2005-1-16
7.ルール
MFiエリアのルールについて、もう少し補足しておきたい。
MFiエリアにおいては、精子と卵子を結合させることで、人類の遺伝子を継承してゆく。
この両性の保護をエリアの基本ルールに定めている。
今も、男女の性の違いが、いろんな場面でストレスに感じる人も多いが、未来でも、男性と女性のカップルだけが認められているわけではない。
いろんな事情で2人の子供が欲しくても、それをかなえることができないカップルも多い。
そのため、人工子宮バースが社会的に認められるようになり、希望者にはバースを使って子供を出産することが可能になった。
ドームの管理局に申請し、許可を受けると、遺伝子を2人で選択し、医師の指導に従って、バースを使用する。
バースは人工の卵巣で、受精した卵を注入すると、子供がその中ですくすくと育って行く。
ドームの人員が無計画に増加してしまうことを防ぐため、先進エリアでは、このルールが採用され、推奨されていた。
ところが、このルールは大流星群到来の混乱によって、無効状態に陥り、バースを使わない女性の出産が相次いだ。
キラシャもそうして生まれた女の子なのだ。
バースを使って生まれたレベルAの子供より、管理がしにくいというレベルDの評価で、データバンクに記録されている。
人口管理は、どこのエリアにとっても、重要な政策課題だ。
若い女性には、毎月生理がある。好きになった人との愛の結晶として、子供を授かりたいと願う女性には、ホスピタルで医師の指導プログラムに従って、子供を産むことも可能だ。
ただ、隕石衝突による社会の混乱で生まれた子供達への、増加する教育費が財政を圧迫し、出産に関するルールは年を追うごとに、厳しくなっていた。
人類最大の危機に、人々に生きてゆくための協力を求め、困難に立ち向かう勇気を促した、コズミック防衛軍・臨時最高指揮官のエリック・マグナー。
しかし、彼は新たに選出されたコズミック・ユニオンの議長によって、エリアの治安維持の要請を軽視し、ドームの破壊活動を押さえなかったため、多大な損害をもたらしたと訴えられた。
そして、ユニオン警察によって拘束、裁判によって名誉を剥奪されたばかりか、地球から遠い所で刑務に服しているとか…。
時々、エリアのあちこちで話題に取り上げられることはあっても、彼がどこでどう生きているのか、もう死んでしまっているのか、知る由もない。
さて、この物語の未来の人々は、決められたルールのもとで仕事を分担し、与えられた任務を果たすと、TIM(ティム)という単位でお金を受け取る。
これは、どのエリアにも流通しているマネー単位だ。
毎日、働いた内容に応じた額のTIMが口座に振り込まれ、それから購入代金、光熱費、家賃、食事代、各種保険や税金などが引き落とされる。
ドームの住民は、毎日Mフォンを見て、TIMの残高と、今後の収入のシミュレーションを確認しながら、旅行・デート・趣味・買い物等のプランを立てている。
未来でも、ネットのお店のサイトやアプリで、ポイントや**PAYは使えるが、ある日いきなり使えなくなったり、残高が消えたりという事故・事件が起きやすい。
ポイントや**PAYをうまく使いこなす人達も多いが、どのエリアでも使えて、セキュリティが保障されているTIMに換算した方が安全なので、それが主流になっている。
ドームの維持に必要なものは、生活管理局が監視していて、ドームに運ばれてくる新鮮な空気、水やエネルギー、必要な物資の供給などを一手に引き受けている。
ドーム内のクリーニング、排水溝・空気溝・ゴミ処理の管理まで、多くの住民が生活管理局の補助員として、その仕事の一端を担う。
エリアの住民の秩序や、安全を守るために、常に監視を続けるエリア警備隊員は、パトロール隊員と呼ばれている。
危険物の扱いや、凶悪な事件には、主にロボットやマシン人間が担当。危険の予防として、人間が身を守るためのスポーツや武術などの指導も行い、施設のパトロールをする。
カッコいい制服を身につけたパトロール隊員は、スクールやチルドレンズ・ハウスの中も、定期的に交代で移動する。
彼らは、ドーム内をくまなくパトロールして、治安の維持やルール違反をチェックしているのだ。
ゆるキャラや人気キャラクターのロボットも、パトロールのために通路を移動している。
ロボットは、ドーム内の様子を撮影しながら、事件・事故が近くで起きたと認識すると、第一報を発するのが仕事だ。
普段は、子供達のアイドルとして、人が集まる場所で得意技を見せ、子供と一緒に映した写メールを送ったり、手を取り合ってダンスを楽しんだりしている。
大人は笑うかもしれないが、子供にとっては、自分がその日にどんなロボットと出会って何をしたかが、チルドレンズ・ハウスでの、自分の格付けに関わる重大な問題なのだ。
先進エリアでは、人間がマシン化する技術も発達しているし、エイリアンと共存しているエリアもあるが、このエリアでは、“人間”をもっとも尊重している。
ロボットも身体がマシン化した人間も、ドームの生活には欠かせない存在なのだが、マシンやエイリアンは、人間より地位の低いものとして、システムが成り立っている。
しかし、尊重すべき“人間”同士のイジメや犯罪は、なくならない。
だから、裁判が欠かせない。
MFiエリアの住民も、裁判の裁判員として、参加することが義務づけられている。
裁判員は管理局から任意に選出されるが、未来の裁判では、事件に直接関わる人以外は、裁判の行われる場所に拘束されることはない。
裁判員は、裁判所が指定したブースで、Mフォンで裁判の進行を確認しながら、裁判員同士が、顔を見せずに意見交換できる。
自分の意見は、求められた時間までに、担当の裁判官へMフォンで送信すれば良いのだ。
