未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第21章 同じ時を生きる君に ⑯

2021-01-30 16:41:23 | 未来記

2021-09-23 22:49:00 | 未来記

 

16.タケルの迷い

 

タケルは、無許可で宇宙から転送したルール違反には問われるが、他の少年のような犯罪に手を染めるようなことはしていなかった。

 

宇宙ステーションでは、裁判所に被害者として出廷していたのに、ひょんなことから、キララに巻き込まれて、ここに来ただけなのだ。

 

防衛軍の上官が、口をはっきりと動かしてゆっくり話すので、タケルは声が聞き取れなくても、だいたいどんなことを言っているのかはわかった。

 

武道の技や相手の仕留め方など、どこで習得したのかと、根掘り葉掘り聞かれたが、タケルはネットで見て、真似をしていただけと答えた。

 

耳の聞こえないタケルは、火星に行くと決まってから、何か危ないことに遭遇した時に、自分の身は自分で守れるよう、普段から襲ってくる相手を倒す訓練をしていた。

 

火星へ行く宇宙船の中では、それが過剰反応になって、襲われてもいないのに、相手を倒すことで自分を守りたいという本能が働き、乱闘騒ぎになってしまった。

 

『このままじゃ、ちょっとしたことで身体が反応して、暴力ふるってしまうかも…

 

MFiエリアに戻ったとしても、前みたいな生活はできそうにないなぁ… 』

 

タケルは、上官の話を口の動きで理解しながら、自分はこれからどうしたらいいのか、真剣に悩んだ。

 

キララは、あれから一度も姿を現していない。少年達がこれからどうするのか、どこかで見ているのだろう。

 

少年達の処遇は、次の日に決まるようだ。

 

タケルは、少年達とともに、手錠をはめられたまま、倉庫のような所に移され、足にも錠をはめられ、寝袋を敷いて、そこでひと晩を過ごすことになった。

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第21章 同じ時を生きる君に ⑰

2021-01-28 15:16:20 | 未来記

2021-09-28 22:49:00 | 未来記

 

17.夢での出会い

 

 

『キラシャ…

 

キラシャ…

 

オレだよ! タケルだよ… 』

 

『…えっ? タケル…?

 

ナンでココにいるの…? 』

 

空中に、ボンヤリとタケルの顔だけが見えた。

 

『オマエに会いたくて…

 

キララが…、こんな風だけど、会わせてくれンだ…

 

あっ、キララって…その…

 

オレらと同じ人間じゃないンだ。

 

キラシャと似てるンだけど… 』

 

 

「タケル… 」

 

キラシャは、思わず声を出しかけたが、周りの子が寝ていることに気づいて、心の中でタケルに話しかけた。

 

『もういいよ!

 

あたし、タケルのこと忘れることにしたンだ。

 

タケルがどんな子と、仲良くなっても気にしない!

 

ケンの方が、本気であたしのこと思って、そばにいて助けてくれたンだ。

 

タケルより、ずっと強い気持ちでね… 』

 

 

『そうか。キラシャ、ごめんな!

 

オレのせいで、オマエやケンまで危険なことに巻き込むなんて…

 

ヒロのヤツが、大丈夫だって、そそのかすからさ…

 

オレって、やっぱりバカだな…

 

もう、オレのことキライだよな… 』

 

『ホントに、ダイッキライだよ!

 

ヒロが、タケルが戦ってるとこ見せたいって、言ってたって!

 

でも、タケルの戦ってる姿なンて、ちっともあたしには見えなかった…

 

 

ケンは、アフカが危険なトコだってわかってても、一緒に来てくれたンだよ!

ここに来るまで、危険なこと何度もあったけど、あたしを引っ張ってくれた。 

 

タケルのことも、必死であたしに見せようとしてくれたンだよ!

 

あたしが、タケルのこと好きだから…

 

ケンがあたしのこと好きでも…

 

自分が損だってわかってても、見せようとしてくれたンだよ!

