2021-12-07 16:10:20 | 未来記
3.パールの心配
オパールおばさんは、通信がつながるとわかって、彼女の経営するドリンク会社が、大地震で被害がどうなっているのか、電話で確認していた。
ひどい揺れで、栄養ドリンクを生産する機械の被害は大きかったようだが、社員の人達は無事で、忙しく働いているようだ。
ただ、小さい子供達は、生まれて初めての大地震だったので、ショックで食べ物を受け付けない子もいるという。
栄養ドリンクを無償で配布したいと思っているオパールおばさん。でも、MFiエリアのドームにある工場は、ほとんどが被害を受けて、機械が止まっていた。
他のエリアにある工場に連絡をして、急いでMFiエリアの被害を受けたドームに栄養ドリンクを送るように伝えていた。
エリアにより、いろんな言葉を使い分けて話すおばさんを、子供達は尊敬の目で見守った。
連絡に一息ついたオパールおばさんに、パールはドリンクを渡しながら、自分にも何か手伝えることはないかと尋ねた。
「そうね。大流星群が飛来した時も、ドリンクを無償で配っていたの。社員とその家族にも手伝ってもらって配ったけど、それでも手が足りなかったわね。
もし、あなたが手伝ってくれるのなら、一緒に避難場所へ行って、怖くて震えている子に、あなたの笑顔で安心させて、ドリンクを渡してあげて欲しいわ…」
それを聞いたパールに、少し笑顔が戻った。
マイクもそんなパールを見て、やる気が出たようだ。
「ボクモ イッショニ ドリンク クバルヨ!
トモダチ エガオニ スル
ボクモ デキル!! 」
オパールおばさんも、パールやマイクがMFiエリアに行くことに前向きになってくれたので、少しホッとしたようだ。
ただ、パールにはもっと心配なことがあった。
パールには、行方不明の兄が2人いる。アフカに帰って来たいと強く願えたのも、この2人にどうしても会いたいという気持ちがあったから。
食料が不足すると、危険だとわかっていても、率先して森へ出かけ、木の実を取り、動物を捕まえてきてくれた兄達。
パールがパパと森へ行ったのも、兄達と同じことをして、みんなのために何かしたかったから。きっと、兄達もこんな気持ちで、食べ物を探していたのだろう。
森に行けば、ひょっとしたら、兄達に会えるかも。そんな望みも少しはあった。
でも、パールに起こったことは、他のグループからの容赦ない攻撃だった。
パールは、飛んできた炎に包まれて、パパに抱きかかえられ、ゴロゴロと一緒に転がった時のことを思い出し、ブルブル震えた。
ママがパールを心配して、声をかけた。
「何か、怖いことを思い出したの?
心配なことがあれば、話してくれない? 」
パールは首を横に振って、ママに向かって言った。
「ワタシノ コト イイノ。
オニイサンタチ マダ カエッテ コナイ。
ソレガ シンパイ… 」
「そう…
ママも、それが一番心配。
戦争が終わっても、捕虜になってしまったら…
遠い所へ連れて行かれて、戦いの盾にされる子もいるとか…。
…ごめんなさいね。
でも、あの子達のことを考えると、
ママは悲しくなってしまって… 」
パールのママの目から、ポロポロと涙がこぼれた。
「ママノ コトモ シンパイ シテルヨ!
オニイサンタチ ミツカッタラ ミンナデ MFiエリア イコウヨ
ママノ イタトコロ ダカラ ダイジョウブ! 」
「でも…。
見つかるか、わからないし、もう亡くなっているのかもしれない… 」
それを聞いて、思わずキラシャは叫んだ。
「ルビーおばさん!
ダメですよ! あきらめちゃ!
パールだって、パパやママのこと信じて、がんばってここまで来たンです!
待つ方があきらめちゃ、帰って来たくても、帰って来れないと思います! 」
ママはしばらく考えて、言った。
「そうね。
ありがとう、キラシャ。
パール。ママもここでがんばって、あの子達を信じて待つことにするわ。
パールは、オパールおばさんを手伝ってあげてね 」
パールは、ウンとしっかりうなずいた。
「お兄さん達が見つかったら、すぐに知らせるわ。
一日も早く、あなた達を会わせてあげたい… 」
ようやく、ホテルから伝達があり、集会所にいた人達は、別のホテルへ行くことになった。
オパールおばさんが、デビッドおじさんに連絡を取って、そのホテルへ移動した。
デビッドおじさんからいつ連絡があっても、すぐ動けるように、皆同じ部屋で待っていた。
その間に、パールのママが、なぜアフカ・エリアにやってきたのか、パパとママのなれそめの話などで盛り上がった。
パールのママは、MFiエリアの建設会社が造ったドームで必要な、行政の業務についてのレクチャーをするという任務で、アフカ・エリアへやって来た。
しかし、アフカ・エリアには、MFiエリアにあるようなルールは通用しない。
権力を持ったグループによって、ドームが支配され、弱いグループはドームから追い出されるか、留まるものは支配下に置かれ、奴隷のように働かされる。
ドーム内を清潔に保とうとしても、権力側の人達はルールを守らない。
しかも、ドーム内の汚れや悪臭が蔓延すると、その原因は弱いグループのせいだと言わんばかりに、ムチを振るって掃除をさせるのだ。
パールのママは、そんな現場で自分の任務を全うできる自信を失い、弱いグループを人道的に支えるための活動に参加し、管理局を退職した。
そんな時、ママはさまざまなグループの日常の風景を撮影するパパに出会った。
2人は仲良くなると、ドームの外に広がる自然の中で、動物の家族の風景も撮り始めた。
自然の中では、危険は伴うけれど、人間は自由でいられる。でも、人間がグループで生活すると、そこに差別や一方的な排斥が始まってしまう。
パールのパパもママも、理由もわからず、兵士に武器を突き付けられたり、殴られたりしたことがあるという。
言いたいことをいうと、罰せられる。グループの縛りで、思いもしない所へと押しやられる。デモに参加し、反抗的な態度を取るだけで殴られ、殺されてしまう人もいたとも。
そんな緊張した日々の中でも、パールのパパは、自然の動物や人間の家族の愛情を感じられる映像を撮るカメラマンとして、多くの作品を残していた。
キラシャ達は知らなかったが、多くの人が集まった会場で流された映像の中にも、パールのパパが撮った映像が流れていた。
そんなパパの活動と、それを支えるママの深い愛情があって、何度戦争が繰り返されても、ドームの居場所を追い出されても、パール達は無事に育ってきたのだ。
アフカ・エリアに来て、MFiエリアにいたら知らなかったようなことも聞くことができて、それでも人って強く生きていけるンだと思えた、キラシャにとって貴重な時間だった。
アフカ・エリアの短い旅で、何度も危険な目にあったキラシャ。
だけど、好きだったタケルに会えて、もう一度会いたいと言われ、何となく未来に希望が持てる気がした。
あれが夢でなかったら…。
パールも、一緒にMFiエリアに帰ってくれるンだ。がんばって、守ってあげないとね。
キラシャは、これからのことを不安に思うより、自分がパールや困っている人達のために、何かできることを精一杯しないといけないンだと思うことにした。