ただし、裁判に関する情報が漏れることを防ぐため、裁判中の裁判に関する投稿などは、禁止している。これに違反すると、重い罰則が与えられる。
裁判員になった人は、その裁判で提供された資料をすべて確認し、それについての考えを裁判官に送信しなくてはならない。
また、慎重に筋の通った意見を送って、有罪か無罪かを判定し、その裁判の責任を果たさなければ、ルールに違反したときに、罰則のレベルが上がることもある。
ルールや判決の内容に異議があれば、ルール・ラボに対して、意見をメールで送信することは可能だ。
また、管理局側のルール違反が発生すると、ドームの住民から厳しい意見が集中することもあるので、そのための裁判は、厳重な監視の下で行われている。
それから、ドームに住む人達の権利として、スクールを卒業すると、政治活動が認められ、投票権も与えられる。
ドームの代表者や議会委員が、どういう仕事をしているかを学ぶ、特別な授業も用意されている。
スクールでドームがどのように管理されているとか、そのための運営方法などの知識や、考え方を学んでいるので、政治家を目指す若者も多いし、投票に対する関心は割と高いようだ。
ドームの運営は、ドームで働いている住民や企業からの税金や寄付金と、多くはドーム債の発行によってまかなわれている。
税金や寄付金は、それを支払った人々への還元が優先される。
だから、ドーム債をいくら発行できるかというのが、多くの財政問題を解決するための最重要課題だ。
ただし、ドーム債の発行限度を引き上げるには、エリア内外の格付けの評価が高くなければならない。
そうでないと、資本家や、個人投資家が購入してくれないからだ。
もっとも、ドーム債を購入するのは金融機関が多く、その資金を提供しているのがドームを運営するエリア政府。つまり、ドーム債=エリア政府の借金なのだ。
災害や疫病などの発生による経済の停滞を防ぐため、多くのドーム債を発行せざるを得ない場合もある。
各エリアで年々積み重なるドーム債の膨大な発行量が、未来社会への過大な負担となっていた。
エリア政府の借金は増える一方なので、借金を膨大に抱えた政府が、それ以上のドーム債の発行ができないと、そのエリアのドームの住民は生活を維持できなくなってしまう。
そこで、コズミック・ユニオンの経済安定機関にエリアの代表が集まり、話し合いでTIMを新たに発行し、ドーム債を回収する目的で、各エリアに配分される。
その配分の指標となるのも、エリアの格付け評価だ。
コズミック・ユニオンの経済安定機関では、すべてのMフォンからの情報をビッグ・データとして解析が行われ、評価の格付けを日々行っている。
例えば、他のエリアとの間の取引の量、技術のレベル、取引内容の広域的な重要度、ドーム内外からの住みやすさの評価。
それに、エコレベルの高さ、安全度などの評価がポイントとなって、その結果が公開される。この格付けが低いと、そのエリアの政府は貴重な資金を得られない。
そこで格付けの低いエリアの住民達は、新しい政府を担う人達を選挙で選び、新しいライフスタイルを取り入れることで、格付けアップを目指すことになる。
ただし、新たに発行されたTIMは、経済安定機関がその使い道を監視しているので、政府内部の裏金として次の選挙のために流用しようとしても、本来の目的に反することに使われると、すぐに没収されてしまう。
日々、TIMマネーの流れは、コズミック・ユニオンのセキュリティ管理部門が、すべて把握し、コントロールされている。
この経済安定機関では、エリア同士の債権債務問題による、トラブルを回避するための会議も行われている。
例えば、債務超過のエリアにおいては、債権エリアに返済できるよう、世界で認められつつある新しい技術に貢献するような、資源や施設が確保できるかを調査する。
該当するものがあれば、その技術が発展するための、補助的な技術を他のエリアからも提供できるよう、会議で話し合うのだ。
未来の技術は、日々進歩している。
会議で行われる専門的な技術の説明に対応するため、各エリアから、会議に必要な技術に熟知した科学者の参加を求めている。
彼らは、経済的な知識も身に付けた上で、一つのエリアの利害だけにとらわれず、より地球や宇宙に貢献できる技術を開発するための努力を惜しまない、尊敬すべき人達だ。
自分や自分のエリアの利益だけを考えると、技術の詳細は秘密にした方が、格段に儲かる。
しかし、この会議に出席する彼らは、まず技術の平和的利用を優先して、戦争に使われることのないように、という配慮から参加している。
例え、その技術がどこかで漏れることによって、戦争に利用されたとしても、それを上回る技術を習得したコズミック軍が駆使して、応戦できるシステムを目指している。
これが、コズミック・ユニオンの経済安定機関が果たす、役割でもある。
未来の新しい技術であるMフォンやボックスも、この経済安定機関での各エリア間の技術提携から始まったものだ。
ドーム内は、Mフォンの操作とボックスであっという間に移動できるが、この技術も完全ではない。
転送の危険を防ぐために、他のドームへの移動はコメットという、未来の超高速リニアカーを利用する。
この乗り物も、あっという間に次のステーションにたどり着く。
他のドームへと移動する人々が、コメットに乗るために大勢集まるステーション街。
街の通りでは、華やかな衣装をまとったファッションモデルが、さわやかな香りとともに、歩きながら新しいライフスタイルを提案する。
そんな幻想的な3Dホログラムが、街の中を移動しながら、人々の目を楽しませ、憩いの場を提供していた。
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