 

わかる? ケンの気持ち

 

タケルにあたしの気持ち、わかる…? 』

 

『…本当に、ごめんよ…

 

もう、キラシャの邪魔はしないよ…

 

たぶん、もうずっと、会えない…

 

だけど、これだけは言っておきたかったンだ…

 

キラシャのこと、誰よりも好きだったよ…

 

 

ただね、キラシャ。

 

宇宙で出会ったキララのおかげで、耳が聞こえなくても生きてゆける気がしたンだ。

 

アイツのそばでないと、オレは…

 

キラシャのそばにいたら、いい迷惑だろ? 耳の聞こえないヤツなンて…

 

キラシャには、ケンがいる。

 

あいつなら、キラシャのことまかしておけるよ!

 

だから、キラシャはオレのこと忘れていいよ!

 

でも…。

 

いつか会える日が来たら、イヤがらずに会って欲しい…

 

キラシャ、ずっと元気でいてくれよな… 』

 

そう言い終わると、空中のタケルの顔が、スーッと消えて行った。

 

キラシャは、しばらくそのあとをボーっと見つめた。

 

ナンでなの? タケル…

 

もっと言いたいことがあったのに…

 

ナンで勝手に消えちゃうの?

 

自分だけとっととしゃべってさ、もう…

 

そうなンだ。きっとこれも夢なンだ…

 

と…、キラシャは割り切るしかなかった。

 

キラシャは寝返りを打って、スヤスヤと眠っているパールの肩に頭を押し付けた。

 

『相手の気持ちもわからないヤツなンかより、

 

気持ちのわかる子の方がいいよねっ、パール!

 

ホントに大っっっきらいだよ。

 

タケルなンて…

 

もう絶対、会ってやンないンだから… 』

 

キラシャとパールを真ん中にして、2人を守るために両端に寝ていたマイクとケン。

 

キラシャのそばで寝ていたケンは、キラシャが黙って肩を震わせながら泣いているのに気がついた。

 

ケンは、キラシャの背中をさすって、気持ちを楽にさせてやりたいと思ったが、負けん気なキラシャは、かえってイヤがるかも…とあきらめた。

 

『キラシャ…。オマエがだれを選ぼうと、オレ、全力でオマエを守るからな…』

 

ケンは、そう決心した。

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第22章 新しい試練に向かって ①

2021-01-26 19:57:11 | 未来記

2021-10-07 21:34:47 | 未来記

1.パパからのメール

 

地下のドームは、どこも薄暗く時間がわかりにくいが、もう子供達を起こしても良いと判断して、デビッドおじさんが声をかけてきた。

 

「キラシャ…、ケン…。起きなさい。君達の住むドームの近くで、大地震が起きたようだ。

 

君達の家族や保護者に、連絡がつくといいのだが… 」

 

いろんなことが重なって、疲れがマックスにたまり、銃声や爆発音で何度も目が覚めたこともあって、子供達はボーっとした顔のまま、デビッドおじさんを見た。

 

「キラシャ、大丈夫か? 寝られなくて、目がはれてしまったようだね」

 

キラシャは、タケルとの夢の出会いの後、しばらく涙が止まらなかったので、おじさんに見えないように、恥ずかしそうに枕にしていたタオルで顔を隠した。

 

キラシャとケンは、近くの火山の噴火やプレートの移動で、小さい地震は何度も経験しているが、実際の大地震に出くわしたことはない。

 

デビッドおじさんに、どう答えて良いのかもわからず、ケンがMフォンでニュースを見ると、確かにMFiエリアの大地震のことが出ていた。

 

震源も、自分達のいるドームに近い所だ。

 

キラシャも、メールを確認してみたが、パパやママからの地震が起こったというメールはない。

 

大きな地震が起きた後は、しばらく通信できないと授業で学んだことを思い出した。

 

『どうしよう。パパもママも無事かな…? 』

 

ケンは、ヒロに連絡しようとしたらしいが、つながらないようだ。

 

ただ、ケンはムッとした顔をして、ヒロから来ていたメールを読みながら言った。

 

「ヒロは、Mフォンの不正使用で、警察から取り調べを受けることになったって。

 

まだ、地震が起きる前だったンだろうな。

 

その後は、わからない。

 

ヒロがもっとさ、転送先で何が起こるのか、説明してくれりゃさ。

 

キラシャをあんな目に遭わせずに済んだのに…

 

オレ達のことをちっとも考えずに、勝手に転送するからだよ!

