ。
オマエら、ナンであンなもの見せる、悪魔みたいなウェンディについてきたンだ? 」
タケルは、今までずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。