中村歯科

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循環器疾患は肥満が長寿?

2012年05月16日 | Weblog

肥満は循環器疾患の危険因子とされている。だが近年、心不全や動脈硬化症において、肥満患者の予後が良いという報告が欧米を中心に増えており、「肥満パラドックス」として議論を呼んでいる。

東京慈恵医大循環器内科講師の小武海公明氏は今年1月、「肥満パラドックス(obesity paradox)」が日本人の心不全患者でも認められると日本循環器学会誌(Circ J)に発表した。

小武海氏らは、2007年4月~11年3月に心不全で慈恵医大附属病院に入院し、その後外来で経過観察をしている患者219人を対象に検討を実施。対象患者を体格指数(BMI)によって4群に分け、心不全イベント(総死亡+心不全による入院)の発生率を比較した。その結果、BMIが高いグループで心不全イベントが少なく、BMIが低くなるにつれてイベント数が有意に増加していた。

 肥満は交感神経を活性化させ、糖尿病や脂質異常、高血圧、心肥大など数多くの合併症を起こし、血行動態や心機能に悪影響を及ぼす。そのため、以前から循環器疾患の危険因子とされてきた。

 しかし最近、欧米の心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの患者を対象とした研究に、BMIが高い方が予後が良いという報告が増えており、議論が起きている。小武海氏は「心不全の予後に影響を与える年齢や性別といった各種の背景因子で補正しても、BMIが高い群の方が心不全イベントが少なかった」と話す。

 国内では、10年に北大大学院医学研究科循環病態内科学教授の筒井裕之氏のグループが心不全の急性増悪で入院した患者2488人の予後を検討しており、BMIが20.3よりも低い患者は23.5以上の患者よりも死亡率が高いという結果を示している。この研究に携わった北大大学院医学研究科循環病態内科学助教の絹川真太郎氏は「BMIの平均が30以上の欧米だけではなく、BMIの平均が22とされている日本でも肥満パラドックスは存在する」と言う。

ASOでも肥満パラドックス
 閉塞性動脈硬化症(ASO)でも、BMIが高い患者の方が予後が良いという現象が見られる。北関東循環器病院(群馬県渋川市)内科部長の熊倉久夫氏らは、10年に血管造影検査でASOと診断し、治療を行った709人について検討した(図2)。対象患者をBMIによって3群に分け、15年間の経過を観察して生存率を求めた。その結果、BMIが最も高い群の生存率が高く、18.5未満と最も低い群の生存率が低かった。

熊倉氏は、中性脂肪やアルブミン、フィブリノーゲン、COPDの合併などが複合的にBMIの値に影響していると考察。「BMIが低い患者では、栄養障害と炎症、動脈硬化という3つの因子がそれぞれ関連し、心血管イベントの発生を増加させているのではないか」とみる。

 だが、現段階では肥満や脂肪細胞に抗心不全効果や血管保護効果があるかどうかは明らかになっていない。そのため、「適正体重の患者では、太ると予後が良くなると考えるのは早計だ」と熊倉氏は指摘する。

 また、成人90万人のBMIと死亡数を比較した論文を挙げ(図3)、「現在の栄養事情では、BMIは24前後が適切で、それよりも低すぎても高すぎても予後が悪く、U字曲線を描くはずだ」と熊倉氏は言う。そして、国内ではBMIが全体的に低く、35以上となる肥満者は少ないことを指摘し、「日本ではBMIが24前後の患者が肥満の群に分類されてしまう。そのため、BMIが極端に低い患者群と比較され、肥満患者の予後が良いという結果になっているのではないか」と推測する。

標準体重を目指した管理を
 この他にも肥満パラドックスを示すデータについては、様々な解釈がある。例えば(1)BMIが高い群は若年で合併疾患も少なく、逆に低い群は高齢で合併疾患が多い可能性がある、(2)肥満患者の心不全は早期に発見されることが多く、BMIが高い患者は軽症例が多い可能性がある、(3)肥満の心不全患者では高血圧を合併しており、心保護的な作用を持つ薬剤を十分量投与されるため、予後が良い可能性がある─などが挙げられる。

 様々な議論はあるが、現時点でこれらの肥満パラドックスのデータから確実に言えるのは、「BMIは予後予測因子であり、BMIが低い患者には厳重な管理が必要」(小武海氏)ということだ。

 体重管理のためには、栄養管理と運動療法が重要だ。心不全の患者などでは症状の悪化とともに食欲が落ち、消化管がむくんで吸収が悪くなるため、十分な栄養状態を維持しにくくなる。そのため治療では「適切な栄養状態を保つため、悪性疾患と同様の正しい栄養管理が大切だ」と小武海氏。「標準体重を目指した栄養管理と服薬管理を徹底すべき」と絹川氏も話す。

 さらに絹川氏は「運動能を正しく評価して運動療法をする必要がある」と言う。心不全に対する運動療法の効果は一般的に認められているが、実際にはあまり行われていない。「運動が可能な患者では、末梢の筋力・筋肉量を維持するように運動療法を行うべきだ」と小武海氏は話す。


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