 

まったく、ひどい奴だ! 」

 

キラシャも、ヒロに対しては、ケンと同じような気持ちでいる。

 

だけど、タケルもあの危険なトコで、武器を持った怖いおじさん達と戦おうとしていた。

 

だから、ヒロが黙っていたことは、何となくわかる気もした。

 

ひょっとして、夜中の出来事が夢でなかったら、タケルはまだこの近くにいるかも…。

 

タケルは、MFiエリアに帰るとは言わなかった。

 

これから、どこで、何をして生きてゆくのだろう?

 

…ヒロなら、知っているのかもしれない。

 

その時、キラシャのメールに着信音が鳴った。パパからの伝言メールだ。

 

キラシャは、パパが送って来た声を、デビッドおじさんにも聞こえるように音量を上げた。

 

≪キラシャ、そっちはどうだ?

 

おなかをこわしてないか?

 

今朝、こっちで大地震が起きた。

 

電話がつながらないから、伝言メールにした。

 

ネットがつながれば届くから、届いたら知らせてくれ。

 

今、パパは動物園だ。ママも大丈夫。

 

でも、小動物が逃げてしまった。

 

飼育係みんなで探してるが、なかなか見つからない。

 

キラシャと遊んでたクーやポンタ、他にもたくさんいる。

 

おまえが声をかければ、戻って来るかもしれない。

 

頼むから、一日も早く帰って来てほしい。

 

パパもママも連絡を待ってるよ≫

 

「わかった。おじさんは、MFiエリアへ向かうレスキュー隊がいつ、どこから出動するか、防衛軍の知人に聞いてくる。

 

 ひょっとしたら、その便に入れてもらえるかもしれない。

 

ホテルから別の場所へ移動するよう言われたら、おじさんもそこへ行くからね 」

 

デビッドおじさんは、そう言って、その場を離れた。

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第22章 新しい試練に向かって ②

2021-01-24 14:12:02 | 未来記

2021-11-21 13:38:43 | 未来記

2.MFiエリアの経緯(いきさつ)

 

<このお話はフィクションで、実際の未来ではなく、私のイメージで創作した未来です。>

 

デビッドおじさんが出て行った後も、ホテルから何の連絡もない。これからどうなるのだろうと、子供達は不安な時を過ごしていた。

 

キラシャはパパやママと電話が通じて少しホッとしたが、被害に遭った人や動物を助けるのに忙しいのか、キラシャの元気な声を聞いただけで、すぐに電話を切ってしまった。

 

パールは、自分がこれからどうすべきか、まだ迷っているようだ。キラシャもケンもマイクも、パールの気持ちを知っているだけに、無理強いはできない。

 

それに、もしパールがMFiエリアのドームに戻っても、マギィやジョディのようにイジメを次々に企てる子達がいる。自分達にパールを守ってあげられるのか、不安もあった。

 

それに、MFiエリアは、大地震でどんなことになっているのかわからない。マイクも、自分がMFiエリアに行って良いのか、迷っているようだ。

 

 

MFiエリアは、以前は細長い島と、北や南に大小の島が連なった国だった。

 

地球のプレートは、日々、動いている。MFiエリアの島々も、元々は大陸の一部だったが、大陸の端が割れて、遠く離れた位置にズレてきたのだ。

 

それに、MFiエリアは、平和的な外交を貫いているが、他のエリアからの軍事的な圧力がないわけではない。

 

近くの海域に向かって、威嚇のための爆撃を行うエリアもある。

 

MFiエリアが設立する以前に、大国が隣の国を突然砲撃し始め、戦争が始まった。

 

国民の自由を認める国と、国民を国家が支配する国との間で、戦争が2国間に留まらず、多くの国へと戦いの場が広がってしまった。

 

