公開から7年近く経過していますが気になる人はご注意ください
先日、ツタヤで映画「終戦のエンペラー」を借りてきました。
最近ツタヤは旧作100円レンタルが消滅?したのか、旧作1週間で300円近い値段の店舗ばかりになってきて、300円ならamazonか何かで見た方が・・というのはおいておいて・・・
この映画「終戦のエンペラー」の概要は、教科書にも載っている有名な「昭和天皇とマッカーサー最高司令官が並んでいる写真」を撮影するに至った背景。マッカーサーの厚木飛行場上陸直後からの10日間で部下のフェローズ准将に近現代史の永遠のテーマにもなっている「昭和天皇の戦争責任の有無」を調べさせる。というもの。
マッカーサー一行を載せた輸送機が厚木飛行場に着陸。
厚木基地の周りにこんなに山があったかな?というのはおいておいて・・
有名なサングラスをかけてパイプを咥えたマッカーサーの上陸シーン
日本の戦後は大和から始まったのだ・・というのはヤマトン神話の方で
映画中でも米国政府と世論は「昭和天皇を裁判にかけ処刑」を望んでいる中で、大統領選を狙うマッカーサーは自身の米国世論の評価を気にする一方で、昭和天皇の逮捕・処刑をもしすれば日本国内が混乱しスムーズな占領政策が出来なくなることへの懸念の狭間に揺れるマッカーサーと知日派のフェローズ。
太平洋戦争は勝利者のアメリカと敗者の日本という切り口で捉えられますが、勝者のアメリカ側も本格的な本土爆撃こそなかったものの、多大な犠牲者が出ていること。ドイツのヒットラー、イタリアのムッソリーニに並び昭和天皇がファシズムの指導者として捉えられていたことを思わせます
映画中で「東京大空襲で史上最悪の火葬場と化し今でも死臭漂う廃墟化した東京」と評される廃墟ぶりと、米軍ジープの物量の豊富さが対照的。
フェローズは10日間に天皇の側近など戦中期の日本の重要人物に面会して、昭和天皇無罪の証拠を集めます。映画ではその合間にフェローズの大学生時代の恋人、日本人留学生「あや」との恋愛シーン。帰国したあやを追って日米開戦直前の日本を訪れ、更にあやの叔父との鹿島大将とのやり取りなど「恋愛パート」を通じて、フェローズが知日派であることの背景から、日本人の精神性、天皇を神と崇め奉じた当時の日本人の国民性が紹介されます。
調査の結果、物証は得られなかったものの聞き込みの証言などから、有罪とする証拠がない。昭和天皇は「シロ」である。との意見書をフェローズはマッカーサーに提出。
マッカーサーもスムーズな占領政策、対ソ陣営との攻防なども含めた上で昭和天皇無罪に理解を示すものの、決め手を得るために、昭和天皇を米国大使公邸(マッカーサー邸)に招待します。
公邸に着き昭和天皇はマッカーサーと対面する機会を作ってくれたフェローズに礼を述べいよいよ会談に。
有名な昭和天皇とマッカーサーの1枚
マッカーサーは当初の打ち合わせに反して、通訳1名以外を退出させ昭和天皇と自分の2人で話すように指示。「打ち合わせと違う」という天皇の側近を昭和天皇自身が制止。
2人になったところで昭和天皇は開口一番に「戦争遂行の責任は全て私にある。一切の懲罰を受けるのは日本国民ではなく私個人であることを希望する」と主張。
フェローズの意見書などから、昭和天皇には実質的な権限はなかった。ことも知っていたはずのマッカーサーはこれに感銘。昭和天皇無罪を確信したのか・・・
「これは懲罰ではない。日本再建の為に陛下の力を借りたい」と話し合いを進めます。
この昭和天皇がマッカーサーに頭を下げるシーンもまた、昭和天皇にとっては「勇敢」と言えるもので、通訳以外を退出させたからこそなのかもしれません。「人には一生のうちでどこかに一番格好いい瞬間がある」と言いますが、昭和天皇の一番格好いい瞬間はこの時。と言えるようなシーンです。
皇居からマッカーサー公邸までの移動シーン
こちらも廃墟化した東京は別世界のような光景が展開しています。
この映画、当時のレビューサイトなどによれば日本公開でのヒットとは裏腹に米国では不評で興行収入も奮わなかったそうです。前述したように太平洋戦争ではアメリカも多大な犠牲を出している中で、昭和天皇を好人物に描き責任は曖昧化。
更に恋愛パートで登場した日本軍の司令官の鹿島大将は高い地位であったことが推察されるものの、ワシントン駐在経験を持ち英語を操る知米派。フェローズとあやの恋愛にも理解があり、沖縄戦では残虐な行為を行ったことを認めつつも戦後も存命。と、鹿島大将自身は「日米開戦は望んでいなかった」ようにも見え「日本軍部悪者論」とは一線を画すような、悪役ではない日本軍高官。
昭和天皇の戦争責任の曖昧さ、また軍幹部の知米派の存在など恐らく史実にあっているのだと思いましたが、「分かりやすい悪役を必要とする意識は日本も米国も同じであり『米国で不評だったのもよく分かる』」と思いました。
一昨年に放送大学の原武史教授の「近現代の天皇制」の授業を受けました。その際と今回の映画の感想は共通しています。戦前・戦中の時代、天皇が日本の主権者であり神と崇められていて、多くの人が天皇陛下の名の元で犠牲を強いられてきた一方で、当の昭和天皇自身は不自由な生活を強いられ自分の意見も言えないような存在で、時の政権に利用され続けていた哀愁ある人物であったと感じました。
神であったのは天皇陛下自身ではなく、「神格天皇制」「天皇主権」という天皇の名を用いたシステムであり、そのシステムを成り立たされる為の生贄として天皇陛下という人物が必要であったのではないか。(映画中では「本音と建前」と表現)
近年の天皇制議論の中で「皇族の人権を制限することで成り立っている」という意見がありますが、戦前の時代は現代以上に天皇の人権が制限されていたのではないか??とこの映画を通じて改めて思いました。
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2019/5/13 20:43(JST)
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