MFiエリアの元になった、小さな島の国にも…

 

世界を巻き込んだ戦争で、いろんな兵器が使われ、街が破壊され、危険な区域には、長いこと誰も近づくことができなかった。

 

<一刻も早く戦争が終わることで、未来が皆さんの望む平和な世界へと変わることを祈っています>

  

ようやく戦争状態が終結すると、多くの国が、新しい行政と政府の下で、破壊されてしまった街をすべて更地にし、戦争の砲撃や災害にも耐えられる、ドームを建設し始めた。

 

その後、国からエリアに継承する過程で、MFiエリアの政府は、<戦争に対して中立の立場を貫く>というルールを制定した。

 

当時の国連に、大国の始めた戦争を止める手立てがなかった反省から、あらゆるエリアの戦争を武力で止めさせる、防衛軍を有したコズミック・ユニオンが設立された。

 

地球だけではなく、宇宙に向けて、人類が生きる場所を求めるために。

 

最初は参加を見送るエリアも多かったが、広大なエリアがその主導権を競って宇宙開発を目指し始めると、他のエリアも後れを取らないように、次々に加盟を表明した。

 

その後もエリアの境界線を巡って、領地を奪い合う戦争が絶えず、防衛軍が参戦することで、安全の保障を訴えるエリアが増えて行った。

 

コズミック・ユニオンは、例え常任理事エリアでも、拒否権はなく、処罰の対象となるという法律を制定した。

 

例え、他のエリアに対して、ジェノサイド(民族への大量虐殺)を行うことで、一方的に勝利宣言をしても、多くのエリアがそれを認めなければ、無効とする。

 

さらに、ジェノサイドを行ったエリアの首長は、どこにいようと、ユニオンのルールに違反したことで逮捕され、裁判にかけられる。

 

これによって、首長が拘束された後、再び同じエリアの新しい首長が、再び戦争を繰り返すと、首長が戦争を起こすたびに逮捕の恐れがあることを示唆し、それ以上の戦争を防ぐという目的がある。

 

これは、過去の止められなかった戦争を終わらせるために、多くのエリアによって採択された、すべてのユニオンの加盟エリアが守らなくてはならない法律を遵守するためだ。

 

その一方で、戦争で街を破壊されたエリアには、ユニオン銀行を通じて、戦争で破壊されない強固なドーム建設のために融資が行われた。

 

火山の噴火が多く、地震多発地帯のMFiエリアは、災害が起こるたびに、島が変化してゆくため、海の中でも生活を営めるよう、海洋ドームの建設に対して、融資が行われた。

 

長年海の研究をしてきた科学者達を中心に、様々な施設が設置され、さまざまな海の生物との共存を体感できる海洋ドームと海洋牧場が誕生した。

 

MFiエリアは、世界的な海洋の観光ドームとして、その存在意義を他のエリアから認められ、多くの観光客を受け入れるようになった。

 

MFiエリアには、そういった過去の経緯(いきさつ)がある。

 

MFiエリアは、地震によって、将来すべての島が海底へ沈むというシミュレーションを公表する科学者もいる。

 

他のエリアに移住する人も後を絶たないが、島に残る人達が、地下ドームで安全に過ごせるように、ドームの数を増やし、その領域を広げている。

 

MFiエリアの建設する地下ドームは、他のエリアからも一定の評価を受けていて、注文に応じて、そのエリアに合った仕様にして、多くのエリアに安全な避難所を提供した。

 

ドームから出たゴミだけでなく、古くから海洋に浮かぶゴミや、地球の周りに漂う宇宙ゴミを回収して、その処理をする企業も日々活動している。

 

ゴミ処理したものを加工して、ドームの壁や設備の原料として再利用しているので、SDGs的にも評価されるだろう。

 

戦争で破壊された場所にも、MFiエリアの企業が入って、建物の残骸を片付け、ドームの土台を強固にする工事を行った。

 

これらの企業活動が、MFiエリアの経済を支えていた。

 

アフカ・エリアを始め、多くのエリアの地下ドームも、MFiエリアの建設会社が請け負い、大流星群がやって来る前に建設され、多くの人達を救ったのだ。

 

ただ、今回の大地震でどのくらい被害があったのかはまだわからないが、キラシャのパパは地中ドームへは避難していないようだ。

 

パパは自分のことより、動物園の動物を助けることに必死なのだ。

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第22章 新しい試練に向かって ③

2021-01-13 12:54:09 | 未来記

2021-12-07 16:10:20 | 未来記

3.パールの心配

 

オパールおばさんは、通信がつながるとわかって、彼女の経営するドリンク会社が、大地震で被害がどうなっているのか、電話で確認していた。

 

ひどい揺れで、栄養ドリンクを生産する機械の被害は大きかったようだが、社員の人達は無事で、忙しく働いているようだ。

 

ただ、小さい子供達は、生まれて初めての大地震だったので、ショックで食べ物を受け付けない子もいるという。

 

栄養ドリンクを無償で配布したいと思っているオパールおばさん。でも、MFiエリアのドームにある工場は、ほとんどが被害を受けて、機械が止まっていた。

 

他のエリアにある工場に連絡をして、急いでMFiエリアの被害を受けたドームに栄養ドリンクを送るように伝えていた。

 

エリアにより、いろんな言葉を使い分けて話すおばさんを、子供達は尊敬の目で見守った。

 

連絡に一息ついたオパールおばさんに、パールはドリンクを渡しながら、自分にも何か手伝えることはないかと尋ねた。

 

「そうね。大流星群が飛来した時も、ドリンクを無償で配っていたの。社員とその家族にも手伝ってもらって配ったけど、それでも手が足りなかったわね。

 

もし、あなたが手伝ってくれるのなら、一緒に避難場所へ行って、怖くて震えている子に、あなたの笑顔で安心させて、ドリンクを渡してあげて欲しいわ…」

 

それを聞いたパールに、少し笑顔が戻った。

 

マイクもそんなパールを見て、やる気が出たようだ。

 

「ボクモ イッショニ ドリンク クバルヨ!

 

トモダチ エガオニ スル

 

ボクモ デキル!! 」

 

オパールおばさんも、パールやマイクがMFiエリアに行くことに前向きになってくれたので、少しホッとしたようだ。

 

ただ、パールにはもっと心配なことがあった。

 

パールには、行方不明の兄が2人いる。アフカに帰って来たいと強く願えたのも、この2人にどうしても会いたいという気持ちがあったから。

 

食料が不足すると、危険だとわかっていても、率先して森へ出かけ、木の実を取り、動物を捕まえてきてくれた兄達。

 

パールがパパと森へ行ったのも、兄達と同じことをして、みんなのために何かしたかったから。きっと、兄達もこんな気持ちで、食べ物を探していたのだろう。

 

森に行けば、ひょっとしたら、兄達に会えるかも。そんな望みも少しはあった。

 

でも、パールに起こったことは、他のグループからの容赦ない攻撃だった。

 

パールは、飛んできた炎に包まれて、パパに抱きかかえられ、ゴロゴロと一緒に転がった時のことを思い出し、ブルブル震えた。

 

ママがパールを心配して、声をかけた。

 

「何か、怖いことを思い出したの?

 

心配なことがあれば、話してくれない? 」

 

パールは首を横に振って、ママに向かって言った。

 

「ワタシノ コト イイノ。

 

オニイサンタチ マダ カエッテ コナイ。

 

ソレガ シンパイ… 」

 

「そう…

 

ママも、それが一番心配。

 

戦争が終わっても、捕虜になってしまったら…

 

遠い所へ連れて行かれて、戦いの盾にされる子もいるとか…。

 

…ごめんなさいね。

 

でも、あの子達のことを考えると、

 

ママは悲しくなってしまって… 」

 

パールのママの目から、ポロポロと涙がこぼれた。

 

「ママノ コトモ シンパイ シテルヨ!

 

オニイサンタチ ミツカッタラ ミンナデ MFiエリア イコウヨ

 

ママノ イタトコロ ダカラ ダイジョウブ! 」

 

「でも…。

 

見つかるか、わからないし、もう亡くなっているのかもしれない… 」

 

それを聞いて、思わずキラシャは叫んだ。

 

「ルビーおばさん! 

 

ダメですよ! あきらめちゃ!

 

パールだって、パパやママのこと信じて、がんばってここまで来たンです!

 

待つ方があきらめちゃ、帰って来たくても、帰って来れないと思います! 」

 

ママはしばらく考えて、言った。

 

「そうね。

 

ありがとう、キラシャ。

 

パール。ママもここでがんばって、あの子達を信じて待つことにするわ。

 

パールは、オパールおばさんを手伝ってあげてね 」

 

パールは、ウンとしっかりうなずいた。

 

「お兄さん達が見つかったら、すぐに知らせるわ。

 

一日も早く、あなた達を会わせてあげたい… 」

 

ようやく、ホテルから伝達があり、集会所にいた人達は、別のホテルへ行くことになった。

 

オパールおばさんが、デビッドおじさんに連絡を取って、そのホテルへ移動した。

 

デビッドおじさんからいつ連絡があっても、すぐ動けるように、皆同じ部屋で待っていた。

 

その間に、パールのママが、なぜアフカ・エリアにやってきたのか、パパとママのなれそめの話などで盛り上がった。

 

パールのママは、MFiエリアの建設会社が造ったドームで必要な、行政の業務についてのレクチャーをするという任務で、アフカ・エリアへやって来た。

 

しかし、アフカ・エリアには、MFiエリアにあるようなルールは通用しない。

 

権力を持ったグループによって、ドームが支配され、弱いグループはドームから追い出されるか、留まるものは支配下に置かれ、奴隷のように働かされる。

 

ドーム内を清潔に保とうとしても、権力側の人達はルールを守らない。

 

しかも、ドーム内の汚れや悪臭が蔓延すると、その原因は弱いグループのせいだと言わんばかりに、ムチを振るって掃除をさせるのだ。

 

パールのママは、そんな現場で自分の任務を全うできる自信を失い、弱いグループを人道的に支えるための活動に参加し、管理局を退職した。

 

そんな時、ママはさまざまなグループの日常の風景を撮影するパパに出会った。

 

2人は仲良くなると、ドームの外に広がる自然の中で、動物の家族の風景も撮り始めた。

 

自然の中では、危険は伴うけれど、人間は自由でいられる。でも、人間がグループで生活すると、そこに差別や一方的な排斥が始まってしまう。

 

パールのパパもママも、理由もわからず、兵士に武器を突き付けられたり、殴られたりしたことがあるという。

 

言いたいことをいうと、罰せられる。グループの縛りで、思いもしない所へと押しやられる。デモに参加し、反抗的な態度を取るだけで殴られ、殺されてしまう人もいたとも。

 

そんな緊張した日々の中でも、パールのパパは、自然の動物や人間の家族の愛情を感じられる映像を撮るカメラマンとして、多くの作品を残していた。

 

キラシャ達は知らなかったが、多くの人が集まった会場で流された映像の中にも、パールのパパが撮った映像が流れていた。

 

そんなパパの活動と、それを支えるママの深い愛情があって、何度戦争が繰り返されても、ドームの居場所を追い出されても、パール達は無事に育ってきたのだ。

 

アフカ・エリアに来て、MFiエリアにいたら知らなかったようなことも聞くことができて、それでも人って強く生きていけるンだと思えた、キラシャにとって貴重な時間だった。

 

アフカ・エリアの短い旅で、何度も危険な目にあったキラシャ。

 

だけど、好きだったタケルに会えて、もう一度会いたいと言われ、何となく未来に希望が持てる気がした。

 

あれが夢でなかったら…。

 

パールも、一緒にMFiエリアに帰ってくれるンだ。がんばって、守ってあげないとね。

 

キラシャは、これからのことを不安に思うより、自分がパールや困っている人達のために、何かできることを精一杯しないといけないンだと思うことにした。 

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